作品を知る

鹿は、角の枝を数えられる獣である——ドービニー・ボヌール・ヴァレンタインほか九点

牛や馬は体の大きさで値打ちを測られた。鹿は頭に付いた枝の数で測られる。九点を数えると、追われるか倒れているのが三点、静かに立つのが四点。角の枝が十二本を超えると、その鹿は王者と呼ばれる。数えることが、そのまま呼び名を決めている。

牡鹿
シャルル・フランソワ・ドービニー《牡鹿》クリーヴランド美術館蔵

木立の奥に、鹿が二頭いる

黒い線だけで刷られた森の絵である。

画面の右半分を、大きな茂みが占めている。

葉は細かい点と短い線の集まりで表され、塊として黒い。

左には細い木が数本立ち、枝が上へ伸びている。

木の下は明るく残され、白い地面が広がる。

その明るい地面と暗い茂みの境目に、鹿が二頭いる。

一頭は立ち、頭を上げている。

角が枝のように分かれ、後ろへ反り返っている。

もう一頭は、その手前で頭を下げている。

草を食んでいるように見える。

どちらも数センチの大きさしかない。

体の輪郭は、細い線を数本重ねて作られている。

顔の細部は描かれていない。

画面の下の縁には、水面らしい横線が引かれている。

右下には、逆向きの署名が刷り込まれている。

牡鹿
シャルル・フランソワ・ドービニー《牡鹿》1862年。館の記録では、クリシェ・ヴェール。版の跡は16.5×19.8センチ。番号は1925.131。クリーヴランド美術館蔵。シャルル・フランソワ・ドービニー《牡鹿》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、この一枚はガラス板を使った作り方によっている。

1853年ごろ、何人かの画家と写真愛好家が新しい方法を工夫した。

同じ図を何枚も刷るための、写真を使う方法である。

ガラス板に不透明な地を塗り、そこを鋭い道具で引っかいて図を描く。

その板を感光紙の上に置き、光を当てる。

すると図が紙に写る。

館の記録は、その手順をそう説明している。

つまりこの森と鹿は、版木にも銅板にも彫られていない。

ガラスの上の塗料を掻き落として作られている。

署名が逆向きに読めるのは、ガラスに直接書いたからである。

版の跡は16.5×19.8センチしかない。

紙のほうは17.8×20.7センチで、余白はごくわずかである。

この小さな面の中に、森の奥行きが作られている。

奥行きを作っているのは、黒い塊と白い地面の対比だけである。

茂みは真っ黒に埋められ、地面はほとんど掻かれていない。

掻いた線が多いところが暗く、少ないところが明るい。

つまり明暗は、道具を動かした回数によって決まっている。

鹿がいる場所は、ちょうどその境目である。

暗い茂みから明るい地面へ出てくるところで、二頭は止まっている。

森の絵の系譜については、バルビゾンの森で扱った。

鹿は、いつも追われているか

この一枚を出発点に、鹿の絵を九点数えていく。

鹿は、狩りの対象としてもっとも古くから描かれてきた獣である。

同時に、角のかたちが目立つために、しるしとしても使われる。

長寿を意味し、王の力を意味し、神域の獣にもなる。

先に言ってしまうと、九点のうち、鹿が追われるか倒れているのは三点である。

静かに立つか横たわっているのが四点。

一点では、長寿のしるしとして松と桃の下に置かれている。

そして一点では、鹿に翼が生えている。

前の回で牛が値打ちを見せるために横を向くことを見た。

鹿の場合、体の向きより角の枝の数が数えられる。

角が十二叉あれば、王者と呼ばれる

二点目は写真である。

王者の牡鹿
ジェームズ・ヴァレンタイン《王者の牡鹿》1870年ごろ。館の記録では、湿板ネガからの鶏卵紙プリント。画面は18.7×23.9センチ。番号は1992.333。クリーヴランド美術館蔵。ジェームズ・ヴァレンタイン《王者の牡鹿》クリーヴランド美術館蔵

暗い地面の上に、鹿が横たわっている。

体は右を下にして倒れている。

首は伸び、頭が地面に着いている。

目は閉じているように見える。

角は大きく、何本もの枝に分かれている。

その枝が、地面の上に影を落としている。

前脚は折れ曲がり、後ろ脚は伸びている。

腹のあたりが白く光っている。

まわりは草と土で、黒い粒が一面に散っている。

背景はなく、地面だけが画面を埋める。

館の記録では、これは倒れた牡鹿である。

王者の牡鹿とは、角の枝が十二本以上ある鹿を指すという。

つまり題は、角の数を数えた結果の呼び名である。

そして館は、この写真の作られ方を書いている。

当時の技術では、露光した板をすぐに現像する暗室が近くに必要だった。

だから、倒れた鹿は写真家か助手の手で並べ直された可能性が高いという。

真昼の明るい光の中で、たったいま倒れたように見せている。

館の記録は、そう読んでいる。

つまりこの姿勢は、鹿が取ったものではない。

人が整えたものである。

作者は風景と地図の写真で知られ、その会社は国内で最大になった。

1868年には女王の写真家に任じられた、と記録は続ける。

九点のうち、鹿が死んでいるのはこの一点だけである。

そして角は、倒れた体よりも大きく写っている。

地面に横たわると、角は横へ広がり、影を長く伸ばす。

立っているときには上へ向かう枝が、倒れると横へ倒れる。

写真は、その倒れた枝の広がりを画面の中央に置いている。

体の輪郭は暗く沈み、角の線だけが白く光っている。

つまりこの一枚が写しているのは、鹿というより角である。

題も「王者の牡鹿」であって、狩りの成果とは書かれていない。

狩りの画面で、鹿は跳ぶ

三点目では、鹿は追われている最中である。