牛は、値打ちを見せるために横を向く——カイプ・陳洪綬・ドーミエほか九点
九点の牛を数えると、働いている牛は二点しかなかった。三点は体の側面だけを見せ、二点は風景の中の数ミリの塊になり、一点は星座の記号になり、一点には三万フランという値段が書き込まれている。角の形が、そのまま土地の違いになっていた。

柵の前に、雄牛が一頭立っている
低い柵を背にして、牛が一頭立っている。
体は横向きで、頭だけがこちらを向いている。
毛は淡い黄褐色で、腹と脚のあたりが白い。
顔には白い筋が縦に入り、鼻先が桃色である。
角は短く、左右へ低く伸びている。
耳は横に張り出し、目は黒く丸い。
首は太く、肩から背にかけて厚みがある。
背中の線はまっすぐで、腰のあたりでわずかに落ちる。
四本の脚は短く、蹄が黒い。
尾は細く、体の右側へ垂れている。
背後には木の柵が横に走る。
その向こうには枯れた草地が広がり、左に一本の木が立つ。
空は青灰色で、雲が横に流れている。
地面には短い草と、茶色い土が見える。

館の記録では、この一点は「帰属」という言い方で登録されている。
作者はおそらくこの人だが、確定はしていない、という意味である。
題は「若い雄牛」で、それ以上の説明はない。
画面は35.3×50.5センチしかない。
しかし牛の体は、画面の横幅のほとんどを占めている。
背景は最小限で、柵と草地と空だけである。
この構図は、牛の姿を見せることだけを目的にしている。
顔をこちらへ向けているのも、正面と側面を同時に見せるためである。
家畜の肖像という言い方がある。
十九世紀には、品評会に出す家畜を絵に描かせることが行われていた。
体の長さ、背の高さ、肉の付き方を、一枚の絵で示すためである。
この一点がその種の絵かどうかは、館の記録に書かれていない。
書かれていないので、決めつけることはできない。
ただ、構図の作り方はその型に近い。
柵は、牛の背の高さを測る目盛りのようにも見える。
草地と空は、体の輪郭を切り抜くための地になっている。
牛の毛の色にも、影がほとんど付けられていない。
色の濁りを避けることが、毛並みを見せる条件になる。
牛は、何のために描かれるか
この一点を出発点に、牛の絵を九点数えていく。
牛は、人の暮らしを支えてきた獣である。
畑を耕し、荷を引き、乳を出し、肉になる。
つまり牛は、はじめから用途を持って人のそばにいる。
そのぶん、絵の中の牛は「持ちもの」として描かれやすい。
先に言ってしまうと、九点のうち、牛が働いている場面は三点である。
三点では、牛は風景の中の点になっている。
一点では、牛は人を乗せている。
一点では星座になり、一点では風刺の道具になる。
前の回で馬が人を高くするための台になることを見た。
牛の場合、人を高くはしない。
牛は、人の財産の大きさを示すために描かれる。
川辺の牛は、光を受けるためにいる
二点目は、十七世紀のオランダの板絵である。

横長の小さな板である。
画面の上半分を、雲の多い空が占めている。
空は上のほうが暗く、地平線に近づくにつれ明るくなる。
その明るい帯の中に、遠い町の輪郭が浮かぶ。
尖った塔がひとつ、細く立っている。
右には川があり、帆をあげた小舟が二艘見える。
画面の下、手前の岸に、牛が集まっている。
一頭は立ち、こちらへ体の側面を見せている。
体は茶色で、背中に光が当たっている。
その隣に、白い牛が横たわっている。
さらに二頭が、地面に伏せている。
牛の左には、男がひとり立っている。
黒い上着に帽子をかぶり、杖を持っている。
顔は牛のほうを向いている。
館の記録は、題と材料と寸法だけを書いている。
見えるのは、光の配り方である。
いちばん明るいのは空の下の帯で、次に明るいのが牛の背中である。
人の姿は、牛より暗く塗られている。
この画家の光の扱いについては、金色の光で扱った。
牛は、その光を受け止める面として置かれている。
牛の姿勢も、光の受け方で選ばれている。
立っている一頭は、背中の広い面をこちらへ向けている。
伏せている三頭は、体を丸め、面積を小さくしている。
明るい面をひとつだけ作り、残りを沈ませる。
その配分が、この小さな板の奥行きを作っている。
もし四頭とも立っていたら、明るい面が四つできてしまう。
一頭だけ立たせるという選択が、画面の設計そのものである。
館の記録は、そこまで書いていない。
書いてあるのは、題と、板に油彩であることと、寸法だけである。
牛飼いはいるが、牛は遠い
三点目では、牛が見えにくくなる。

横長の風景である。
画面の下半分は、明るい緑の畑と草地である。
中ほどを、白っぽい道が斜めに横切る。
その向こうに、木の茂みが濃い緑の塊をつくる。
さらに奥には、丘の斜面が広がる。
斜面には畑の区画が並び、家の屋根がいくつか見える。
丘の上には、細い木が何本も立っている。
空は水色で、白い雲が横に伸びる。
そして道のあたりに、小さな人影と、牛の影がある。
大きさは数ミリしかない。
体の色は茶色く、輪郭は数回の筆で置かれている。
顔も、角も、脚も見分けられない。
館の札は「農場」「牛」「風景」の三つである。
つまり館は、この数ミリの塊を牛として登録している。
題も「牛飼い」である。
しかし画面の主題は、明らかに丘と畑である。
牛と牛飼いは、その広がりの中の目印として置かれている。
この画家が町と畑をどう描き分けたかは、町と畑で扱った。