作品を知る

犬の絵は、たいてい人の絵である——ホルツィウス・ドルーエ・ラリックほか九点

黒いスパニエル犬を連れた少年
フランソワ=ユベール・ドルーエ《黒いスパニエル犬を連れた少年》1767年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。楕円形で64.5×53.3センチ。番号は49.7.48。メトロポリタン美術館蔵。フランソワ=ユベール・ドルーエ《黒いスパニエル犬を連れた少年》メトロポリタン美術館蔵

楕円形の画面である。

暗い茶色の背景から、少年の姿が浮かび上がる。

髪は白く粉をふり、大きく膨らんでいる。

顔は丸く、頬が赤い。

目はこちらをまっすぐ見ている。

赤茶色の上着を着て、襟と袖口に白いレースがのぞく。

その両腕で、黒い小犬を抱えている。

犬は少年の胸に押し付けられ、頭だけが上を向く。

毛は長く、耳が垂れ、鼻先が黒く光る。

犬の首には、緑色の紐が掛かっている。

紐の先には房が下がり、少年の手の下へ落ちている。

少年の指は、犬の胸のあたりを押さえている。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

だから、この少年が誰なのかは書かれていない。

分かるのは、犬に紐が付いていることである。

紐を持っているのは、少年の手である。

九点のうち、犬に紐や首輪が付いているのは、この一点だけである。

楕円という画面の形も効いている。

四隅がないので、視線は中央の二つの頭に集まる。

少年の顔と犬の顔が、上下に近く並んでいる。

顔の大きさもさほど変わらない。

少年の頬は赤く、犬の毛は黒い。

明るい面と暗い面が、抱き合う形で接している。

犬の毛が黒いのは、たまたまではないかもしれない。

ただし、それを裏づける記述は館の記録にない。

犬は、婦人の足もとで小さくなる

四点目では、犬はさらに小さくなる。

犬を連れた女性の肖像
ヘンドリック・ヘリッツゾーン・ポット《犬を連れた女性の肖像》1635年ごろ。館の記録では、板に油彩。額なしで41.8×32センチ。番号は2011.47。クリーヴランド美術館蔵。ヘンドリック・ヘリッツゾーン・ポット《犬を連れた女性の肖像》クリーヴランド美術館蔵

縦長の小さな板絵である。

額なしで41.8×32センチしかない。

緑がかった壁の前に、女がひとり立っている。

黒い衣を着て、肩に茶色の毛皮を掛けている。

首には大きな白い襞襟が幾重にも巻かれている。

頭には薄い白い布の帽子。

袖口には、細かい透かしのレースが付く。

右手には、宝石の付いた金の指輪がはっきり描かれている。

左には卓があり、赤い布が掛けられている。

卓の上には紙のようなものが載る。

そして画面の右下、女の裾のそばに、白い犬が一匹いる。

体は小さく、床に伏せている。

顔は左を向き、女の足もとを見ている。

大きさは、女の靴とさほど変わらない。

館の記録では、この女が誰なのかは分かっていない。

黒い高価な布と毛皮、糊の効いた襞襟、宝石の指輪。

記録は、その装いを一つずつ書き出している。

そして構図が右に大きく偏っていることから、対になる肖像があったはずだと読む。

おそらく夫を描いたもので、まだ見つかっていないという。

館はさらに、床の木の箱についても書いている。

中に燃える炭を入れた皿を収める箱で、初期の暖房具だという。

つまり犬は、その暖かい箱のそばに伏せている。

肖像の主役は装いであり、犬は室内の設えの一部である。

板の裏についても、記録は書いている。

裏面には暗い楕円が塗られ、ある画廊の名が薄い赤で記されている。

その名の下には、別の文字も見えるという。

1875年に修復されたという意味の一行である。

赤外線で見ると読み取れると記録は書く。

つまりこの板は、表に女と犬を、裏に持ち主と修復の記録を持っている。

犬が伏せている面の反対側に、この絵が渡り歩いた道のりが書かれている。

一家の前を、テリアが横切る

五点目は、家族の肖像である。

テリアを連れた無名の一家の肖像
イギリス、19世紀《テリアを連れた無名の一家の肖像》1825年から1835年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は103.3×80.5センチ。番号は1980.61.13。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。テリアを連れた無名の一家の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

緑の壁の部屋に、九人が集まっている。

壁には額入りの絵が何枚も掛かる。

右手には窓があり、赤いカーテンが下がる。

中央に、緑の服の女が座っている。

その膝の上に、黄色い籠がある。

まわりに、子どもたちと大人が立ち並ぶ。

青い服の女、黒い上着の男、赤い服の少女。

いちばん右の少女は、本を持っている。

そして画面の下、床の上を、白い犬が一頭歩いている。

体は細く、脚が長い。

顔は左を向き、口を少し開けている。

尾はまっすぐ後ろへ伸びている。

犬だけが、家族の列と直角の向きに進んでいる。

館の記録では、作者は「イギリス、19世紀」とだけ記されている。

名前が分かっていないということである。

そして題も「無名の一家の肖像」である。

九人の名も、犬の名も、記録には残っていない。

残っているのは、犬がテリアであるという一語だけである。

人の名が消えたあとに、犬の種類の名が残っている。

壁に掛かった額の中身も見ておきたい。

風景らしいものが二枚、人物らしいものが一枚見える。

いずれも、この画面の中では数センチの大きさしかない。

絵の中に絵が描かれ、その絵の主題までは分からない。

分かるのは、この一家が絵を掛ける部屋を持っていたことである。

そして、その部屋に犬を入れていたことである。

犬が床を歩いているのは、追い出されていないということでもある。

作者名の欄が時代と地域で埋められる場合については、無名の手でも扱った。

犬は、取り引きの品になる

六点目で、犬は人と人のあいだに置かれる。

犬の交換
リチャード・ノリス・ブルック《犬の交換》1881年。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は119.6×167.2センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。リチャード・ノリス・ブルック《犬の交換》スミソニアン協会蔵

横長の大きな画面である。

左に、石と板で作られた小屋が立つ。

屋根は低く、庇が張り出している。

小屋の前と庭に、人が八人ほどいる。

左の男は腰掛けに座り、身をかがめている。

戸口には女が立ち、その足もとに小さな子がいる。

中央に、白い上着の男が椅子に腰掛けている。

その男の前に、黒い犬が座っている。

犬は顔を上げ、男のほうを向いている。

左手前には、白と茶の犬がもう一頭立っている。

こちらは首を伸ばし、黒い犬のほうを見ている。

二頭の犬が、人々の輪の中央に置かれている。

地面には籠や桶が転がっている。

館の記録には、題と材料と寸法しか書かれていない。

だから、この場面が実際の出来事なのかどうかは分からない。

分かるのは、題が「犬の交換」であることだけである。

題に従って画面を見ると、二頭の犬が取り引きの対象になっている。

人の輪は、その二頭を囲むように作られている。

九点のうち、犬が数えられる商品として扱われているのは、この一点である。