犬の絵は、たいてい人の絵である——ホルツィウス・ドルーエ・ラリックほか九点

楕円形の画面である。
暗い茶色の背景から、少年の姿が浮かび上がる。
髪は白く粉をふり、大きく膨らんでいる。
顔は丸く、頬が赤い。
目はこちらをまっすぐ見ている。
赤茶色の上着を着て、襟と袖口に白いレースがのぞく。
その両腕で、黒い小犬を抱えている。
犬は少年の胸に押し付けられ、頭だけが上を向く。
毛は長く、耳が垂れ、鼻先が黒く光る。
犬の首には、緑色の紐が掛かっている。
紐の先には房が下がり、少年の手の下へ落ちている。
少年の指は、犬の胸のあたりを押さえている。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
だから、この少年が誰なのかは書かれていない。
分かるのは、犬に紐が付いていることである。
紐を持っているのは、少年の手である。
九点のうち、犬に紐や首輪が付いているのは、この一点だけである。
楕円という画面の形も効いている。
四隅がないので、視線は中央の二つの頭に集まる。
少年の顔と犬の顔が、上下に近く並んでいる。
顔の大きさもさほど変わらない。
少年の頬は赤く、犬の毛は黒い。
明るい面と暗い面が、抱き合う形で接している。
犬の毛が黒いのは、たまたまではないかもしれない。
ただし、それを裏づける記述は館の記録にない。
犬は、婦人の足もとで小さくなる
四点目では、犬はさらに小さくなる。

縦長の小さな板絵である。
額なしで41.8×32センチしかない。
緑がかった壁の前に、女がひとり立っている。
黒い衣を着て、肩に茶色の毛皮を掛けている。
首には大きな白い襞襟が幾重にも巻かれている。
頭には薄い白い布の帽子。
袖口には、細かい透かしのレースが付く。
右手には、宝石の付いた金の指輪がはっきり描かれている。
左には卓があり、赤い布が掛けられている。
卓の上には紙のようなものが載る。
そして画面の右下、女の裾のそばに、白い犬が一匹いる。
体は小さく、床に伏せている。
顔は左を向き、女の足もとを見ている。
大きさは、女の靴とさほど変わらない。
館の記録では、この女が誰なのかは分かっていない。
黒い高価な布と毛皮、糊の効いた襞襟、宝石の指輪。
記録は、その装いを一つずつ書き出している。
そして構図が右に大きく偏っていることから、対になる肖像があったはずだと読む。
おそらく夫を描いたもので、まだ見つかっていないという。
館はさらに、床の木の箱についても書いている。
中に燃える炭を入れた皿を収める箱で、初期の暖房具だという。
つまり犬は、その暖かい箱のそばに伏せている。
肖像の主役は装いであり、犬は室内の設えの一部である。
板の裏についても、記録は書いている。
裏面には暗い楕円が塗られ、ある画廊の名が薄い赤で記されている。
その名の下には、別の文字も見えるという。
1875年に修復されたという意味の一行である。
赤外線で見ると読み取れると記録は書く。
つまりこの板は、表に女と犬を、裏に持ち主と修復の記録を持っている。
犬が伏せている面の反対側に、この絵が渡り歩いた道のりが書かれている。
一家の前を、テリアが横切る
五点目は、家族の肖像である。

緑の壁の部屋に、九人が集まっている。
壁には額入りの絵が何枚も掛かる。
右手には窓があり、赤いカーテンが下がる。
中央に、緑の服の女が座っている。
その膝の上に、黄色い籠がある。
まわりに、子どもたちと大人が立ち並ぶ。
青い服の女、黒い上着の男、赤い服の少女。
いちばん右の少女は、本を持っている。
そして画面の下、床の上を、白い犬が一頭歩いている。
体は細く、脚が長い。
顔は左を向き、口を少し開けている。
尾はまっすぐ後ろへ伸びている。
犬だけが、家族の列と直角の向きに進んでいる。
館の記録では、作者は「イギリス、19世紀」とだけ記されている。
名前が分かっていないということである。
そして題も「無名の一家の肖像」である。
九人の名も、犬の名も、記録には残っていない。
残っているのは、犬がテリアであるという一語だけである。
人の名が消えたあとに、犬の種類の名が残っている。
壁に掛かった額の中身も見ておきたい。
風景らしいものが二枚、人物らしいものが一枚見える。
いずれも、この画面の中では数センチの大きさしかない。
絵の中に絵が描かれ、その絵の主題までは分からない。
分かるのは、この一家が絵を掛ける部屋を持っていたことである。
そして、その部屋に犬を入れていたことである。
犬が床を歩いているのは、追い出されていないということでもある。
作者名の欄が時代と地域で埋められる場合については、無名の手でも扱った。
犬は、取り引きの品になる
六点目で、犬は人と人のあいだに置かれる。

横長の大きな画面である。
左に、石と板で作られた小屋が立つ。
屋根は低く、庇が張り出している。
小屋の前と庭に、人が八人ほどいる。
左の男は腰掛けに座り、身をかがめている。
戸口には女が立ち、その足もとに小さな子がいる。
中央に、白い上着の男が椅子に腰掛けている。
その男の前に、黒い犬が座っている。
犬は顔を上げ、男のほうを向いている。
左手前には、白と茶の犬がもう一頭立っている。
こちらは首を伸ばし、黒い犬のほうを見ている。
二頭の犬が、人々の輪の中央に置かれている。
地面には籠や桶が転がっている。
館の記録には、題と材料と寸法しか書かれていない。
だから、この場面が実際の出来事なのかどうかは分からない。
分かるのは、題が「犬の交換」であることだけである。
題に従って画面を見ると、二頭の犬が取り引きの対象になっている。
人の輪は、その二頭を囲むように作られている。
九点のうち、犬が数えられる商品として扱われているのは、この一点である。