作品を知る

犬の絵は、たいてい人の絵である——ホルツィウス・ドルーエ・ラリックほか九点

紙の隅に、犬の頭だけがある

七点目は、小さな習作である。

習作の紙葉、座る男・犬の頭部・座る女
クロード・ジョセフ・ヴェルネ《習作の紙葉、座る男・犬の頭部・座る女》1700年代。館の記録では、赤チョーク、黒チョーク、ペンと褐色インク。紙は12.4×12.7センチ。番号は2003.265。クリーヴランド美術館蔵。クロード・ジョセフ・ヴェルネ《習作の紙葉、座る男・犬の頭部・座る女》クリーヴランド美術館蔵

ほぼ正方形の小さな紙である。

一辺は12センチ余りしかない。

紙の上に、三つの姿が離れて描かれている。

左には、赤いチョークで男が座っている。

肘を膝に置き、うつむいている。

右には、褐色のインクで女が座っている。

膝の上で両手を組み、こちらを見ている。

そして二人のあいだ、紙の上のほうに、犬の頭がある。

黒いチョークで描かれている。

耳は垂れ、鼻先が右を向く。

目のあたりに濃い影が置かれている。

首から下は描かれていない。

胴も脚も尾もなく、頭だけが宙に浮いている。

館の記録では、作者は二十歳でイタリアへ渡り、二十年をそこで過ごした。

ローマ近郊の風景や、荒れた海の想像図を描いたという。

そして自作の中の人物は、写生にもとづいて描かれた。

ここにある三つの姿も、そうした写生である。

別々の時に、別々の画材で描かれたものが一枚に集まっている。

記録は、それらが合わさって当時の街のようすを垣間見せる、と読む。

犬の頭が首から切れているのは、失敗ではない。

必要なところだけを写した結果である。

犬は、金の模様になる

最後の二点で、犬は生きものをやめる。

猟犬の皿
ルネ・ラリック《猟犬の皿》1913年から21年ごろ。館の記録では、ガラス。全体は2×21センチ。番号は2011.121.1。クリーヴランド美術館蔵。ルネ・ラリック《猟犬の皿》クリーヴランド美術館蔵

透明なガラスの皿である。

深さは2センチしかなく、径は21センチある。

皿の中央に、金色の模様が広がっている。

模様は放射状で、外へ向かって尖った形が繰り返される。

近づいて見ると、その尖った形が犬の体であることが分かる。

六頭の犬が、皿の中心を取り囲んで走っている。

首を前へ伸ばし、脚を折りたたみ、体を細く伸ばしている。

一頭ずつの輪郭が、隣の一頭の輪郭に接している。

そのため、全体としては星形の模様に見える。

縁のほうには、鳥の形が並んでいる。

翼を開いた形が、皿の周囲をぐるりと回る。

館の記録では、題は狩りと犬を意味する二語である。

金彩の装飾は狩りを思わせるためのものだという。

六頭の猟犬が中央を囲み、獲物の鳥が縁を飾る。

館の記録は、そう書いている。

つまり皿の上で、狩りは終わることのない円になっている。

ガラスという材料の性質も効いている。

透明な地に金の模様を置くと、光が下から抜けてくる。

皿を持ち上げれば、犬の輪郭の外側が明るく光る。

置けば、卓の色が犬の体の中に透けて見える。

同じ模様が、置き方によって黒くも白くもなる。

深さ2センチの皿は、料理を盛るというより、菓子や果物を載せる形である。

載せれば、走る犬は少しずつ隠れていく。

二頭の猟犬
チャールズ・ケアリー・ラムジー《二頭の猟犬》1912年。館の記録では、ブロンズ。一頭ずつ86.4×43.2センチ。番号は1923.727。クリーヴランド美術館蔵。チャールズ・ケアリー・ラムジー《二頭の猟犬》クリーヴランド美術館蔵

ブロンズの犬が二頭、並んで座っている。

どちらも同じ姿勢である。

前脚をまっすぐ立て、後ろ脚を折り、背を伸ばしている。

頭は高く上げられ、正面を向く。

鼻先は細く長く、耳は頬に沿って垂れる。

胸の筋が浅く彫られ、あばらの位置が分かる。

尾は体に沿って前へ回り込む。

台座は四角く、渦を巻いた装飾が付く。

一頭の高さは86.4センチある。

大型犬が実際に座ったときの背丈に近い。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

二頭がどこに置かれていたのかは分からない。

分かるのは、同じ形が二つ作られたことである。

門柱の左右に据えるような、対の形をしている。

そして二頭は、互いを見ていない。

どちらも同じ方向、正面を向いている。

生きた犬なら、二頭が同じ姿勢で並ぶことは長く続かない。

止まった姿勢を選ぶことで、この二頭は装飾になっている。

台座の渦巻きも、犬の体の曲線と釣り合うように彫られている。

犬の解剖と、家具の装飾が、一つの塊の中でつながっている。

数えてみると

九点を並べ直す。

犬だけが描かれているのは、三点である。

二匹の子犬、紙の隅の犬の頭、そして門を守るような二頭のブロンズ。

人の肖像の中にいるのは、四点である。

版画の少年、油彩の少年、婦人の足もと、そして一家の前。

取り引きの品になっているのが一点、皿の模様になっているのが一点である。

もう一つ数えておく。

九点のうち、犬が走っている姿は、ガラスの皿の上にしかない。

残る八点では、犬は座るか、伏せるか、立ち止まるか、頭だけである。

走る獣として知られながら、絵の中の犬はほとんど動いていない。

言えることと、言えないこと

言えるのは、犬が人の説明のために使われやすいということである。

忠実さを説く銘文の隣に置かれ、装いを引き立てる床に置かれ、一家の前を横切る。

九点のうち四点で、犬は人を説明する役をしている。

これは猫とはっきり違う。

猫は人の腕に抱かれても、人を説明していなかった。

猫は自分の勝手をしていた。

言えないのは、犬が従順に描かれているという話である。

一家の肖像の白い犬は、家族の列と直角に歩いていた。

婦人の足もとの犬も、婦人ではなく別の方向を見ていた。

説明の役を負わされながら、視線だけは外れている。

最後に、はじめの一葉へ戻る。

二匹の子犬には、飼い主も、紐も、背景もなかった。

説明する相手がいないので、犬は犬のまま重なっていた。

黒い一匹が白い一匹の背に顎を載せている。

九点を数え終えて残るのは、その重なりのほうである。

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