龍は、うねる胴だけで成り立つ——デューラー・ラッカム・モリスほか九点
木の根と、竜の体が同じ線でできている
四点目は、本の挿絵である。

灰色と緑を帯びた画面である。
画面の右半分を、太い木の幹が占める。
幹はねじれ、こぶが幾つも盛り上がる。
根は地面を這い、細い枝が上へ伸びる。
左には小川が流れ、水面に細かい波が立つ。
奥には城のような建物が霞んでいる。
そして画面の中ほど、根のあいだに、緑の獣がいる。
体は細長く、幹に巻き付くようにうねる。
背には低い突起が並ぶ。
前脚が二本、地面を押さえる。
頭は左を向き、口を開けている。
体の緑は、木の葉の緑よりわずかに明るい。
館の記録では、作者は当時もっともよく知られた本の挿絵画家のひとりである。
その様式は、入り組んだ線と繊細な彩色を組み合わせた。
そうして、時を超えた、謎めいた、ときに暗い場面を作ったという。
そして館は、この一枚の要点を書いている。
獣のしなやかな体が、木のこぶだらけの幹と根と枝の線と響き合う。
小川のさざなみの線とも響き合う。
それが、この獣と周囲の自然との一体を際立たせているという。
館の記録は、そう読む。
つまりこの竜は、風景から生まれたように描かれている。
同じ画家の別の下絵は、猫の回で見た。
そちらでは、鸚鵡と猫が向かい合っていた。
こちらでは、獣と木が溶け合っている。
館の記録によれば、この竜の意匠はさらに古い挿絵から来ている。
前年に出た本の、章の題の上に置かれた白黒の小さな図である。
つまり同じ形が、白黒の小図から色付きの一枚へ移されている。
挿絵の仕事では、そうした使い回しが行われる。
一度作った形は、判型を変えて何度でも使える。
竜は、その使い回しに向いた形でもある。
決まった輪郭さえあれば、大きくも小さくも描ける。
織物の中で、龍は孔雀と組み合う
五点目は、羊毛の織物である。

大きな布である。
206.6×174.7センチある。
地は深い緑で、そこに桃色と青の模様が並ぶ。
模様は上下左右にくり返される。
一つの単位の中に、鳥が二羽向かい合う。
長い尾を持ち、羽を広げている。
孔雀である。
その下に、別の獣が二頭、背中合わせにいる。
体は細長く、尾が渦を巻く。
前脚が短く、頭が横を向く。
龍である。
孔雀と龍のあいだには、大きな葉と花が配される。
葉の縁は波打ち、先が尖る。
館の記録では、作者は中世の壁掛けがそうであったように働く織物を作ろうとした。
石の冷たい部屋に暖かさをもたらす布である。
厚い羊毛に、落ち着いた色で大胆に構成したこの一点が、その理想にもっとも近づいたという。
そして館は、同じ年の出来事にも触れている。
作者はロンドンの商人の店を訪ね、そこで再現された遠い都の部屋を見た。
朱と金と群青ばかりで、たいへん美しく、物語の世界に入るようだったと語ったという。
その部屋が、ここに見える異国風の意匠を部分的に生んだ。
館の記録は、そう説明している。
この意匠は客のあいだでもっとも人気があり、五通りの配色で売られたという。
つまりこの龍は、五種類の色で存在したことになる。
くり返される模様の作りも見ておきたい。
一つの単位が上下左右に反復するので、龍は布の中で何度も現れる。
数えれば、この一枚の中に龍は十数頭いる。
しかしどの一頭も、同じ形をしている。
織物の模様では、個体の違いは作れない。
同じ形が並ぶことが、そのまま装飾になる。
孔雀のほうも同じである。
生きものの姿を借りながら、生きものらしさは消されている。
ここから、龍のいない四点
六点目からは、龍の字だけが残る。

三幅の掛幅が並んでいる。
いずれも上下に濃紺の裂が付き、中央に絹の画面がある。
右幅には、桜らしい木が枝を広げる。
花は薄紅で、細かい点として散る。
中幅には、白い滝が縦に落ちる。
岩は薄い墨で、水は白く抜かれている。
左幅には、紅葉した木が茂る。
葉は赤と橙で、川の上に垂れかかる。
その川面にも、赤い葉が浮かぶ。
館の題は、三つの場所の名を並べている。
滝の名、山の名、そして川の名である。
その川の名に、竜の字が入っている。
しかし三幅のどこにも、龍はいない。
描かれているのは、桜と滝と紅葉である。
館の札は「男性」「川」「滝」「花」「山」の五つで、龍は入っていない。
つまり龍は、地名の中にだけいる。
九点のうち、龍が地名になっているのは、この一点である。
三幅対という形も効いている。
三つの場所を一組にして掛ける。
滝と山と川、つまり水と土と水である。
季節でいえば、桜の春と、紅葉の秋が両端に来る。
中央の滝は、季節を持たない。
その並べ方の中で、川の名だけが獣の字を含んでいる。
名前の由来を、絵は説明しない。
説明しないまま、その名を題として掲げている。
海の上に立ち上がる柱も、竜と呼ばれる
七点目と八点目では、龍の字が風に移る。