龍は、うねる胴だけで成り立つ——デューラー・ラッカム・モリスほか九点
誰も見たことのない獣を九点数えた。姿があるのは五点で、翼を持つのはそのうち三点にすぎない。残る四点に龍はいない。川の名、二つの風の名、虫の名として、字だけが画面の外に残っていた。翼も脚も欠けることがあるが、うねる胴だけは五点すべてにあった。

槍が、獣の口を貫いている
木版の縦長の画面である。
中央に、白い馬が立っている。
前脚を高く上げ、首を左へ曲げている。
たてがみは細い線で幾筋にも分かれる。
その背に、鎧をつけた男が座っている。
兜には大きな羽根飾りが立ち、後ろへ長く流れる。
甲冑の板が肩から腕、腿へと重なる。
右手に長い槍を握り、まっすぐ下へ突き出している。
槍の先は、馬の足もとへ届いている。
その足もとに、獣が横たわっている。
体は細長く、蛇のようにうねる。
背には棘のような突起が並ぶ。
前脚には水かきのある指が付いている。
翼が背から出て、膜が張られている。
首は長く、頭が上を向く。
口が開き、そこに槍が刺さっている。
地面には、骨が数本転がっている。

館の記録では、この聖人の伝説は中世を通じて広く知られていた。
戦う聖人は、騎士の階層にとりわけ好まれたという。
ここでは聖人が、光る板金の鎧をまとった理想の騎士として描かれる。
そして竜は悪のしるしである。
この種の聖人は、竜や悪魔を殺すことで武勇を示す姿でよく表される。
騎士の遊びに親しんだ当時の人々にとって、こうした物語には特別な魅力があった。
善が悪に勝つことを示していたからである。
館の記録は、そう説明している。
つまりこの竜は、殺されるために描かれている。
そして竜の体には、寄せ集めの痕跡がある。
蛇の胴、蝙蝠の翼、鳥の脚、犬のような頭。
いずれも実際の生きものから借りた部品である。
見たことのない獣を作るには、見たことのある部品を組み合わせるしかない。
木版の線は、その部品ごとに向きを変えている。
鱗のところは細かい弧、翼の膜のところは長い平行線。
一枚の版の中で、彫りの手つきが切り替わっている。
紙は21.1×14.3センチしかない。
手に持って見る大きさの中に、その切り替えが詰め込まれている。
龍は、どこにいるか
この一枚を出発点に、龍の絵を九点数えていく。
龍は、生きていない獣である。
誰も見たことがないのに、東西のどちらにも姿がある。
見たことがないぶん、形は自由に変わる。
そして、名前だけが別のものに移りやすい。
先に言ってしまうと、九点のうち、龍の姿が描かれているのは五点である。
残る四点に、龍はいない。
一点では川の名に、二点では渦を巻く風の名に、一点では虫の名に、その字が入っている。
前の回で獅子がたてがみと開いた口でできていることを見た。
獅子には、少なくとも実物がいた。
龍にはいない。
それでも龍の形には、はっきりした決まりがある。
金貨の裏に、同じ場面が刻まれる
二点目は、直径2.2センチの金貨である。

金貨の表には、横顔がある。
短い巻き毛の男の頭部で、首から下は月桂の枝で終わる。
まわりには文字が円く並ぶ。
下には1817の数字が刻まれている。
裏には、馬に乗った人物がいる。
馬は前脚を上げ、後ろ脚で立ち上がる。
乗り手はほとんど裸で、頭に兜だけをかぶる。
右腕を高く上げ、短い剣を握っている。
馬の足の下に、獣が倒れている。
翼と、うねる尾が見分けられる。
竜である。
図の外側には、文字を刻んだ帯が回る。
館の記録では、この金貨は貨幣制度の改まった年に流通しはじめた。
造幣局は塔から新しい場所へ移り、蒸気の機械が据えられた。
そして二十一シリングの旧貨に代わって、この一ポンド貨が作られた。
意匠したのは、この作者である。
館の記録は、その経緯も書いている。
造幣局長は、この人が彫った聖人と竜の浮き彫りに強い感銘を受けた。
そこで英国へ招き、新しい貨幣の意匠を任せたという。
しかし法律上の理由で主任彫刻師には任じられず、そこから争いが始まった。
館の記録は、そう続ける。
つまり、この小さな竜が人を国境を越えて動かした。
そして館は、乾いた一行も添えている。
表の王の肖像は、戯画になっているという。
貨幣に彫られる顔については、権力の顔で扱った。
径2.2センチという大きさも考えておきたい。
一円玉より小さい面に、馬と人と竜が収まっている。
竜の全長は、数ミリしかない。
それでも翼と尾は彫り分けられている。
金という材料は柔らかく、細かい型が写りやすい。
そして流通する貨幣は、手から手へ渡って擦り減る。
彫りの深いところだけが、最後まで残る。
竜の尾の渦は、擦り減りに耐える形でもある。
刃の付け根に、金の龍がからむ
三点目は、短い剣である。

細く反った刃を持つ剣である。
刃は灰色に光り、先へ向かって細くなる。
柄は象牙で、乳白色をしている。
柄の先端は二つに分かれ、耳のように張り出す。
柄と刃の境には、金の帯が巻かれている。
その金の面に、細い線で形が彫られている。
うねる体、開いた口、渦を巻く尾。
龍である。
金の中に、青と緑の石が点々と嵌め込まれている。
柄の頭には、赤い石が一つ載る。
館の札は「鳥」と「龍」の二つである。
つまり、この金の装飾には鳥と龍が組み合わされている。
材料の欄には、鋼、金、海象の牙、銀、トルコ石、真珠、ルビーが並ぶ。
七種類の材料が、全長59.3センチの一本に集まっている。
そのうち龍は、金の面の上の線でできている。
九点のうち、龍がもっとも小さく彫られているのは、この一点である。
そして龍は、握るところと切るところの境目にいる。
柄と刃のあいだは、力のかかる場所である。
そこを金の帯で締め、装飾を施している。
つまり装飾は、補強を兼ねている。
象牙の柄は白く、金の帯は黄色く、刃は灰色である。
三つの色の境に、龍が置かれている。
材料の切り替わる場所に、獣を彫る。
その置き方は、剣に限らず器物によく見られる。