作品を知る

遠いものは、七点で薄くなる——雪舟の周辺・王翬・レーンほか九点

空気の層を通ると、色が抜けて輪郭がぼやける。九点で数えると、七点で遠景が薄く描かれていた。東アジアの五点は薄い墨で距離を作る。同じ題の作品が、三百年を隔てて二点並んだ。手前と奥の境目は、いずれも水か霧で作られていた。

遠浦帰帆(瀟湘八景より)
雪舟等楊《遠浦帰帆(瀟湘八景より)》クリーヴランド美術館蔵

同じ題の絵が、三百年を隔てて並ぶ

一枚の掛幅に、遠い岸が描かれている。

画面は143.6×72.7センチ。

表装を含めると251.1×90.3センチになる。

二メートル半である。

画面の下のほうに、松の木が数本ある。

墨は濃く、葉が点で示される。

その左に、屋根らしい形が小さく見える。

中ほどには、水面がある。

水は白いまま残されている。

その上に、細い線が横に走る。

舟の帆である。

小さく、輪郭だけである。

さらに奥には、低い岸が薄く伸びる。

いちばん上は、ほとんど何も描かれていない。

絹の地が、そのまま空になっている。

館の記録の題によれば、遠い岸へ帰る帆である。

八つの景を集めた主題の一つである。

館の記述によれば、この一幅は八幅一組の一つだった。

そして、組の他の作品は別の二館にあるという。

館は、その館の名も書いている。

つまり、組物がばらばらになっている。

遠浦帰帆(瀟湘八景より)
雪舟等楊に帰属《遠浦帰帆(瀟湘八景より)》十五〜十六世紀。館の記録では、八幅一組のうちの掛幅。絹に墨と色。画面143.6×72.7センチ。表装を含めて251.1×90.3センチ。番号は2015.589。クリーヴランド美術館蔵。雪舟等楊《遠浦帰帆(瀟湘八景より)》クリーヴランド美術館蔵

遠景とは、画面のいちばん奥である。

そこにあるものは、小さく、薄く、輪郭だけになる。

だが、遠景がなければ画面に奥行きが出ない。

九点を並べて、その扱いを数えたい。

同じ題が、二点あった

集めかたは、館の記録の題によっている。

遠景、遠望、遠山、水平線にあたる語が入るものを拾った。

九点のうち、東アジアの作品が五点である。

これは、これまでの回で最も高い比率に近い。

そして、同じ題の作品が二点あった。

いま見た掛幅と、日本の画帖の一葉である。

後者は、画面が29.5×49センチ。

掛幅に改装されていて、全体は129×67センチになる。

画面の右のほうに、低い岸と木立がある。

その左に、広い水面が広がる。

水の上に、帆が三つか四つ見える。

いずれも小さく、白い。

奥には、低い山が霞んで並ぶ。

館の記録の題は、先の掛幅と同じである。

制作は1788年。

先の掛幅より、三百年ほど後になる。

つまり、同じ主題が三百年にわたって描かれ続けた。

この画家の別の一葉は、市を扱った回でも取り上げた。

同じ八景の、別の景である。

遠浦帰帆(瀟湘八景より)
谷文晁《遠浦帰帆(瀟湘八景より)》1788年。館の記録では、画帖の一葉を掛幅に改装。紙に墨と色。画面29.5×49センチ。全体129×67センチ。番号は1980.188.3。クリーヴランド美術館蔵。谷文晁《遠浦帰帆(瀟湘八景より)》クリーヴランド美術館蔵

遠い山は、薄い墨で描かれる

東アジアの三点を見たい。

一点目は、掛幅である。

画面は79.6×39.4センチ。

軸端まで含めると215.8×61.6センチになる。

画面の下のほうに、竹と岩がある。

竹は細く、上へ伸びる。

葉は鋭い形で、数枚ずつ付く。

岩は輪郭線で描かれ、内側に点が打たれる。

その上、画面の中ほどに、水面がある。

さらに上に、低い山が横に伸びる。

山は薄い墨で、輪郭だけである。

いちばん上には、書き込みが並ぶ。

行数は十行を超える。

館の記述によれば、この画家は先人の絵を写し続けた。

そして、ある画家の風景を好み、何度も写したという。

しかも、写しには銘記まで含まれた。

その銘記には、さらに前の画家の様式を蘇らせたい、と書かれていた。

つまり、写しの写しである。

館は、三人の名を並べて説明している。

高い竹と遠い山(王蒙に倣う)
王翬《高い竹と遠い山(王蒙に倣う)》1694年。館の記録では、掛幅。紙に墨。画面79.6×39.4センチ。軸端を含めて215.8×61.6センチ。番号は1953.629。クリーヴランド美術館蔵。王翬《高い竹と遠い山(王蒙に倣う)》クリーヴランド美術館蔵

二点目も、掛幅である。

全体で114.3×40.3センチ。

縦に細長い。

画面の下のほうに、木が数本立つ。

葉は少なく、枝が細かく分かれる。

その根もとに、低い岩と草がある。

中ほどは、白いままである。

水か、霧だろう。

上のほうに、山の塊がある。

墨は濃く、点を重ねて作られている。

いちばん上に、書き込みと印がある。

館の記録は、その詩の訳を載せている。

疎らな林と遠い山は、いつも私を引きつけてきた。

まるで、ある先人の筆と墨が世に残されたようだ。

そういう内容である。

つまり、ここでも先人の名が出てくる。

疎林と遠山
李流芳《疎林と遠山》1628年。館の記録では、掛幅。紙に墨。全体で114.3×40.3センチ。番号は1953.630。クリーヴランド美術館蔵。李流芳《疎林と遠山》クリーヴランド美術館蔵

三点目は、画帖の一葉である。

画面は31.5×40.6センチ。

全体は36.5×49.9センチ。

横長である。

画面の左に、細い塔が立つ。

その右に、屋根の大きな建物が並ぶ。

建物は、木立に囲まれている。

手前には、水面と舟がある。

舟は細長く、数艘つながれている。

奥には、山の斜面が続く。

館の記録の題によれば、舟着場から丘を望む眺めである。

つまり、遠くから見た構図である。

この連作の別の一葉は、教会を扱った回でも取り上げた。

そちらは、同じ丘の寺を近くから描いていた。

同じ十二景のなかで、遠くと近くが分かれている。

運河の舟着場から虎丘を望む(蘇州虎丘十二景より)
沈周《運河の舟着場から虎丘を望む(蘇州虎丘十二景より)》1490年以後。館の記録では、画帖の一葉。紙に墨。画面31.5×40.6センチ。全体36.5×49.9センチ。番号は1964.371.1。クリーヴランド美術館蔵。沈周《運河の舟着場から虎丘を望む(蘇州虎丘十二景より)》クリーヴランド美術館蔵