美術史・技法

塔だけが、遠くまで届く——モネ・フェントン・メストラルほか九点の教会

教会は正面で見分けられる建物である。九点で数えると、塔か尖塔が見えるのは五点、うち三点は塔しか見えない。作業場の新しい聖母像、旧教会から来た彫刻など、建物から外れたものも混じる。内部が描かれるのは一点だけで、残りは外から見上げている。

ルーアン大聖堂、西正面
クロード・モネ《ルーアン大聖堂、西正面》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

正面だけが、画面いっぱいに描かれている

一枚の油彩に、建物の正面がある。

画面は縦長で、全体100.1×65.9センチ。

額を含めると121.6×88.3センチになる。

描かれているのは、大聖堂の西側の正面だけである。

建物の全体は写っていない。

左右も上も、画面の外へ出ている。

見えるのは、扉の並ぶ下部と、その上の窓と、細かい彫刻の面である。

中央に、丸い窓がある。

その周りには、小さな像を並べた帯が横に走る。

石の面は、絵具の粒でできている。

青、桃色、白、薄い黄。

近くで見ると、色の点にしか見えない。

離れると、石の凹凸に見える。

影の部分は青く、光の部分は黄色い。

灰色は、ほとんど使われていない。

石の建物なのに、画面には石の色がない。

館の記録に、記述の欄はない。

書かれているのは、題と年と寸法と番号だけである。

ルーアン大聖堂、西正面
クロード・モネ《ルーアン大聖堂、西正面》1894年。館の記録では、油彩・カンヴァス。全体100.1×65.9センチ。額を含めて121.6×88.3センチ。番号は1963.10.49。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。クロード・モネ《ルーアン大聖堂、西正面》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

教会は、正面で認識される建物である。

横から見ても、後ろから見ても、それが何かは分かりにくい。

正面には扉があり、窓があり、塔がある。

その配置が、建物の種類を示す。

九点を並べて、教会がどこから描かれるかを数えたい。

教会は、遠くからも近くからも描かれる

集めかたは、館の記録の題によっている。

教会、聖堂、修道院、寺院にあたる語が入るものを拾った。

英語の記録では、いくつかの別の語に分かれる。

日本語にすると、いずれも宗教の建物になる。

そのため、東アジアの寺も一点混じった。

九点のうち、建物が描かれているのは六点だった。

残る三点は、建物の一部か、建物から外されたものである。

建物が描かれた六点を、距離で分けたい。

遠景として描かれたのが、三点。

中景が二点。

正面だけを大きく描いたのが、一点である。

いちばん遠いのは、湖の向こうに見える教会だった。

いちばん近いのは、最初に見た大聖堂の正面である。

遠くの教会は、塔で示される

遠景の三点を見たい。

一点目は、水彩の小品である。

17.9×25.6センチしかない。

画面の下半分は、水面である。

水は淡い青と黄で、光を映している。

上半分は、空である。

日の出か日の入りの色で、黄と橙が広がる。

その境目、画面の中ほどに、木立の帯がある。

帯の左寄りに、細い尖塔が一本立つ。

尖塔だけが、まっすぐ上へ伸びている。

建物の本体は、木に隠れて見えない。

水面には、その尖塔が逆さに映る。

つまり、教会を示しているのは尖塔一本である。

館の記録に、制作年はない。

記述の欄もない。

題は《教会と湖》とだけ書かれている。

教会と湖
ヘンリー・ベーコン《教会と湖》制作年不詳。館の記録では、水彩・紙。17.9×25.6センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。ヘンリー・ベーコン《教会と湖》スミソニアン協会蔵

二点目は、素描である。

画面と紙が8.7×15センチしかない。

九点のなかで、いちばん小さい。

台紙まで含めると23.6×30.8センチになる。

画面には、丘の上の町が描かれる。

手前に、崩れかけた塔がある。

その奥に、水平な線でできた建物が続く。

館の記述によれば、それが聖堂である。

崩れた塔と、整った聖堂が並ぶ。

館は、その対比が強調されていると書いている。

インクは茶と灰の二色である。

濃さを変えて、明暗の段を作っている。

館の記述によれば、この時期に北方の画家がイタリアへ行き始めた。

そして、屋外で写生をする習慣も始まったばかりだったという。

台紙には、地名と、後の持ち主らしい名が書かれている。

館は、その両方を記録に写している。

サンタ・マリア・アッスンタ聖堂のあるブラッチャーノの眺め
バルトロメウス・ブレーンベルフ《サンタ・マリア・アッスンタ聖堂のあるブラッチャーノの眺め》1619〜33年頃。館の記録では、生成りの簀の目紙に茶と灰のインクと淡彩、黒鉛の下描き。画面と紙が8.7×15センチ。台紙は23.6×30.8センチ。番号は2020.127。クリーヴランド美術館蔵。バルトロメウス・ブレーンベルフ《サンタ・マリア・アッスンタ聖堂のあるブラッチャーノの眺め》クリーヴランド美術館蔵

三点目は、銅版画である。

館の記録に、寸法の欄はない。

画面は横長で、暗い調子で埋まっている。

右のほうに、木の大きな塊がある。

葉は細かい線の集まりで、輪郭がぼやける。

左には、建物が数棟ある。

屋根が重なり、壁は暗い。

その上に、空が広がる。

空にも細かい線が引かれ、灰色に見える。

館の記述によれば、この画家は農村の風景を多く描いた。

そして、この一枚では雨の柔らかさと静けさが線の細さで示されている、と書く。

題は《修道院の農場》という。

つまり、修道院そのものではなく、その農場である。

教会には土地が付属し、そこで作物が作られた。

その付属地が主題になっている。

修道院の農場
アルフォンス・ルグロ《修道院の農場》1893年頃。館の記録では、エッチングとドライポイント。番号は1920.565。クリーヴランド美術館蔵。アルフォンス・ルグロ《修道院の農場》クリーヴランド美術館蔵

中景の教会には、人が集まる

中景の二点を見たい。

一点目は、十九世紀のアメリカの油彩である。

45.7×68.9センチ。

横長の画面で、中央に煉瓦造りの教会がある。

塔は四角く、上に小さな尖りが載る。

屋根は低く、横に長い。

建物の前に、人と馬が集まっている。

数えると、二十人以上いる。

馬は十頭ほど。

赤い上着の人が、馬に乗っている。

女性たちは、白い衣で立っている。

地面は乾いた土で、草がまばらに生える。

空は明るく、雲は薄い。

館の記録の題には、時代の指定が入っている。

ある総督の時代の、と書かれている。

制作は1893年である。

つまり、百年以上前の場面を後から描いた絵である。

画家がその場を見たわけではない。

歴史の再現として描かれている。

館の記録は、そのことを題で示している。