作品を知る

首は、くびれの名である——スミバート・歌麿・チェザーティほか九点

様式として長く描かれた首、夜の涼に抜かれた襟、金羊毛の鎖と花輪。首の九点を数えると、人の首は四点で、うち二点では何かが掛かっていた。細いから輪が留まり、細いから切られる。壺も岬も、同じくびれで首と呼ばれる。

女性の肖像
ジョン・スミバート《女性の肖像》クリーヴランド美術館蔵

首が、長く描かれる

油彩である。

額を外すと75.6×62.2センチ。

楕円に切り取られた画面に見える。

女が一人、胸から上まで描かれる。

体は、やや右を向く。

顔は、正面に近い。

髪は、後ろでまとめられる。

一房だけが、右の肩へ落ちる。

その房は、ゆるく巻く。

顔は、卵形である。

目は、大きい。

眉は、細い弧を描く。

口は、小さく、閉じる。

そして、首である。

顎の下から、肩まで長い。

太さは、変わらない。

影は、左側にわずかに落ちる。

衣は、緑がかった青である。

襟は、深く開く。

胸元に、白い布がのぞく。

肩の線は、なだらかに落ちる。

背景は、暗い褐色である。

女性の肖像
ジョン・スミバート《女性の肖像》1734年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。額を外して75.6×62.2センチ。番号は1920.3919。クリーヴランド美術館蔵。ジョン・スミバート《女性の肖像》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この形を様式として扱う。

一七二九年、英国で修業した画家が植民地に現れた。

それは、この地の美術の歴史の分かれ目になった。

しっかりした立体感を出す技を、持ち込んだからである。

商売としても成功し、他の者が画家を志すきっかけになった。

そして、こう書かれている。

低く開いた胸元、長い首、うねる一房の髪。

これらは、女性を描くときの英国の約束事に従っている。

座っている人物が誰かは、いまも研究が続いている。

つまり、この首の長さは本人のものではない。

約束事である。

九点の最初に、これを置く理由である。

首は、引き延ばされる部分である。

顔は、似せなければならない。

似せないと、肖像にならない。

首は、そこまで見られていない。

見られていないから、約束事に従える。

同じことが、指にも起きていた。

引き伸ばされた指については、指すのは、犬であるで扱った。

襟を、抜く

三枚続の錦絵である。

全体で38.6×25.4センチ。

横に長い。

画面には、舟が二艘ある。

右の舟は、屋根がある。

遊びの舟である。

そこに、人が六人ほどいる。

一人の男が、格子の衣を着る。

漆の皿を配っている。

酒である。

別の男は、屋根の上に座る。

身を乗り出して、網を見ている。

左の舟には、漁師がいる。

網を、両手で引く。

網は、水の上に広がる。

月が、細く出ている。

そして、遊び舟の女の一人。

盃を差し出している。

その衣が、首のところで大きく開く。

うなじが、露わになる。

隅田川の夜網
喜多川歌麿《隅田川の夜網》1800年ごろ。館の記録では、木版多色摺の三枚続。全体で38.6×25.4センチ。番号は1916.1116。クリーヴランド美術館蔵。喜多川歌麿《隅田川の夜網》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この開いた襟の理由を書いている。

夜の涼を楽しむために、衣を首のところで引き開けている。

そう書かれている。

つまり、暑いからである。

前の一点では、首は様式だった。

ここでは、首は体温の調節に関わる。

首を出せば、涼しい。

首をふさげば、暖かい。

体の中で、首は栓のような働きをする。

日本の衣は、そこを開け閉めしやすい形をしている。

襟を抜く、という言い方がある。

抜けば、うなじが出る。

うなじは、この国の絵で繰り返し描かれてきた。

描かれてきたのは、ふだんは隠れているからである。

この三枚続は、夜の場面である。

月は細く、明かりは少ない。

それでも、うなじだけは白く残される。

暗い画面の中で、そこが光る。

前の回の足と、同じである。

覆いが多いほど、出た部分が目立つ。

首に、鎖を掛ける

黄水晶を彫った肖像である。

石は3.2×2.5センチ。

金と七宝の枠に嵌まる。

枠を入れても4.3×2.8センチしかない。

親指の先ほどである。

男の横顔が、浮き彫りにされる。

左を向く。

額は、後退している。

鼻は、高い。

顎は、前へ出る。

髭は、短く刈られる。

首には、立った襞襟がある。

体には、甲冑を着ける。

胸当ての面が、光る。

そして、首のまわりに鎖がある。

鎖は、胸の前で垂れる。

その先に、小さな飾りが下がる。

彫りは、きわめて細かい。

布と金属と肌と髪が、彫り分けられる。

スペイン王フェリペ二世の肖像
アレッサンドロ・チェザーティ《スペイン王フェリペ二世の肖像》一五五〇年代なかば。館の記録では、黄水晶を金と七宝の垂飾に嵌める。石は3.2×2.5センチ。番号は2012.53。クリーヴランド美術館蔵。アレッサンドロ・チェザーティ《スペイン王フェリペ二世の肖像》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この鎖の名を書いている。

甲冑をまとい、首のまわりに金羊毛騎士団の鎖を掛けている。

そして、彫りの精度を評価する。

布、金属、肌、髪の質感を彫り分けている。

後退した生え際と突き出た顎まで、写実に描く。

強い性格も伝えている、と書かれる。

館はさらに、こうした彫玉の位置づけも書く。

ルネサンスでは、最高級の贅沢品だった。

熱心に集められ、外交の贈り物にも使われた。

最初の注文主は、まだわかっていない。

西班牙の宮廷では、こうした玉が重んじられた。

王族は、しばしば肖像の中でこの王の玉を持っている。

ここで首は、印を掛ける場所である。

鎖を掛ければ、身分が見える。

首は、体の中でいちばん高い位置にある輪である。

だから、印を吊るすのに適している。

そして、掛けたものは落ちない。

輪が、首のくびれで留まるからである。

腕や腰では、こうはいかない。

この彫玉は、身につけるものでもある。

つまり、この玉自体が誰かの首に掛かっていた。

首に掛けた玉に、首に鎖を掛けた王が彫られている。

首に、花輪を掛ける

細密画である。

24.8×15.9センチ。

画面の左に、寝台がある。

天蓋が、桃色である。

柱に、黄色い花綱が巻きつく。

寝台の上に、二人がいる。

男は、腰を下ろす。

頭の後ろに、光の輪がある。

顔は、右を向く。

右手を、相手の顎に添える。

もう一方の手に、花の輪を持つ。

女は、向かい合って座る。

両手を、胸の前で合わせる。

顔は、上を向く。

花輪は、その首に掛けられようとしている。

床には、桃色の花弁が散る。

背後に、西洋風の椅子がある。

右に、格子の壁が見える。