首は、くびれの名である——スミバート・歌麿・チェザーティほか九点
様式として長く描かれた首、夜の涼に抜かれた襟、金羊毛の鎖と花輪。首の九点を数えると、人の首は四点で、うち二点では何かが掛かっていた。細いから輪が留まり、細いから切られる。壺も岬も、同じくびれで首と呼ばれる。

首が、長く描かれる
油彩である。
額を外すと75.6×62.2センチ。
楕円に切り取られた画面に見える。
女が一人、胸から上まで描かれる。
体は、やや右を向く。
顔は、正面に近い。
髪は、後ろでまとめられる。
一房だけが、右の肩へ落ちる。
その房は、ゆるく巻く。
顔は、卵形である。
目は、大きい。
眉は、細い弧を描く。
口は、小さく、閉じる。
そして、首である。
顎の下から、肩まで長い。
太さは、変わらない。
影は、左側にわずかに落ちる。
衣は、緑がかった青である。
襟は、深く開く。
胸元に、白い布がのぞく。
肩の線は、なだらかに落ちる。
背景は、暗い褐色である。

館の説明は、この形を様式として扱う。
一七二九年、英国で修業した画家が植民地に現れた。
それは、この地の美術の歴史の分かれ目になった。
しっかりした立体感を出す技を、持ち込んだからである。
商売としても成功し、他の者が画家を志すきっかけになった。
そして、こう書かれている。
低く開いた胸元、長い首、うねる一房の髪。
これらは、女性を描くときの英国の約束事に従っている。
座っている人物が誰かは、いまも研究が続いている。
つまり、この首の長さは本人のものではない。
約束事である。
九点の最初に、これを置く理由である。
首は、引き延ばされる部分である。
顔は、似せなければならない。
似せないと、肖像にならない。
首は、そこまで見られていない。
見られていないから、約束事に従える。
同じことが、指にも起きていた。
引き伸ばされた指については、指すのは、犬であるで扱った。
襟を、抜く
三枚続の錦絵である。
全体で38.6×25.4センチ。
横に長い。
画面には、舟が二艘ある。
右の舟は、屋根がある。
遊びの舟である。
そこに、人が六人ほどいる。
一人の男が、格子の衣を着る。
漆の皿を配っている。
酒である。
別の男は、屋根の上に座る。
身を乗り出して、網を見ている。
左の舟には、漁師がいる。
網を、両手で引く。
網は、水の上に広がる。
月が、細く出ている。
そして、遊び舟の女の一人。
盃を差し出している。
その衣が、首のところで大きく開く。
うなじが、露わになる。

館の説明は、この開いた襟の理由を書いている。
夜の涼を楽しむために、衣を首のところで引き開けている。
そう書かれている。
つまり、暑いからである。
前の一点では、首は様式だった。
ここでは、首は体温の調節に関わる。
首を出せば、涼しい。
首をふさげば、暖かい。
体の中で、首は栓のような働きをする。
日本の衣は、そこを開け閉めしやすい形をしている。
襟を抜く、という言い方がある。
抜けば、うなじが出る。
うなじは、この国の絵で繰り返し描かれてきた。
描かれてきたのは、ふだんは隠れているからである。
この三枚続は、夜の場面である。
月は細く、明かりは少ない。
それでも、うなじだけは白く残される。
暗い画面の中で、そこが光る。
前の回の足と、同じである。
覆いが多いほど、出た部分が目立つ。
首に、鎖を掛ける
黄水晶を彫った肖像である。
石は3.2×2.5センチ。
金と七宝の枠に嵌まる。
枠を入れても4.3×2.8センチしかない。
親指の先ほどである。
男の横顔が、浮き彫りにされる。
左を向く。
額は、後退している。
鼻は、高い。
顎は、前へ出る。
髭は、短く刈られる。
首には、立った襞襟がある。
体には、甲冑を着ける。
胸当ての面が、光る。
そして、首のまわりに鎖がある。
鎖は、胸の前で垂れる。
その先に、小さな飾りが下がる。
彫りは、きわめて細かい。
布と金属と肌と髪が、彫り分けられる。

館の説明は、この鎖の名を書いている。
甲冑をまとい、首のまわりに金羊毛騎士団の鎖を掛けている。
そして、彫りの精度を評価する。
布、金属、肌、髪の質感を彫り分けている。
後退した生え際と突き出た顎まで、写実に描く。
強い性格も伝えている、と書かれる。
館はさらに、こうした彫玉の位置づけも書く。
ルネサンスでは、最高級の贅沢品だった。
熱心に集められ、外交の贈り物にも使われた。
最初の注文主は、まだわかっていない。
西班牙の宮廷では、こうした玉が重んじられた。
王族は、しばしば肖像の中でこの王の玉を持っている。
ここで首は、印を掛ける場所である。
鎖を掛ければ、身分が見える。
首は、体の中でいちばん高い位置にある輪である。
だから、印を吊るすのに適している。
そして、掛けたものは落ちない。
輪が、首のくびれで留まるからである。
腕や腰では、こうはいかない。
この彫玉は、身につけるものでもある。
つまり、この玉自体が誰かの首に掛かっていた。
首に掛けた玉に、首に鎖を掛けた王が彫られている。
首に、花輪を掛ける
細密画である。
24.8×15.9センチ。
画面の左に、寝台がある。
天蓋が、桃色である。
柱に、黄色い花綱が巻きつく。
寝台の上に、二人がいる。
男は、腰を下ろす。
頭の後ろに、光の輪がある。
顔は、右を向く。
右手を、相手の顎に添える。
もう一方の手に、花の輪を持つ。
女は、向かい合って座る。
両手を、胸の前で合わせる。
顔は、上を向く。
花輪は、その首に掛けられようとしている。
床には、桃色の花弁が散る。
背後に、西洋風の椅子がある。
右に、格子の壁が見える。