作品を知る

横顔は、輪郭だけで足りる——コズメ・トゥーラ・マイヨール・ルドンほか九点

練習としての横顔

九点のうち、二点は素描である。

どちらも、仕上げた作品ではないと考えられる。

スカーフをつけた女の横顔の頭部
ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ《スカーフをつけた女の横顔の頭部》1720年から31年ごろ。館の記録では、黒チョークをぼかし、白チョークと石膏で明るいところを起こす。紙全体40×31.2センチ。番号は1933.374。クリーヴランド美術館蔵。ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ《スカーフをつけた女の横顔の頭部》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、技法を細かく書いている。

黒チョークを紙にこすってぼかす。

その上に、白チョークと石膏で明るいところを起こす。

三段階の明るさが、これで作れる。

いちばん暗いところが黒チョーク。

中間が紙の褐色。

いちばん明るいところが白と石膏である。

紙の色を中間に使うのは、節約のためでもある。

白い紙に描けば、明るい面をすべて塗ることになる。

褐色の紙なら、起こしたい場所だけ白を置けばよい。

褐色の紙に、女の頭部が描かれている。

顔はやや下を向き、左を向く。

頭にスカーフを巻いている。

黒チョークで陰を作り、白で光を起こす。

紙の褐色が、中間の明るさとして働いている。

首から下は、線が数本あるだけで止まっている。

顔だけを描くための一枚だと分かる。

紙は縦40センチある。

顔の習作としては大きい。

女の横顔(表)、台所女中(裏)
アレッサンドロ・カソラーニ《女の横顔(表)、台所女中(裏)》16世紀後半。館の記録では、黒チョークとみられ、赤チョークの跡がある。紙全体21.3×14センチ。番号は1966.120。クリーヴランド美術館蔵。アレッサンドロ・カソラーニ《女の横顔(表)、台所女中(裏)》クリーヴランド美術館蔵

館の記録には、来歴が長く書かれている。

十九世紀のロンドンの収集家から始まる。

そのあと、ダブリンの持ち主、別の持ち主と続く。

最後に画商を経て、館に入った。

一枚の小さな素描に、これだけの経路が残る。

第十八回で、出所の行の読み方を並べた。

出所の行の話で見たとおり、記録は金と名前を残す。

だが、誰がこの顔を描かせたかは書かれていない。

こちらは、一枚の紙の表と裏である。

館の画像は、表と裏を並べて撮っている。

左が表で、老いた女の横顔。

右が裏で、台所で働く女の姿。

紙は茶色く焼け、縁が傷んでいる。

同じ紙の両面に、別の主題が描かれている。

第十七回で、表と裏に別々の番号が付く例を読んだ。

ここでは番号は一つである。

一枚の紙は、一点として数えられている。

だが画像は二つ並ぶ。

数え方と、見え方が食い違っている。

記録の言葉は、人にだけ使われない

九点を選ぶとき、館の記録の「横顔」という語で拾った。

すると、人ではないものが一点混じった。

鴉の頭部、横向き
エドゥアール・マネ《鴉の頭部、横向き》1875年。館の記録では、リトグラフ。画面17×15.5センチ。紙全体32.5×24.7センチ。番号は1923.215。クリーヴランド美術館蔵。エドゥアール・マネ《鴉の頭部、横向き》クリーヴランド美術館蔵

この紙は、他の八点と手ざわりが違う。

館の記録には紙の色の指定がない。

だが画像では、はっきり赤みがかった褐色である。

黒の面が、その上でよく目立つ。

刷りの黒は、濃さが一定でない。

嘴の先はほとんど紙が見え、首のあたりは真っ黒である。

褐色の紙に、黒い塊が一つある。

鴉の頭である。

嘴が右を向き、先が鋭く尖る。

首のあたりで、黒がほどけて筆の跡になる。

目は描かれていない。

輪郭と、嘴の線だけで鴉になっている。

館の記録によれば、これは詩の翻訳につけられた図の一つだという。

米国の詩人が書いた「大鴉」を、フランスの詩人が訳した。

その本のために、四枚の図が作られた。

表紙と広告にも、この鴉の頭が使われた。

つまり、これは看板として描かれた横顔である。

一目で何かが分かればよい。

だから輪郭だけで足りる。

人の横顔が硬貨に彫られる理由と、同じところに出ている。

外れとして落とすつもりだったが、落とさなかった。

横顔という形式の効き目が、人以外でも同じだと示すからである。

記録が横顔と書いても、真横とはかぎらない

もう一点、記録と画像がずれる例がある。

右を向く黒人の少年の頭部
ヴェンツェスラウス・ホラー《右を向く黒人の少年の頭部》1645年。題は館の記録の表記による。館の記録では、象牙色の簀の目紙にエッチング。版8×5.9センチ。紙全体8.4×6.3センチ。番号は1925.1512。シカゴ美術館蔵。ヴェンツェスラウス・ホラー《右を向く黒人の少年の頭部》シカゴ美術館蔵

エッチングは、金属板に線を刻んで刷る技法である。

刻んだ線に絵具を詰め、圧をかけて紙へ移す。

線は、細く、深く、まっすぐ出る。

この一点でも、頬の陰は細い線の集まりで作られている。

線の間隔を詰めれば暗くなり、離せば明るくなる。

面を塗ることはできない。

だから、明るさはすべて線の密度で決まる。

版の大きさは、縦8センチ、横5.9センチである。

名刺より小さい。

その中に、少年の頭部が彫られている。

館の題は「右を向く横顔」と読める書き方をしている。

だが画像を見ると、真横ではない。

顔はやや手前に向き、両方の目が見えている。

四分の三に近い角度である。

耳は片方だけ見える。

白い襟が、首のまわりで開く。

右上に、彫った人の名と年が入っている。

館の題を疑っているのではない。

横顔という語が、真横だけを指すとはかぎらない、ということである。

記録の語は、角度を測って付けられているわけではない。

見た人が、そう呼んだから、そう書かれている。

九点のうち、真横と言い切れるのは六点だった。

残りは、少し手前を向いている。

顔の向きは、思ったより幅のある言葉である。