作品を知る

皮は、削って直せる——ド・ブレイルズ・クラーナハ・ブガッティほか九点

皮に、ペンで線を引く

四点目は、素描である。

楽園追放
ヤン・ウィーリクス《楽園追放》1606年ごろ。館の記録では、羊皮紙にペンと茶インク。紙は9.5×12.4センチ、画は9×11.9センチ。番号は1994.16。クリーヴランド美術館蔵。ヤン・ウィーリクス《楽園追放》クリーヴランド美術館蔵

きわめて小さい素描である。

紙は9.5×12.4センチしかない。

線は茶色で、細い。

画面の左上に、翼のある人物がいる。

人物は空を飛び、剣を差し出す。

その下に、二人の裸の人物がいる。

一人は身をかがめ、手で顔を覆う。

もう一人は、前かがみで歩く。

二人の足元には、草がある。

手前には、獣がいる。

牛のような形をしている。

奥には、木立と丘がある。

丘の上には、小さな建物がある。

空には、細かい線で雲が描かれる。

線の密度で、明暗が作られる。

余白は、ほとんどない。

画面の縁まで、線が続く。

地の色が見えるのは、雲のあたりだけである。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

材料は、羊皮紙にペンと茶インクである。

皮の面は、紙より滑らかである。

だからペンが引っかからない。

そして間違えたときに、削って直せる。

紙では、削れば穴が開く。

九点のうち、皮が素描の地なのは、この一点である。

そして、この大きさで削って直せることが効いてくる。

画面は手のひらの半分ほどしかない。

一本の線が、全体を左右する。

皮を、板に貼る

五点目では、皮は板に貼られている。

バラムとろば
ハンス・ボル《バラムとろば》1583年。館の記録では、犢皮紙にグワッシュ、金で白上げ、板に貼付。紙は13.7×19.6センチ。番号は2022.3。クリーヴランド美術館蔵。ハンス・ボル《バラムとろば》クリーヴランド美術館蔵

小さな横長の画面である。

紙は13.7×19.6センチしかない。

画面の中央に、大きな木が立つ。

木は枝を左右に広げる。

葉は細かい点の集まりである。

その左に、道が奥へ伸びる。

道の上に、小さな人物がいる。

人物は馬か驢馬に乗る。

その前に、赤い衣の人物が立つ。

さらに奥には、村がある。

村には、屋根と塔が並ぶ。

丘の上にも、町が見える。

空は青く、白い雲が浮かぶ。

雲は横に長く、下端が平らである。

手前は、緑の草地である。

草地には、小さな花が点々と散る。

右下の隅には、柵らしい線がある。

館の記録では、この小さな細密画は、羊皮紙に水彩で作られている。

左手前に、古い物語の場面がある。

しかし主題は、広がる田園と風景と、遠くの丘の町のほうであるという。

そして館は、こう続けている。

この画家は、その場で観察した実際の町の眺めと、想像の場面や物語を組み合わせた。

それが、当時の都市の見る人に受けたという。

館の記録は、そう説明している。

さらに館は、この作が板に貼られていることに触れている。

かつては家具か羽目板に嵌め込まれていたらしい。

つまり皮は、家の一部になっていた。

壁に掛ける絵ではない。

嵌め込まれて、動かせない絵である。

いまは、板ごと館にある。

嵌まっていた家具は、残っていない。

皮を、銅板に張る

六点目では、皮は金属の上にある。

ガスパール・ド・ダイヨン・デュ・リュドの肖像
ジャック・サイヤン《ガスパール・ド・ダイヨン・デュ・リュドの肖像》1628年。館の記録では、銅板に張った犢皮紙。八角形で157×122ミリ。番号は59.72.1。メトロポリタン美術館蔵。ジャック・サイヤン《ガスパール・ド・ダイヨン・デュ・リュドの肖像》メトロポリタン美術館蔵

八角形の小さな肖像である。

157ミリと122ミリしかない。

中央に、男の胸から上がある。

顔はやや右を向く。

髪は肩まで届き、巻いている。

口の上に、細い髭がある。

顎にも、小さな髭がある。

衣は青灰色で、襟が白い。

胸には、白い十字の記章がある。

背景は暗い褐色である。

そのまわりに、飾りの枠がある。

枠は白と金で、渦を巻く。

枠の中に、小さな花が散る。

四隅には、丸い飾りがある。

いちばん外は、赤い縁である。

縁の幅は、数ミリしかない。

八角形の各辺で、幅がそろう。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

材料は、銅板に張った犢皮紙である。

皮は、湿気で伸び縮みする。

板に張れば、動かなくなる。

九点のうち、皮が金属に張られているのは、この一点である。

銅板は、それ自体が絵の支持体にもなる。

しかしここでは、皮を平らに保つためだけに使われている。

見えるのは皮の面で、銅は裏にある。

皮に、水彩で顔を描く

七点目も、小さな肖像である。

ベンジャミン・フランクリン
ジョゼフ・デュプレシ《ベンジャミン・フランクリン》1794年。館の記録では、水彩・犢皮紙。8×6.2センチ。番号は2006.235.313。メトロポリタン美術館蔵。ジョゼフ・デュプレシ《ベンジャミン・フランクリン》メトロポリタン美術館蔵

きわめて小さい。

8×6.2センチしかない。

形は、角の落ちた四角である。

中央に、老いた男がいる。

顔はやや右を向く。

髪は白く、長く垂れる。

額は広く、上のほうが禿げている。

眼鏡はかけていない。

目は細く、口元が緩む。

頬に、深い皺が二本ある。

顎の下も、たるんでいる。

年齢が、そのまま描かれている。

上着は灰色で、襟が大きい。

首元には、白い布がある。

背景は、灰緑である。

まわりは、金色の枠である。

枠には、細かい葉の文様がある。

文様は左右で対称である。

角のところで、向きが折り返す。

上には、吊り環が付く。

環は小さく、輪の形である。

紐を通して下げたらしい。

館の札には、この人の名と「肖像」がある。

館の記録は、それ以上のことを書いていない。

材料は、水彩と犢皮紙である。

象牙ではない。

同じころの細密画は、多くが象牙に描かれた。

皮のほうが、色が沈む。

象牙は白く、下から光が返る。

皮は、光を返さない。

だから背景が暗く沈む。

この一点でも、背景は灰緑で重い。

細密画の大きさについては、実物大の細密画で扱った。

皮が、剣の中に使われる

八点目では、皮は道具の部品である。