皮は、削って直せる——ド・ブレイルズ・クラーナハ・ブガッティほか九点
皮に、ペンで線を引く
四点目は、素描である。

きわめて小さい素描である。
紙は9.5×12.4センチしかない。
線は茶色で、細い。
画面の左上に、翼のある人物がいる。
人物は空を飛び、剣を差し出す。
その下に、二人の裸の人物がいる。
一人は身をかがめ、手で顔を覆う。
もう一人は、前かがみで歩く。
二人の足元には、草がある。
手前には、獣がいる。
牛のような形をしている。
奥には、木立と丘がある。
丘の上には、小さな建物がある。
空には、細かい線で雲が描かれる。
線の密度で、明暗が作られる。
余白は、ほとんどない。
画面の縁まで、線が続く。
地の色が見えるのは、雲のあたりだけである。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
材料は、羊皮紙にペンと茶インクである。
皮の面は、紙より滑らかである。
だからペンが引っかからない。
そして間違えたときに、削って直せる。
紙では、削れば穴が開く。
九点のうち、皮が素描の地なのは、この一点である。
そして、この大きさで削って直せることが効いてくる。
画面は手のひらの半分ほどしかない。
一本の線が、全体を左右する。
皮を、板に貼る
五点目では、皮は板に貼られている。

小さな横長の画面である。
紙は13.7×19.6センチしかない。
画面の中央に、大きな木が立つ。
木は枝を左右に広げる。
葉は細かい点の集まりである。
その左に、道が奥へ伸びる。
道の上に、小さな人物がいる。
人物は馬か驢馬に乗る。
その前に、赤い衣の人物が立つ。
さらに奥には、村がある。
村には、屋根と塔が並ぶ。
丘の上にも、町が見える。
空は青く、白い雲が浮かぶ。
雲は横に長く、下端が平らである。
手前は、緑の草地である。
草地には、小さな花が点々と散る。
右下の隅には、柵らしい線がある。
館の記録では、この小さな細密画は、羊皮紙に水彩で作られている。
左手前に、古い物語の場面がある。
しかし主題は、広がる田園と風景と、遠くの丘の町のほうであるという。
そして館は、こう続けている。
この画家は、その場で観察した実際の町の眺めと、想像の場面や物語を組み合わせた。
それが、当時の都市の見る人に受けたという。
館の記録は、そう説明している。
さらに館は、この作が板に貼られていることに触れている。
かつては家具か羽目板に嵌め込まれていたらしい。
つまり皮は、家の一部になっていた。
壁に掛ける絵ではない。
嵌め込まれて、動かせない絵である。
いまは、板ごと館にある。
嵌まっていた家具は、残っていない。
皮を、銅板に張る
六点目では、皮は金属の上にある。

八角形の小さな肖像である。
157ミリと122ミリしかない。
中央に、男の胸から上がある。
顔はやや右を向く。
髪は肩まで届き、巻いている。
口の上に、細い髭がある。
顎にも、小さな髭がある。
衣は青灰色で、襟が白い。
胸には、白い十字の記章がある。
背景は暗い褐色である。
そのまわりに、飾りの枠がある。
枠は白と金で、渦を巻く。
枠の中に、小さな花が散る。
四隅には、丸い飾りがある。
いちばん外は、赤い縁である。
縁の幅は、数ミリしかない。
八角形の各辺で、幅がそろう。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
材料は、銅板に張った犢皮紙である。
皮は、湿気で伸び縮みする。
板に張れば、動かなくなる。
九点のうち、皮が金属に張られているのは、この一点である。
銅板は、それ自体が絵の支持体にもなる。
しかしここでは、皮を平らに保つためだけに使われている。
見えるのは皮の面で、銅は裏にある。
皮に、水彩で顔を描く
七点目も、小さな肖像である。

きわめて小さい。
8×6.2センチしかない。
形は、角の落ちた四角である。
中央に、老いた男がいる。
顔はやや右を向く。
髪は白く、長く垂れる。
額は広く、上のほうが禿げている。
眼鏡はかけていない。
目は細く、口元が緩む。
頬に、深い皺が二本ある。
顎の下も、たるんでいる。
年齢が、そのまま描かれている。
上着は灰色で、襟が大きい。
首元には、白い布がある。
背景は、灰緑である。
まわりは、金色の枠である。
枠には、細かい葉の文様がある。
文様は左右で対称である。
角のところで、向きが折り返す。
上には、吊り環が付く。
環は小さく、輪の形である。
紐を通して下げたらしい。
館の札には、この人の名と「肖像」がある。
館の記録は、それ以上のことを書いていない。
材料は、水彩と犢皮紙である。
象牙ではない。
同じころの細密画は、多くが象牙に描かれた。
皮のほうが、色が沈む。
象牙は白く、下から光が返る。
皮は、光を返さない。
だから背景が暗く沈む。
この一点でも、背景は灰緑で重い。
細密画の大きさについては、実物大の細密画で扱った。
皮が、剣の中に使われる
八点目では、皮は道具の部品である。