画家を知る

厚紙に、描く——エドゥアール・ヴュイヤール

境目を、なくす

この画家の絵では、人と背景の境目が曖昧になる。

同じ色調でまとめ、輪郭線を引かない。

離れて見ると、模様の中に人が沈んでいるように見える。

その効果については、模様に沈む人物——エドゥアール・ヴュイヤールで扱った。

厚紙のつや消しの表面は、その効果をいっそう強める。

会話
エドゥアール・ヴュイヤール《会話》1891年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦23.8センチ、横33.4センチとされる。額を含むと、縦46.2センチ、横55.2センチ、奥行き6.9センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《会話》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点のうち、初期でカンヴァスに描かれた唯一の一点である。

横長の小さな画面である。

左に、黒い衣の人物が立つ。腰に手を当てる。

その手前に、木の椅子がある。背もたれの線が見える。

中央に、明るい黄色の卓がある。上に赤い器が置かれる。

右には、白い上衣の人物が座る。赤い裾が広がる。

背後の壁は淡い褐色で、平らである。

左上には、格子のような模様が見える。窓か壁紙だと思われる。

二人は向き合わない。それぞれ別の方を見る。

二人の距離

この一点では、二人が同じ卓を囲んでいる。

しかし、視線は合わない。会話をしている様子でもない。

題には、会話、と書かれる。館が付けた題かもしれない。

画面から読めるのは、二人が同じ部屋にいるという事実だけである。

その静けさが、この画家の室内画の特徴である。

布と厚紙の差

同じ年に、布と厚紙の両方を使っている。

布は目が粗い。絵具が織り目に引っかかる。

厚紙は平らである。筆の跡がそのまま残る。

九点を見比べると、厚紙の作のほうが筆の跡が細かい。

支持体の性質が、画面の見え方に出ている。

黒衣の女
エドゥアール・ヴュイヤール《黒衣の女》1891年ごろ。厚紙に油彩。館の記録では、縦26.8センチ、横21.9センチとされる。額を含むと、縦45.7センチ、横39.7センチ、奥行き4.1センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《黒衣の女》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の小さな画面である。

左寄りに、黒い衣の人物が立つ。上体をわずかに前へ倒す。

顔は横を向く。目鼻はほとんど描かれない。

頭には小さな飾りが載る。

手前に、褐色の卓が大きく広がる。画面の下半分を占める。

卓の上に、白い皿がある。黄色い果物が三つほど載る。

その右に、褐色の塊がある。パンか布かは判別できない。

背景の壁は淡い黄土色である。

右上に、丸い形が見える。時計か鏡だと思われる。

卓が、画面を占める

この一点では、卓が画面の下半分を占める。

人物より、家具のほうが面積が大きい。

室内画では、こうした配分がよく起きる。

見えているものを、そのまま画面に入れれば、家具は大きくなる。

人を中心に据えないことが、この画家の選択である。

褐色でまとめる

この一点は、色数が非常に少ない。

黒、褐色、黄土色。それだけである。

明るいのは、皿の白と果物の黄だけである。

その二か所に目が行く。ほかは沈む。

少ない色でまとめる作りは、九点の多くに共通する。

イル・ド・フランスの風景
エドゥアール・ヴュイヤール《イル・ド・フランスの風景》1894年ごろ。厚紙に油彩。館の記録では、縦19.7センチ、横25.3センチとされる。額を含むと、縦34センチ、横39.7センチ、奥行き4.4センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《イル・ド・フランスの風景》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点で最も小さい一点である。

九点のなかで唯一、人物が描かれない。

画面の下三分の二に、畑が広がる。緑と黄土の帯が斜めに並ぶ。

帯の境目に、細い木が点々と立つ。

左手前には、褐色の壁のような塊がある。

右手前にも、四角い形がある。屋根か塀だと思われる。

上部には、白い雲が大きく盛り上がる。

空は明るい青で、雲の上に見える。

九点のなかで、最も明るい色が使われている。

人のいない画面

九点のうち二点には、人物がいない。

風景の一点と、暖炉の上の花瓶の一点である。

人がいなくても、画面の作り方は変わらない。

色を絞り、境目をぼかし、模様で面を埋める。

人物画と静物画のあいだに、描き方の差がない。

室内と、屋外

九点のうち、屋外の場面は三点である。

風景が一点、庭が一点、浜辺が一点である。

残る六点は、室内か、室内らしい場所である。

この画家は、室内の画家として知られている。九点の比率も、それに合う。

屋外を描くときも、色の作り方は変わらない。

庭での食事
エドゥアール・ヴュイヤール《庭での食事》1898年。厚紙に油彩。館の記録では、縦54.3センチ、横53.1センチとされる。額を含むと、縦80センチ、横78.7センチ、奥行き8.8センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《庭での食事》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

ほぼ正方形の画面である。

上半分は、暗い緑の茂みが覆う。葉が細かく重なる。

その茂みの中に、赤い壁と白い窓枠が見える。

中央には、白い柱のようなものが二本立つ。

下半分は、明るい地面である。白い点が一面に散る。

その地面に、人が三人いる。左の二人は座り、右に子どもが立つ。

中央の人物は灰色の上着で、背中を見せる。

左の人物は帽子をかぶる。

人の輪郭は溶け、地面の模様と混ざる。

正方形に近い画面

九点の縦横の比を見ると、正方形に近いものが二点ある。

一点は縦22.5センチ、横20.9センチ。もう一点は縦54.3センチ、横53.1センチである。

正方形は、上下も左右も強調しない。中心が定まる。

そのぶん、動きは生まれにくい。静かな画面になる。

九点の静けさは、判型の選び方にも支えられている。

光の点

いま見た一点では、地面が白い点で埋まる。

木漏れ日を、点の集まりで表している。

一つずつの点に形はない。密度だけで明るさを作る。

同じ手は、衣の模様にも使われる。

模様と光が、同じ描き方で処理されている。