模様に沈む人物——エドゥアール・ヴュイヤール
ヴュイヤールの室内では、縞の服が花模様の壁に溶けていく。厚紙という支持体、膠絵という技法、小品と装飾画の落差。模様の中の人が何を描いているのかを九点で読む。仲間との活動や、初期の自画像との落差も見ておきたい。

縞の服と、花模様の壁
一枚の絵から始めたい。

ほぼ正方形の画面である。縦65.7センチ、横58.7センチ。
手前に女性が座っている。
服は白地に赤の縞。細い縞が体の丸みに沿って曲がる。
髪は赤褐色で、後ろでまとめられている。
顔は下を向き、右手を前に伸ばしている。
その先には花瓶と花がある。白と黄の菊、赤い小さな花。
背後にもう一人の女性がいる。顔だけが見える。
そして、周囲を見てほしい。
壁は赤い花模様で埋められている。緑の葉と赤い花が全面に散る。
右には緑の茂み。左には金色の柱のような形がある。
つまり画面のほとんどが模様である。
模様は、19世紀末の室内そのものである
模様の多さは、画家の趣味だけの問題ではない。
19世紀末のパリの室内は、実際に模様で埋まっていた。
壁には花柄の壁紙、床には模様の絨毯、窓には柄物のカーテン。
家具には織物が掛けられ、卓布にも模様が入る。
つまり部屋の表面のほとんどが、何らかの模様で覆われていた。
産業革命によって、印刷された壁紙と織物が安く手に入るようになった時期である。
模様は贅沢の記号から、日常の風景へ移っていた。
だから室内を正確に描こうとすれば、模様を描くことになる。
写実として模様を描いた結果、画面が平面に近づいた。
この順序は覚えておきたい。
装飾のために模様を描いたのではなく、部屋を描いたら模様になったのである。
人が、模様に沈む
ここで問題が起きる。
人物と背景の区別が付きにくい。
赤い縞の服は、赤い花模様の壁と色が近い。
顔と手だけが、明るい肌色として浮かんでいる。
つまり人物は、模様の海に沈みかけている。
これは失敗ではない。意図された効果である。
室内の装飾と人を同じ密度で描き、境目を曖昧にする。
その結果、部屋全体が一つの模様として見える。
筆の性質も見ておきたい。
背景の花模様は、短い点と線の集まりで示されている。
一つずつの花の形は追えない。密度だけが見える。
一方、縞の服は線が明確である。方向も一定している。
つまり模様の種類によって、筆の使い方を変えている。
密度で示す模様と、方向で示す模様。二つが隣り合っている。
その差が、かろうじて人物と背景を分けている。
問い——模様の中の人は、何を描いているのか
ここから本稿の問いに入りたい。
当サイトが公開するこの画家の作品は18点ある。
制作年は1889年から1912年ごろまで。
主題は室内と人物に集中している。
そして多くの作品で、模様が画面を埋めている。
なぜ模様なのか。そして人はどう扱われているのか。
以下、確かめていきたい。
先に結論を書いておく。
模様は装飾ではなく、部屋そのものの記録である。
そして人物を沈ませることで、主題が「人」から「場」へ移っている。
支持体は、厚紙が多い
先に材料を確かめておきたい。
公開されている作品のうち、いくつかは厚紙に描かれている。
寸法も小さい。21×28センチ、26×22センチ、21×26センチ。
つまり葉書を数枚並べたほどの大きさである。
小さな厚紙に、室内の一場面を収める。
同じ時期に厚紙を使った画家は他にもいる。
その事情は別のコラムで扱った。
厚紙は安く、軽く、油を吸って乾きが速い。
日常の場面を素早く描く仕事に向いている。
厚紙にはもう一つの効果がある。
地の色が中間調として使えることである。
灰褐色の紙に暗い色を置けば影になり、明るい色を置けば光になる。
この画家の小品では、地の色がしばしば残っている。
つまり塗る面積が減り、画面が軽くなる。
材料の選択が、絵の調子まで決めている。
黄色い布が、画面を割る

小さな画面である。縦34.7センチ、横38.7センチ。
画面の中央から右に、黄色い布が垂れている。
カーテンである。縦の襞が暗い線で示されている。
その左には、花模様の壁紙が見える。桃色と緑の細かい模様である。
壁紙の前に、黒い服の人物が立っている。
顔は暗く、輪郭がぼやけている。頭に丸い形がある。
床は黄色で、右下に赤い椅子の背が見える。
つまり画面の半分が黄色い布である。
人物は隅に押しやられ、面積も小さい。
主題は人ではなく、布と壁紙の関係である。
垂れ布の描き方も見ておきたい。
黄色の面に、暗い縦線が数本引かれている。
襞の数はもっと多いはずだが、描かれているのは数本だけである。
つまり布の構造を省き、面と線で示している。
平らな黄色の面が大きいため、画面は明るく見える。
一色の大きな面を置くことは、構成の強い手段である。
版画の仕事と、同じ方法
この画家は版画も手がけている。
石版で色を摺る仕事である。
版画では、色ごとに版を作り、平らな面として摺る。
つまり陰影を作らず、面と輪郭で画面を組む。
その方法が、油彩や膠絵の画面にも入り込んでいる。
同じ時期のパリでは、版画とポスターの仕事が画家の収入源になっていた。
平面的な構成は、その実務から育った面がある。
厚紙に線と色面で描いた同時代の画家についても、同じ事情が指摘できる。
その仕事は別のコラムで扱った。
技法の共通性は、様式の共通性より確かな手がかりになる。