冬の絵は、よく動いている——グリフィア・タサール・バーチフィールドほか九点
冬の絵を九点数えると、じっとしている人は薪にもたれた母子だけだった。氷の上を滑り、鶏に餌をやり、枝を拾い、雪の街を行き交う。暖炉も炬燵も一点も描かれず、寒さをしのぐ場面はほとんど画面の外に置かれている。

凍った水の上に、人が出ている
小さな絵である。
画面の下半分に、白い氷が広がっている。
その上に、小さな人影が点々と散らばっている。
滑る人、身をかがめる人、こちらへ歩いてくる人。
右手には、塔のある建物と、赤い屋根の家々。
左には、雪をかぶった土手と、細い木が数本。
木の枝は、葉を落として黒い線になっている。
空は灰色で、雲の切れ間だけがわずかに明るい。
遠くの地平は、白くかすんでいる。

支持体は、銅の板である。
木でも布でもない。
金属の平らな面に描くと、絵の具の粒が沈まず、細部が鋭く出る。
だから小さな画面でも、豆粒の人の動きまで描き分けられる。
館の記録は、この絵について正直に迷いを書いている。
作者をグリフィアとする帰属を、疑う研究者が何人もいるという。
理由は二つある。
この画家は、ふつう銅板には描かなかった。
そして、主に狩りの場面を描く人だった。
もとになった版画があるのかもしれないが、その版はまだ見つかっていないとある。
つまり、誰が描いたのかも、何を写したのかも、はっきりしない。
はっきりしているのは、氷の上に人が出ていることだけである。
来歴の欄は、そのぶん詳しい。
1967年に収集家が画商から買い、その遺贈で2008年に館へ入った。
作者の名は揺れているのに、持ち主の名は確かに残っている。
絵の身元より、売り買いの記録のほうが正確に残る。
これは、九点のいくつかにも共通していた。
さて、冬は寒い。
だが絵の中の冬は、閉じこもってばかりではない。
滑り、歩き、餌をやり、薪を集める。
雪をどう白く作るかは、降っている雪は一点もないと数えた回で確かめた。
ここで数えたいのは、その先である。
絵の中の人は、冬をどう過ごしているのか。
九点を並べて、冬の暮らしを数えてみたい。
雪の農場で、鶏に餌をやる
二点目は、雪の農場である。

横に広い画面である。
左に納屋、右に母屋が並んでいる。
屋根には、雪が厚く積もっている。
真ん中には、雪をかぶった大きな干し草の塚がある。
前庭には、鶏が十数羽、地面をつついている。
その中に、赤い上着の人が立っている。
籠を手にして、腰をかがめている。
餌をまいているところらしい。
犬が一匹、家の角から出てくる。
裸の木が二本、灰色の空へ枝を広げている。
雪は、青みを帯びた白で塗られている。
館の記録は、作者と題と年と寸法だけの短いものである。
作者の欄には、アメリカ、19世紀、とだけある。
名前が残らなかった画家が、農場の一日を写した。
この絵で分かるのは、冬でも仕事が止まらないことである。
家畜には毎日餌が要る。
雪が降ろうが、鶏は腹を空かせる。
畑の仕事は止まっても、生き物の世話は止まらない。
だから冬の農場の絵には、たいてい餌をやる人が描かれる。
そして、干し草の塚がある。
夏のうちに刈っておいたものを、冬に少しずつ崩して使う。
冬の暮らしは、前の季節の蓄えの上に成り立っている。
塚の上にも、雪が丸く積もっている。
刈った草に雪がのり、その下で草はまだ乾いている。
雪は屋根の役もしている。
寸法は59.7×97.8センチ。
農場の絵としては、ゆったりした横幅である。
この絵も、収集家夫妻の寄贈で館へ入った。
名前の残らない画家の絵を集めた人たちの、その名前は残っている。
冬は、薪を集める季節でもある
三点目は、小さくて重い絵である。

石の壁の前に、女が座り込んでいる。
背をあずけているのは、積み上げた細い枝の束である。
膝の上には、白い布に包まれた赤子がいる。
女は顔を上に向け、目を細く開けている。
足元にも枝が散らばり、地面は白い。
服は厚いが、擦り切れている。
背景の壁は暗く、上のほうだけが雪で白い。
館の記録では、タサールは19世紀半ばのフランスの代表的な画家の一人だった。
打ちひしがれた働き手、困窮した母親、身よりのない子どもを描いたという。
社会の不公正に目を向けたことが、見る人の共感を呼んだと記録は書く。
そして記録は、この場面の中身を説明する。
雪の中で、母が赤子とともに屋外で休んでいる。
背をあずけているのは、集めた枝の山である。
貧しい人々は小さな木片を拾い集め、それを売った。
暖炉や竈で燃やすための薪である。
つまりこの絵の冬は、暖を取るための仕事の冬である。
寒さそのものが、生活の手段になっている。
豆知識の欄には、この画家が作家たちにも敬われたとある。
高名な小説家の本のために、挿絵も描いたという。
額を含めて33×25センチ。
手のひらより少し大きい程度の、小さな絵である。
小さな画面が、いちばん重い主題を持っている。
寒さは、絵の中で二通りに働く。
一つは、風景を美しくする白として。
もう一つは、人を追い詰めるものとして。
九点のうち、後者はこの一点だけである。
同じ雪が、絵によって役目を替える。