作品を知る

羊毛と麻は、裏に回る——ウィルキー・グロ・ヴュイヤールほか九点

油絵の下の布は麻で、綴織の暗い部分は羊毛。九点を数えると、二つはたいてい表に出ず、綴織では明るい面を絹に譲っていた。麻の卓掛けは高価すぎて銀の受け皿で守られ、羊毛は騎士団の名と人の姓になる。草から布までの隔たりをめぐる記録である。

野生のアマ
メアリー・ヴォー・ウォルコット《野生のアマ》スミソニアン協会蔵

細い茎の先に、青い花が咲いている

小さな水彩である。

紙は25.4×17.8センチしかない。

地は、白に近い薄い黄色である。

画面の中央に、細い茎が一本立つ。

茎は緑で、途中から数本に分かれる。

分かれた先に、花が三輪ある。

花は薄い青紫である。

花弁は五枚で、丸みがある。

弁には、細い筋が入る。

筋は中心から外へ放射する。

中心は白く、小さな粒がある。

花の下には、丸い蕾がある。

蕾は緑で、先が尖る。

葉は細長く、茎に沿って立つ。

葉の幅は、数ミリしかない。

根元のほうは、描かれていない。

茎は画面の下で切れる。

背景には、何も描かれていない。

左下に、小さな文字がある。

文字は二行で、頭文字と日付らしい。

鉛筆で薄く書かれている。

野生のアマ
メアリー・ヴォー・ウォルコット《野生のアマ》1919年。館の記録では、紙に水彩。紙は25.4×17.8センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。メアリー・ヴォー・ウォルコット《野生のアマ》スミソニアン協会蔵

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

題にある草は、麻布のもとになる植物である。

茎の中の繊維を取り出し、撚って糸にする。

その布を、麻布という。

綿より丈夫で、水に強い。

そして乾きが早い。

だから、卓の布や下着に使われた。

そして繊維が長い。

長い繊維は、細く強い糸になる。

綿の繊維は短く、撚らなければ切れる。

その差が、布の手ざわりを分ける。

羊毛と麻は、九つの場所に現れる

この一枚を出発点に、羊毛と麻にまつわる九点を数えていく。

羊毛は、獣の毛である。

麻は、植物の茎である。

どちらも、絹より安く、綿より古い。

先に言ってしまうと、九点のうち、麻の布そのものは一点である。

一点では、麻は絵の下の支持体である。

一点では、麻は守られる対象として説明されている。

一点では、麻は畳まれる洗濯物である。

羊毛は、二点で織物になっている。

一点では、羊毛は加工の道具として描かれている。

そして二点では、羊毛は名前の中にある。

つまり九点のうち二点で、材料の語は材料を指していない。

騎士団の名と、人の姓である。

羊毛を、梳く道具

二点目は、素描である。

「アイルランド西部のピープ・オデイ・ボーイズの小屋(眠るホワイトボーイ)」のための習作
デイヴィッド・ウィルキー《「アイルランド西部の小屋」のための習作》1835年。館の記録では、水彩、細筆、グワッシュ、黒鉛と茶インク。紙は23.4×21.9センチ。番号は1941.606。クリーヴランド美術館蔵。デイヴィッド・ウィルキー《「アイルランド西部のピープ・オデイ・ボーイズの小屋(眠るホワイトボーイ)」のための習作》クリーヴランド美術館蔵

小さな紙である。

紙は23.4×21.9センチしかない。

画面は、部屋の隅である。

左に、粗い木の梯子が立つ。

梯子の桟に、赤い布が掛かる。

布は厚く、端が垂れる。

中央に、太い木の腰掛けがある。

腰掛けの板は、削っただけである。

その上に、車がある。

車は輪の形で、輻が細い。

輪の脇に、細い軸が伸びる。

糸を紡ぐための道具である。

腰掛けの手前には、板が二枚ある。

板には、細かい針が並ぶ。

右上には、鎖が下がる。

壁は灰色で、粗い。

色は、赤い布のところにしか置かれていない。

ほかは、灰と褐色の淡彩である。

白いグワッシュが、道具の縁に置かれる。

館の記録では、この画家は絵を描くのは遅かったが、素描は数多く残した。

想像を促し、絵を組み立てるために、素描に頼ったという。

そして館は、この一枚について書いている。

これは、翌年に展覧会へ出した絵のための習作である。

画家は、室内の細部を練っている。

描かれているのは、羊毛を加工していたある国の小屋の隅である。

繊維をほぐすための梳き板が一対と、糸車が、粗く削った腰掛けの上にある。

そして手で染めた赤い布が、梯子の桟に投げ掛けられているという。

館の記録は、そう説明している。

つまり道具が三つ描かれている。

梳き板、糸車、そして染めた布。

工程の順に、並んでいる。

梳いて、紡いで、染める。

そのあとに、織る工程が来る。

織り機は、この画面にない。

九点のうち、羊毛の工程が描かれているのは、この一点である。

羊毛と絹で、大きな壁掛けを織る

三点目は、綴織である。

ウェヌスがアエネアスと友アカテスにカルタゴへ行くよう告げる
ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ《ウェヌスがアエネアスと友アカテスにカルタゴへ行くよう告げる》1679年。館の記録では、綴織、絹と羊毛。全体は411.3×294.5センチ。番号は1915.79.1。クリーヴランド美術館蔵。ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ《ウェヌスがアエネアスと友アカテスにカルタゴへ行くよう告げる》クリーヴランド美術館蔵

巨大な壁掛けである。

411.3×294.5センチある。

縁には、太い枠の文様が回る。

枠には、木の葉と果実が並ぶ。

左右の枠は、柱の形をしている。

柱には、彫刻に似た形が織り出される。

上の枠の中央に、楕円の飾りがある。

中央の場面は、屋外である。

奥に、深い緑の木立がある。

木立の向こうに、明るい空が見える。

手前の左に、女が立つ。

女は青い衣で、腰に布を巻く。

手を前へ差し出す。

右には、男が二人いる。

一人は赤い衣で、槍を持つ。

もう一人は、その後ろに立つ。

足元には、草と花がある。

花は白と赤で、小さい。

草は、細い線を並べて織り出される。

館の記録では、狩人の姿をした女神が、息子にある女王を訪ねるよう勧めている。

女神は、息子にさすらいをやめ、女王と結婚してほしいと望んでいるという。

館の記録は、そう説明している。

そして館は、この一枚が八枚一組の連作の一つだと書いている。

材料は、絹と羊毛である。

絹は光を返し、羊毛は光を吸う。

明るい部分に絹が、暗い部分に羊毛が使われる。

羊毛は、太い糸になる。

だから、広い面を早く埋められる。

この大きさを織るには、その速さが要る。

絹だけで織れば、費用も時間も倍になる。

綴織の二つの名については、二つの名前で扱った。

麻の糸だけで、卓の布を織る

四点目は、麻の布である。