羊毛と麻は、裏に回る——ウィルキー・グロ・ヴュイヤールほか九点
油絵の下の布は麻で、綴織の暗い部分は羊毛。九点を数えると、二つはたいてい表に出ず、綴織では明るい面を絹に譲っていた。麻の卓掛けは高価すぎて銀の受け皿で守られ、羊毛は騎士団の名と人の姓になる。草から布までの隔たりをめぐる記録である。

細い茎の先に、青い花が咲いている
小さな水彩である。
紙は25.4×17.8センチしかない。
地は、白に近い薄い黄色である。
画面の中央に、細い茎が一本立つ。
茎は緑で、途中から数本に分かれる。
分かれた先に、花が三輪ある。
花は薄い青紫である。
花弁は五枚で、丸みがある。
弁には、細い筋が入る。
筋は中心から外へ放射する。
中心は白く、小さな粒がある。
花の下には、丸い蕾がある。
蕾は緑で、先が尖る。
葉は細長く、茎に沿って立つ。
葉の幅は、数ミリしかない。
根元のほうは、描かれていない。
茎は画面の下で切れる。
背景には、何も描かれていない。
左下に、小さな文字がある。
文字は二行で、頭文字と日付らしい。
鉛筆で薄く書かれている。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
題にある草は、麻布のもとになる植物である。
茎の中の繊維を取り出し、撚って糸にする。
その布を、麻布という。
綿より丈夫で、水に強い。
そして乾きが早い。
だから、卓の布や下着に使われた。
そして繊維が長い。
長い繊維は、細く強い糸になる。
綿の繊維は短く、撚らなければ切れる。
その差が、布の手ざわりを分ける。
羊毛と麻は、九つの場所に現れる
この一枚を出発点に、羊毛と麻にまつわる九点を数えていく。
羊毛は、獣の毛である。
麻は、植物の茎である。
どちらも、絹より安く、綿より古い。
先に言ってしまうと、九点のうち、麻の布そのものは一点である。
一点では、麻は絵の下の支持体である。
一点では、麻は守られる対象として説明されている。
一点では、麻は畳まれる洗濯物である。
羊毛は、二点で織物になっている。
一点では、羊毛は加工の道具として描かれている。
そして二点では、羊毛は名前の中にある。
つまり九点のうち二点で、材料の語は材料を指していない。
騎士団の名と、人の姓である。
羊毛を、梳く道具
二点目は、素描である。

小さな紙である。
紙は23.4×21.9センチしかない。
画面は、部屋の隅である。
左に、粗い木の梯子が立つ。
梯子の桟に、赤い布が掛かる。
布は厚く、端が垂れる。
中央に、太い木の腰掛けがある。
腰掛けの板は、削っただけである。
その上に、車がある。
車は輪の形で、輻が細い。
輪の脇に、細い軸が伸びる。
糸を紡ぐための道具である。
腰掛けの手前には、板が二枚ある。
板には、細かい針が並ぶ。
右上には、鎖が下がる。
壁は灰色で、粗い。
色は、赤い布のところにしか置かれていない。
ほかは、灰と褐色の淡彩である。
白いグワッシュが、道具の縁に置かれる。
館の記録では、この画家は絵を描くのは遅かったが、素描は数多く残した。
想像を促し、絵を組み立てるために、素描に頼ったという。
そして館は、この一枚について書いている。
これは、翌年に展覧会へ出した絵のための習作である。
画家は、室内の細部を練っている。
描かれているのは、羊毛を加工していたある国の小屋の隅である。
繊維をほぐすための梳き板が一対と、糸車が、粗く削った腰掛けの上にある。
そして手で染めた赤い布が、梯子の桟に投げ掛けられているという。
館の記録は、そう説明している。
つまり道具が三つ描かれている。
梳き板、糸車、そして染めた布。
工程の順に、並んでいる。
梳いて、紡いで、染める。
そのあとに、織る工程が来る。
織り機は、この画面にない。
九点のうち、羊毛の工程が描かれているのは、この一点である。
羊毛と絹で、大きな壁掛けを織る
三点目は、綴織である。

巨大な壁掛けである。
411.3×294.5センチある。
縁には、太い枠の文様が回る。
枠には、木の葉と果実が並ぶ。
左右の枠は、柱の形をしている。
柱には、彫刻に似た形が織り出される。
上の枠の中央に、楕円の飾りがある。
中央の場面は、屋外である。
奥に、深い緑の木立がある。
木立の向こうに、明るい空が見える。
手前の左に、女が立つ。
女は青い衣で、腰に布を巻く。
手を前へ差し出す。
右には、男が二人いる。
一人は赤い衣で、槍を持つ。
もう一人は、その後ろに立つ。
足元には、草と花がある。
花は白と赤で、小さい。
草は、細い線を並べて織り出される。
館の記録では、狩人の姿をした女神が、息子にある女王を訪ねるよう勧めている。
女神は、息子にさすらいをやめ、女王と結婚してほしいと望んでいるという。
館の記録は、そう説明している。
そして館は、この一枚が八枚一組の連作の一つだと書いている。
材料は、絹と羊毛である。
絹は光を返し、羊毛は光を吸う。
明るい部分に絹が、暗い部分に羊毛が使われる。
羊毛は、太い糸になる。
だから、広い面を早く埋められる。
この大きさを織るには、その速さが要る。
絹だけで織れば、費用も時間も倍になる。
綴織の二つの名については、二つの名前で扱った。
麻の糸だけで、卓の布を織る
四点目は、麻の布である。