三つの町の甲冑師——ロッホナー、グロースシェーデル、ペッフェンハウザー
徒歩の試合のための甲冑
七点目は、用途が特定されている。

上半身だけの甲冑である。
高さは98.2センチ。
兜は大きく、面頬が二重になっている。
喉から胸へ、幅の広い覆いが続く。
肩当ては上へ立ち上がる。
腕は肘まで覆われ、籠手が付く。
腰から腿へ、板が垂れる。
表面には、金の唐草が広く入る。
暗い地に、金の線が浮かぶ。
徒歩の試合とは
徒歩の試合は、馬に乗らない競技である。
柵を挟んで向かい合い、槍や斧で打ち合う。
下半身は柵に隠れる。
だから、脚の防具が要らない。
その代わり、上半身と頭を厚く守る。
この甲冑が上半身だけなのは、そのためである。
用途が決まれば、必要な部分も決まる。
甲冑の形は、競技の規則から導かれている。
兜が五キロある
この甲冑の兜は、5245グラムある。
五キロを超える。
全体の重さが約21キロだから、四分の一が頭に集中している。
首への負担は大きい。
しかし、頭は最も守るべき場所である。
打撃を受ければ、致命傷になる。
だから、厚くする。
その結果、首が支えきれる限界に近づく。
甲冑の設計は、この限界との交渉である。
金の装飾
この甲冑の装飾は、九点の中でも濃い。
胸、肩、腕、腰。
ほぼ全面に、金の唐草が入る。
装飾の方法は、地を彫って暗くし、そこに金を置くものである。
彫った線の内側だけが金色になる。
この処理には、時間がかかる。
一領を仕上げるのに、何か月もかかっただろう。
そして、費用も上がる。
選帝侯という立場の注文主だからこそ、可能だった仕様である。
もう一領の一式
八点目も、ペッフェンハウザーである。

全身の甲冑である。
兜は縦に高く、頂に稜が立つ。
面頬には、細い格子状の隙間が並ぶ。
胸当ては、中央がわずかに尖る。
肩当ては大きく、上へ跳ね上がる。
腰から下は、短い袴のような形に広がる。
その下に、腿と脛の覆いが続く。
表面には、金の帯が縦に走る。
帯の中には、細かい文様が刻まれる。
重さは27.7キロで、九点の中で最も重い。
重さの範囲
九点の重さを並べてみたい。
20.96キロから27.7キロ。
馬鎧を除けば、この範囲に収まる。
つまり、二十キロ台が標準だった。
これより軽ければ、防御が足りない。
重ければ、動けない。
長い経験の中で、この範囲に落ち着いたのだろう。
そして、この重さは体全体に分散される。
肩、腰、脚。
一か所に集中しないよう、部品ごとに支える。
馬上槍試合の甲冑
九点目は、用途がさらに限定される。

装飾のない、簡素な甲冑である。
表面は磨かれているが、文様は入らない。
兜は丸く、面頬が長く前へ出る。
肩当ては、左右で形が違う。
槍を構える側と、受ける側で、必要が違うためである。
胸当ての右側には、金具が突き出る。
槍を支えるための受けである。
腰から腿へ、板が垂れる。
膝から下は、覆われていない。
左右で、形が違う
この甲冑の左右の非対称に注目したい。
馬上槍試合では、相手は必ず左側から来る。
柵を挟んで、右手に槍を持ってすれ違うからである。
だから、左肩と左腕を厚くする。
右側は、槍を扱うために動かなければならない。
厚くすると、動きが鈍る。
この事情が、形の非対称になって表れている。
規則が、道具の形を決めている。
装飾のない甲冑
この一領には、装飾がほとんどない。
先の選帝侯の甲冑とは、対照的である。
理由は、用途だろう。
試合用の甲冑は、実際に打たれる。
装飾は、打撃で傷む。
だから、装飾を省いた実用の一領も作られた。
同じ工房が、華やかな一領と簡素な一領の両方を作る。
注文主の目的に応じて、仕様を変えている。
収集家の名前
九点の受け入れ記録を並べてみたい。
一九〇四年、一三年、二一年、二三年、二七年、二九年、三二年、三三年。
三十年ほどの間に、集中している。
寄贈者の名も、複数ある。
いずれも、二十世紀前半の米国の収集家である。
この時期、欧州の甲冑が市場に出ていた。
古い家の蔵が売られ、収集家が買う。
そして、美術館へ寄贈される。
いま並んでいる九点は、その動きの結果である。
刻印を探す
甲冑の帰属を決めるのは、刻印である。
町の徽章と、工房の徽章が打たれる。
ニュルンベルクなら鷲の形、アウクスブルクなら松かさの形。
工房ごとの印も、別に打たれる。
これが残っていれば、産地と作者が絞れる。
打たれる位置は、胸当ての内側や肩当ての縁が多い。
つまり、展示状態では見えない場所である。
九点の帰属も、こうした見えない印にもとづいている。
見える装飾ではなく、見えない印が作者を決めている。
九点を、順に見る
最後に、見方を提案したい。
九点の肩当てを、順に見比べてほしい。
上へ跳ね上がるもの。
平らに広がるもの。
左右で形の違うもの。
肩当ては、甲冑の中でも変化の大きい部分である。
腕を動かす必要があり、同時に守らなければならない。
その両立の仕方に、工房ごとの考え方が出る。
三つの町の作を、肩の形で見比べる。
そうすると、産地の違いが少しずつ見えてくる。
顔でも、装飾でもなく、肩を見る。
そういう見方を試してほしい。








