画家を知る

自画像が、四点ある——アリス・パイク・バーニー

二点目——鏡に映る自分を描く

鏡に映る自画像
アリス・パイク・バーニー《鏡に映る自画像》1896年。油彩・画布。縦90.1センチ、横78.2センチ。スミソニアン米国美術館蔵。アリス・パイク・バーニー《鏡に映る自画像》スミソニアン協会蔵

こちらは大きい。縦90.1センチ、横78.2センチ。

画面は円形に近い形に描かれている。

中央に女性が座っている。淡い金色の衣で、袖が膨らむ。

腰に桃色の帯。首元は開き、肌が明るい。

顔は正面を向き、頬に赤みがある。

そして画面の右に、もう一つの顔がある。

同じ人物の横顔である。鏡に映った姿として描かれている。

つまり一枚の絵に、正面と横顔が同時に入っている。

自画像で鏡を描くことには、二重の意味がある。

鏡は自画像の道具である。それを画面の中に描けば、制作の場を示せる。

同時に、自分を二つの角度から見せることができる。

もう一つ、円形に近い画面の効果もある。

四隅が暗く落ち、視線が中央に集まる。

装飾画で好まれた形式で、壁の一角に掛けることを想定している。

つまりこの一点は、飾ることを前提にした自画像である。

自分の顔を、装飾として壁に掛ける。強い自己主張だと言える。

三点目——画室の衣で立つ

画衣の自画像
アリス・パイク・バーニー《画衣の自画像》1896年。油彩・画布。縦106.7センチ、横73センチ。スミソニアン米国美術館蔵。アリス・パイク・バーニー《画衣の自画像》スミソニアン協会蔵

四点のうち最も大きい。縦106.7センチ、横73センチ。

女性が立ち、こちらを向いている。

淡い藤色の衣を羽織り、下に色の濃い服が見える。

左手にパレットを持ち、右手で筆を握っている。

パレットには絵具が置かれ、赤と黄と白が混ざっている。

背景は淡く、輪郭がぼやけている。左下に青い帯が見える。

顔は正面。目はやや見開かれ、口は閉じている。

左上に署名がある。

先の一点と同じ1896年である。

しかし構成が違う。全身に近い立ち姿で、道具を明示している。

つまり同じ年に、二通りの自己像を作っていることになる。

一つは表情の絵。もう一つは職業の絵である。

衣にも注目したい。

淡い藤色の羽織は、外出着ではない。

絵具で汚れることを前提にした画室の衣だろう。

つまり「働いている場所」を示す服装である。

服装と道具の二つで、職業を説明していることになる。

四点を並べて分かること

四点の寸法を並べてみたい。

46×38.2センチ、90.1×78.2センチ、106.7×73センチ、84.5×61.3センチ。

小品から等身大に近いものまで幅がある。

つまり用途が違う。小品は手元に置き、大作は展示に出すためだろう。

自画像は、練習でもあり、展示作でもあり、名刺でもある。

画家として活動するには、自分の顔と名前を知らせる必要がある。

その道具として、自画像は最も手近な材料だった。

制作年の並びも意味を持つ。

三点が1896年に集まっている。この年に何かがあったと考えられる。

新しい画室を得たか、展覧会に出す準備をしたか。

公開されている記録からは判断できないため、推測にとどめる。

ただし、同じ年に自画像を三点作るのは、明確な意図があったはずである。

舞踏家を描く

自画像以外の仕事も見ておきたい。

ルース・セント・デニス
アリス・パイク・バーニー《ルース・セント・デニス》1910年。油彩・画布。縦93.7センチ、横60.6センチ。スミソニアン米国美術館蔵。アリス・パイク・バーニー《ルース・セント・デニス》スミソニアン協会蔵

若い女性が立っている。

衣装は緑と金。薄い布が体に沿い、裾が広がる。

胸元には金の飾りが縫い付けられ、光を反射している。

頭には宝石を並べた被り物。

右手を腰に当て、左手を下げている。

顔は上向きで、視線は画面の外へ向く。

背景は黄と緑の斜めの筆跡で埋められている。

描かれているのは、アメリカの舞踏家である。

所蔵館の記録は、描かれた人物の名を「ルース・セント・デニス」と記す。

20世紀初頭に活動した舞踏家で、東洋の主題を取り入れた舞台で知られる。

つまりこれは、同時代の舞台芸術の記録でもある。

衣装の描写に力が入っているのは、舞台の装いを示すためだろう。

舞台を描くという仕事

舞踏家の肖像について、もう少し書いておきたい。

20世紀初頭は、舞台芸術と美術が近づいた時期である。

舞踏家や俳優の肖像が、絵にも写真にも数多く作られた。

理由は宣伝である。公演の宣伝物として肖像が使われた。

同時に、動きのある身体は絵の主題としても新しかった。

止まった姿勢の中に動きの予感を入れる。難しい課題である。

この一点では、腰に当てた手と、上を向いた顔がその役をしている。

体は静止しているが、次の動作が想像できる。

役者の姿を版画にした日本の例と、需要の形が似ている。

その事情は別のコラムで扱った。

パステルと油彩を使い分ける

材料にも触れておきたい。

この画家はパステルの肖像も多く作ったと伝えられる。

当サイトの公開分は油彩が中心である。

パステルは短時間で仕上がり、肌の質感を出しやすい。

一方で定着が難しく、扱いに注意が要る。

油彩は保存に強く、展覧会にも出しやすい。

つまり用途によって材料を選び分けていたと考えられる。

公開されている画像の構成が、その使い分けを見えにくくしている。

収蔵と公開の偏りは、画家像に影響する。

装飾的な大画面もある

女と孔雀
アリス・パイク・バーニー《女と孔雀》1900年ごろ。油彩・画布。縦73センチ、横117.9センチ。スミソニアン米国美術館蔵。アリス・パイク・バーニー《女と孔雀》スミソニアン協会蔵

横長の画面である。縦73センチ、横117.9センチ。

右に女性が半身で描かれている。緑の上衣で、黒い髪を結っている。

顔は横を向き、目を伏せている。

その手前に、青い大きな壺がある。表面に光沢がある。

そして画面の左から中央へ、孔雀の羽が広がっている。

羽の目玉模様が点々と並び、灰色の壁に重なる。

壁には彫刻のような装飾も見える。

つまりこれは肖像ではなく、装飾的な画面である。

19世紀末から20世紀初頭には、こうした装飾画が流行した。

平面的な構成、抑えた色、東洋の意匠の引用。

同じ趣味は、ガラスや家具にも現れている。

その事情は別のコラムで扱った。