暮らしと名画

担ぐと、体が傾く——ピアッツェッタ・ゴヤ・春章ほか九点

重い荷を持てば体は反対側へ傾き、膝が曲がる。担ぐの九点を数えると、五点で体は明らかに傾き、荷の軽い二点ではまっすぐだった。駕籠かきを演じる役者の絵には駕籠がなく、姿勢だけが荷の代わりをしている。傾きの角度が重さの目盛りである。

幼子キリストを担ぐ聖クリストフォロス
ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ《幼子キリストを担ぐ聖クリストフォロス》メトロポリタン美術館蔵

肩に子を乗せて、川を渡る

縦長の画面である。

71.8×56.2センチある。

背景は、暗い褐色である。

上のほうだけが、わずかに明るい。

画面の中央に、男がいる。

男は腰から上が見える。

顔は上を向く。

口は半ば開き、息を吐いている。

額には、深い皺が寄る。

髪は乱れ、額に落ちる。

髭は短く、白いものが混じる。

上着は白く、袖が広い。

肩には、赤褐色の布が掛かる。

体は右へ傾く。

右腕は高く上がる。

その手が、太い棒を握る。

棒は縦に立ち、画面の上まで伸びる。

杖である。

左腕は、上へ回る。

その腕の上に、子どもが座る。

子どもは裸である。

体は小さく、丸い。

右手を上げ、指を伸ばす。

左手は、男の頭に触れる。

顔は男を見下ろす。

二人の重心が、右へ寄る。

体の傾きが、重さを示す。

幼子キリストを担ぐ聖クリストフォロス
ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ《幼子キリストを担ぐ聖クリストフォロス》1730年代。館の記録では、油彩・カンヴァス。71.8×56.2センチ。番号は67.187.90。メトロポリタン美術館蔵。ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ《幼子キリストを担ぐ聖クリストフォロス》メトロポリタン美術館蔵

館の札には、二人の名がある。

館の記録は、それ以上のことを書いていない。

つまり分かるのは、誰が誰を担いでいるかだけである。

伝えでは、この聖人は川を渡す仕事をしていた。

ある夜、一人の子を肩に乗せた。

子は進むほど重くなり、渡りきれなくなりかけたという。

担ぐとは、重さを体に移すことである。

移した重さは、姿勢に出る。

担ぐは、九つの場所に現れる

この一枚を出発点に、担ぐことにまつわる九点を数えていく。

担ぐ体には、決まった形がある。

背が丸まり、膝が曲がる。

そして重心が、荷の側へ寄る。

先に言ってしまうと、九点のうち、人を担いでいるのは三点である。

三点では、担がれているのは物である。

一点では、担ぐ道具だけが写る。

一点では、担ぐことが画家の名になっている。

そして一点では、担ぐのは神である。

つまり九点のうち、荷が人であるものと物であるものが、ほぼ同数である。

十字を担いで、地に膝をつく

二点目は、板絵である。

十字架を担うキリスト
ベンヴェヌート・ディ・ジョヴァンニ《十字架を担うキリスト》1491年か。館の記録では、テンペラ・板。画面は41.4×47.4センチ。番号は1952.5.52。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ベンヴェヌート・ディ・ジョヴァンニ《十字架を担うキリスト》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の小さな板絵である。

画面は41.4×47.4センチある。

画面は、町の外である。

奥には、城壁と塔が並ぶ。

塔は白く、細い。

その手前に、木が数本立つ。

木は細長く、上へ伸びる。

画面の中央に、人が集まる。

中央の人物は、赤い衣を着る。

体は前へかがむ。

肩に、太い木が渡る。

木は二本を組んだ十字である。

十字の先は、画面の左上へ伸びる。

人物の膝は、地に着きかけている。

その左に、女が数人立つ。

女たちは、暗い衣である。

一人は手を差し伸べる。

右には、馬に乗った兵士がいる。

兵士は槍を持つ。

馬は白く、首を上げる。

さらに右にも、人が数人いる。

地面は緑で、平らである。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

年の欄には、たぶんという語が付く。

つまり年も、確かではない。

九点のうち、年に留保が付くのは、この一点である。

同じ場面が、画家の名になる

三点目も、同じ主題である。

十字架を担うキリスト
ウスターの十字架を担うキリストの画家《十字架を担うキリスト》1425年ごろ。館の記録では、板に油彩。24.6×19.5センチ。番号は1947.79。シカゴ美術館蔵。ウスターの十字架を担うキリストの画家《十字架を担うキリスト》シカゴ美術館蔵

縦長の小さな板絵である。

24.6×19.5センチしかない。

手のひらより少し大きいだけである。

画面は、人で埋まっている。

隙間が、ほとんどない。

中央に、桃色の衣の人物がいる。

体は前へ折れ、膝をつく。

顔は横を向く。

肩に、太い木が乗る。

木は画面を斜めに横切る。

木の端は、画面の外へ出る。

そのまわりに、兵士がいる。

兵士は兜をかぶり、槍を持つ。

一人は、綱を引く。

綱は人物の腰に回る。

左には、暗い衣の女が二人いる。

一人は手を口に当てる。

背景は緑で、平らである。

上のほうには、旗が見える。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

作者の欄には、名がない。

かわりに、この主題を描いた画家として呼ばれている。

つまり作品の題が、そのまま画家の呼び名になっている。

九点のうち、担ぐことが画家の名なのは、この一点である。

三人で、一人を運ぶ

四点目では、運ばれるのは負傷者である。

負傷した兵士を運ぶ三人の男(スペインの情景より)
フランシスコ・デ・ゴヤ《負傷した兵士を運ぶ三人の男》1812年から20年。館の記録では、筆と茶インク、茶と灰の淡彩。クリーム色の簀の目紙。20.2×14.1センチ。番号は1960.313。シカゴ美術館蔵。フランシスコ・デ・ゴヤ《負傷した兵士を運ぶ三人の男(スペインの情景より)》シカゴ美術館蔵

縦長の小さな紙である。

20.2×14.1センチしかない。

線はほとんどない。

形は、淡彩の面でできている。

面は茶と灰である。

画面の上のほうに、大きな岩がある。

岩は暗く、輪郭がぼける。

その下に、人が四人いる。

三人は立ち、一人は支えられる。

支えられる人は、頭が垂れる。

腕は、両側の人の肩に回される。

脚は、地面を引きずる。

左の人は、両手でその体を抱える。

右の人は、腰を支える。

奥の一人は、後ろから押す。

四人とも、顔がはっきりしない。

目も口も、描かれていない。

衣は暗く、輪郭だけである。

地面は明るく、影が短い。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

題には、連作の名が添えられる。

つまりこれは、一枚ではなく組の一枚である。

そして題は、していることをそのまま述べている。

三人が、一人を運ぶ。

九点のうち、運ぶ人が三人なのは、この一点である。

駕籠を担ぐ役を、役者が演じる

五点目では、担ぐことは演技である。