美術史・技法

作者の名が、ない八枚——十八世紀のフランス絵画

作者の欄には、時代と地域だけが書かれている。美術館は分からないものを分からないと登録し、推測で名を当てはめない。紙に描いてカンヴァスに貼った下絵から、古代の主題まで。名の空白そのものを八枚で読む。名がなくても、作品は残る。

サビニの女たちの略奪
サビニの女たちの略奪》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

作者の名が、ない八枚

一枚の絵から始めたい。

サビニの女たちの略奪
作者不詳(十八世紀のフランス)《サビニの女たちの略奪》1770年ごろ。油彩、紙、カンヴァスに裏打ち。縦56.5センチ、横108.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。サビニの女たちの略奪》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面である。

多数の人物が、入り乱れる。

中央に、白い馬が立ち上がる。

そして、その上に人物がいる。

左右に、掴み合う人々。

奥に、建物と柱が見える。

空には、雲が広がる。

作者が、分からない

館の記録を見たい。

作者の欄には、時代と地域だけがある。

つまり、名が分かっていない。

八枚とも、作者不詳

この記事で扱う八枚は、すべて同じである。

そして、館は「十八世紀のフランス」とだけ記す。

分からないと、書く

美術館は、分からないものを分からないと登録する。

そして、推測で名を当てはめない。

つまり、これは誠実な記録である。

当サイトの
作者の名が、ない九枚でも、
同じ扱いに触れた。

描かれている場面

題を見たい。

古代の伝承にもとづく場面である。

そして、女性たちが力ずくで連れ去られる。

館の題も、その意味の語を含む。

古代の主題という枠

十八世紀の絵画では、古代の物語がよく描かれた。

そして、それは教養の証でもあった。

つまり、主題を知っていることが前提である。

見る側にも、知識が求められた。

主題の暴力

画面には、掴み合う人々がいる。

そして、倒れた人物もいる。

つまり、暴力の場面である。

主題を、どう扱うか

古代の主題は、繰り返し絵にされてきた。

そして、その多くは暴力を含む。

当サイトでは、主題の内容を省かずに書く。

美しい画面であることと、描かれた出来事は別である。

紙に描いて、布に貼る

技法欄を見たい。

油彩、紙、カンヴァスに裏打ちとある。

つまり、紙に描いた絵を布に貼っている。

なぜ、紙に描くか

紙は、画布より安い。

そして、軽く、扱いやすい。

つまり、下絵や習作に向く。

紙の大きさ

寸法を見たい。

縦56.5センチ、横108.9センチ。

つまり、紙としては大きい。

一枚で取れたかどうかは、記録にない。

下絵という性格

この一枚は、下絵かもしれない。

大きな作品のための構図の検討である。

もっとも、館の記録は示していない。

だから、当サイトは断定しない。

裏打ちという処置

紙は、時間が経つと脆くなる。

そこで、布に貼って支える。

つまり、保存のための処置である。

色の使い方

色を見たい。

赤、青、白、そして肌の色。

つまり、原色に近い色が並ぶ。

そして、隣り合って置かれる。

筆の速さ

画面を見たい。

人物の輪郭が、太い筆で示される。

そして、細部は追われていない。

つまり、速く描かれている。

多数を、配置する

人物の数を数えたい。

二十人を超えるだろう。

そして、画面いっぱいに広がる。

つまり、群像の構図である。

建築という背景

奥を見たい。

柱と、屋根のある建物が並ぶ。

そして、遠くに塔が立つ。

つまり、都市の設定である。

中央の白い馬

構図の中心を見たい。

白い馬が立ち上がる。

そして、その白が最も明るい。

視線は、まずそこへ行く。

ディヴェルティスマン
作者不詳(十八世紀のフランス)《ディヴェルティスマン》十八世紀。油彩、カンヴァス。縦32.2センチ、横25.3センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ディヴェルティスマン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

庭園の場面

二点目は、屋外である。

草地に、人々が集まる。

中央に、桃色の衣の女性が座る。

その隣に、黒い衣の女性。

右に、楽器を持つ人物。

奥に、木立と石の壺。

手前に、小さな子ども。

人物の配置

七人ほどの位置を見たい。

中央に二人、左に二人、右に二人。

そして、手前に一人。

つまり、円を描くように並ぶ。

題の意味

題を見たい。

楽しみや気晴らしを意味する語である。

つまり、遊興の場面である。

制作年が、世紀だけ

年代を見たい。

十八世紀、とだけ記される。

つまり、百年の幅がある。

何が、分からないか

年代が絞れないと、何が困るか。

まず、他の作品と比べにくい。

そして、様式の位置づけができない。

もっとも、絵を見ることはできる。

幅の広い記録

年代の幅は、記録の少なさを示す。

そして、様式からも絞れなかったのだろう。

館は、無理に絞らない。

石の壺

奥を見たい。

台の上に、大きな壺が置かれる。

つまり、庭園の装飾である。

十八世紀の庭には、こうした壺があった。

小さな画面

寸法を見たい。

縦32.2センチ、横25.3センチ。

つまり、小さい。

そこに、七人ほどが描かれる。

桃色という一点

中央の衣を見たい。

明るい桃色である。

そして、画面で最も強い色である。

暗い緑の背景の中で、そこだけが浮かぶ。

手前の子ども

画面の下を見たい。

小さな人物が二人いる。

そして、地面に座る。

つまり、子どもだろう。

楽器を持つ人物

右を見たい。

人物が、楽器を抱える。

そして、弦をつま弾く。

つまり、音楽のある場面である。

若い女性と男性
作者不詳(十八世紀のフランス)《若い女性と男性》十八世紀。油彩、板。縦11.8センチ、横9.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。若い女性と男性》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

十二センチの板

三点目は、きわめて小さい。

縦11.8センチ、横9.9センチ。

つまり、手のひらに載る。

板の利点

板は、硬く、表面が平らである。

そして、細かい描写に向く。

小さな絵では、扱いも楽である。

板という支持体

技法欄を見たい。

油彩、板とある。

つまり、画布ではない。

小さな絵には、板がよく使われる。

板の小ささ

寸法を見たい。

縦14.5センチ、横12.2センチ。

つまり、手のひらほどである。

そこに、顔と肩が入る。

描かれているもの

画面を見たい。

女性が、正面を向く。

そして、頭に赤い羽飾り。

手前に、男性の後ろ姿。

暗い衣を着ている。

赤い羽飾り

頭を見たい。

赤い羽が、数本立つ。

そして、その下に布がある。

つまり、装いの中心である。

暗い画面で、最も強い色である。

後ろ姿を、手前に

構図を見たい。

手前の人物は、背を向ける。

そして、顔が見えない。

つまり、見る側と同じ向きである。

二人の関係

女性は、こちらを見る。

そして、男性は女性を見る。

つまり、視線が交差しない。

手元

女性の手元を見たい。

何かを持っているように見える。

もっとも、暗くて判別できない。

だから、当サイトは断定しない。

暗い画面

色を見たい。

全体が、暗い茶である。

そして、顔と胸元だけが明るい。

つまり、明暗の差が大きい。

十二センチに、二人

寸法を思い出したい。

縦11.8センチである。

その中に、二人の人物が入る。

つまり、顔は二センチ足らずだろう。

変色の可能性

古い油彩は、仕上げの層が黄ばむ。

そして、暗く見えることがある。

だから、もとの色は分からない。