美術史・技法

作者の名が、ない八枚——十八世紀のフランス絵画

若い男性の肖像

七点目は、男性である。

若い男性の肖像
作者不詳(十八世紀のフランス)《若い男性の肖像》おそらく1770年ごろ。油彩、カンヴァス。縦65.3センチ、横54.4センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。若い男性の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

若い男性が、体をひねる。

顔は、こちらを向く。

白い髪に、灰色の上衣。

首元に、白と緑の布。

右手を、下へ伸ばす。

背景は、明るい茶。

「おそらく」という表記

年代を見たい。

おそらく一七七〇年ごろ、とされる。

つまり、二重に不確かである。

表記を、そのまま伝える

「おそらく」を落とすと、断定になる。

そして、意味が変わる。

だから、当サイトはそのまま訳す。

二重の留保

「おそらく」と「ごろ」が重なる。

つまり、確からしさが低い。

館は、その度合いを表記で示している。

筆の跡

画面を見たい。

筆の跡が、はっきり残る。

そして、細部が追われていない。

つまり、速く描かれている。

背景の明るさ

背景を見たい。

明るい茶色である。

そして、他の七枚より明るい。

つまり、暗い背景ばかりではない。

習作という可能性

速い筆と、簡素な背景。

つまり、習作かもしれない。

もっとも、館の記録は示していない。

首元の布

首元を見たい。

白い布に、緑の縞がある。

そして、大きく結ばれる。

つまり、当時の男性の装いである。

手の位置

右手を見たい。

下へ伸び、何かを持つように見える。

もっとも、はっきりしない。

だから、当サイトは断定しない。

少年の肖像
作者不詳(十八世紀のフランス)《少年の肖像》1790〜95年ごろ。油彩、板。縦14.5センチ、横12.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。少年の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

十四センチの板

八点目も、小さい。

縦14.5センチ、横12.2センチ。

つまり、三点目に次いで小さい。

描かれているもの

画面を見たい。

少年が、正面を向く。

髪は、赤みのある金色。

そして、肩まで巻く。

首元に、白い大きな襟。

衣は、暗い赤茶。

背景は、暗い緑。

絵の具の剥落

画面の縁を見たい。

絵の具が、剥がれている。

そして、下の層が見える。

つまり、傷んでいる。

傷みを、隠さない

修復して撮り直すこともできるだろう。

しかし、いまの状態で公開されている。

つまり、隠していない。

縁と、中央

剥落の位置を見たい。

縁に多く、中央には少ない。

つまり、額に接する部分が傷んでいる。

扱いのたびに、そこが擦れる。

板の傷み

板は、湿気で伸び縮みする。

そして、絵の具の層がついていけない。

だから、縁から剥がれることが多い。

白い襟

首元を見たい。

白い襟が、幾重にも重なる。

そして、肩まで広がる。

つまり、十八世紀末の子どもの装いである。

顔の描写

顔を見たい。

頬が丸く、目が大きい。

そして、口元がわずかに緩む。

つまり、幼さが描かれている。

八枚の内訳

八枚をまとめたい。

肖像が五枚、群像が二枚。

そして、屋外の遊興が一枚。

支持体の内訳

支持体を見たい。

画布が五枚、板が二枚。

そして、紙を布に貼ったものが一枚。

つまり、三種類が使われている。

寸法の幅

寸法を並べたい。

最小が11.8センチ、最大が118センチ。

つまり、十倍の差がある。

名の残らない絵

八枚とも、作者の名がない。

そして、描かれた人の名もない。

つまり、二重に匿名である。

なぜ、両方失われるか

肖像の人物の名は、家に伝わる。

そして、家を離れれば薄れる。

作者の名も、署名がなければ残らない。

二つの記事を、並べる

作者不詳の絵を扱うのは、二度目である。

そして、二つの記事で違いが見えた。

米国の九枚には、人物の名が残るものがあった。

一方、フランスの八枚には一つもない。

記録の段階

前回扱った十八世紀のアメリカの九枚では、
人物の名が残るものがあった。

一方、この八枚では一つもない。

つまり、記録の残り方に差がある。

帰属という研究

もっとも、研究で名が分かることもある。

筆致、材料、来歴を比べて特定する。

そして、名が付けば登録が変わる。

つまり、いまの登録は暫定である。

何を、比べるか

帰属の研究では、細部を比べる。

目の描き方、耳の形、手の指。

そして、画布の織り、下地の色。

つまり、癖と材料である。

「十八世紀のフランス」という登録

この表記は、便宜的なものである。

つまり、人ではない。

しかし、記録としては機能する。

検索の手がかり

時代と地域が記されていれば、探せる。

そして、比較もできる。

空欄にしないことには、意味がある。

八枚の主題

主題を並べたい。

古代の物語が一枚、遊興が一枚。

そして、肖像が六枚である。

つまり、肖像が中心である。

肖像が多い理由

美術館に残る絵は、肖像が多い。

家に伝わるものだからである。

そして、飾られ続ける。

つまり、残りやすい種類である。

集めると、見えるもの

一枚だけでは、時代の特徴は見えにくい。

しかし、八枚を並べると共通点が見える。

暗い背景、赤い幕、白い縁飾り。

そして、抑えた色の調子。

名のない絵の価値

作者不詳の絵は、格が低いとされることがある。

しかし、そうではない。

名のある画家の絵と同じく、時代の記録である。

何が、残っているか

作者の名は失われた。

人物の名も失われた。

しかし、絵は残っている。

そして、材料と寸法と年代の推定は記録されている。

見ることができるのは、そのおかげである。

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