作品を知る

実は、高さで読める——若冲・デポルト・ティファニーほか九点

枝に付いた実は人や獣の頭より上にあり、切られた実は台の上か膝の上にある。九点のうち四点で実は見上げる位置にあった。上にあるうちは眺めるもので、下りてくれば食べるものになる。そして粒を一つずつ描くかどうかが、房の描き方を二つに分けていた。

葡萄に雌雄の鶏
伊藤若冲《葡萄に雌雄の鶏》メトロポリタン美術館蔵

蔓の下で、鶏が二羽

縦長の絹の画面である。

101.9×41.3センチある。

画面の上半分から、蔓が垂れ下がっている。

蔓は細く、何度も巻きながら下へ伸びる。

葉は大きく、掌のように切れ込む。

葉脈が濃い線で描かれている。

葉のあいだに、房が下がる。

粒は丸く、一つずつ描き分けられている。

色は淡い紫と緑が混じる。

粒の表面には、白い光の点が入る。

そして画面の下に、鶏が二羽いる。

手前の一羽は雄で、尾が長く垂れる。

とさかは赤く、体は白い。

奥の一羽は雌で、体を低くしている。

二羽とも、上を見上げていない。

地面をついばんでいる。

葡萄に雌雄の鶏
伊藤若冲《葡萄に雌雄の鶏》1792年。館の記録では、掛幅・絹本着色。画面は101.9×41.3センチ。番号は1975.268.69。メトロポリタン美術館蔵。伊藤若冲《葡萄に雌雄の鶏》メトロポリタン美術館蔵

館の札は「鶏」「葡萄」「雄鶏」の三つである。

つまり館は、鶏を先に、葡萄を後に置いている。

しかし画面では、葡萄が上半分を占める。

面積でいえば、葡萄のほうが広い。

蔓は、上から下へ画面を貫く線になっている。

その線の下に、鶏がいる。

前の回で蔓が相手の形をなぞることを見た。

ここでの相手は、画面の枠である。

蔓は上の縁から入り、下へ向かって流れる。

細長い掛幅では、そうすると画面が縦に区切られる。

区切られた下の部分に、鶏が収まる。

つまり構図の骨は、蔓が作っている。

粒の描き方も見ておきたい。

一つずつに白い点が入り、丸みが出る。

しかし点の位置は、粒ごとにわずかにずれる。

光の当たる方向を、粒ごとに変えている。

実際の房なら、光は一方向から来る。

つまりこの房は、観察ではなく組み立てで作られている。

館の記録は、そこまでは書いていない。

実は、どこに付いているか

この一幅を出発点に、実のなる木の絵を九点数えていく。

実は、花のあとに来る。

熟せば落ち、あるいは摘まれる。

だから実の絵には、二つの状態がある。

枝に付いたままの実と、切られた実である。

先に言ってしまうと、九点のうち、実が枝や蔓に付いているのは五点である。

二点では、実は切られて器に盛られている。

そして二点では、実の名が色の名と人の名になっている。

数えるのは、房の位置と、粒の描き方である。

その二つで、実の絵はおおむね読める。

二房だけが、暗がりに吊るされる

二点目は、油彩である。

二房の葡萄
アンドリュー・ジョン・ヘンリー・ウェイ《二房の葡萄》年記なし。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は44.45×30.48センチ。番号は2018.44.20。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。アンドリュー・ジョン・ヘンリー・ウェイ《二房の葡萄》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の小さな画面である。

44.45×30.48センチしかない。

背景は暗い褐色で、平らである。

その中に、房が二つ吊り下げられている。

左の房は淡い黄緑である。

粒は透けるように光り、内側が明るい。

右の房は濃い紫である。

粒の表面に白い粉がふき、光の点が入る。

房の上には、細い枝と、葉が数枚ある。

葉は褐色に枯れかけている。

蔓の先が、細く巻いている。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

制作の年も記されていない。

見えるのは、二種類の葡萄が並べられていることである。

比べるための配置である。

そして房は、置かれずに吊るされている。

吊るせば、粒の下側にも光が回る。

九点のうち、実が吊るされているのは、この一点である。

そして二房の色の違いは、単なる彩りではない。

淡い黄緑の粒は光を通し、内側が明るく見える。

濃い紫の粒は光を返し、表面だけが光る。

透ける実と、返す実。

その二つを並べることが、この小さな画面の内容である。

背景を平らな褐色にするのも、その差を見せるためである。

もし背景に景色があれば、粒の内側の明るさは沈んでしまう。

盆の上に、房が積まれる

三点目も、油彩である。

葡萄のある静物
エドウィン・ディーキン《葡萄のある静物》1888年。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は61×40.7センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。エドウィン・ディーキン《葡萄のある静物》スミソニアン協会蔵

縦長の画面である。

61×40.7センチある。

背景は暗く、右のほうがわずかに明るい。

画面の下に、平らな台がある。

台の上に、房が積み上げられている。

房は大きく、粒が幾重にも重なる。

色は淡い黄緑と、濃い赤紫が混じる。

粒の一つずつに、白い光の点がある。

その光の点は、すべて同じ側に入る。

つまり光は、一つの方向から当たっている。

房の下には、葉が敷かれている。

葉は褐色に変わりかけている。

台の縁からは、房の一部が垂れ下がる。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

先の一点と違い、こちらの葡萄は台に載っている。

つまり、すでに切られている。

積まれた果物の絵については、積み上げられた果物でも扱った。

豹が、葡萄を食べる

四点目では、実は食べられる。

葡萄を食べるバッカスの豹
アレクサンドル=フランソワ・デポルト《葡萄を食べるバッカスの豹》1719年から20年ごろ。館の記録では、紙に油彩、カード紙に貼付。画面は34.6×17.1センチ。番号は07.225.287。メトロポリタン美術館蔵。アレクサンドル=フランソワ・デポルト《葡萄を食べるバッカスの豹》メトロポリタン美術館蔵

細長い縦の画面である。

34.6×17.1センチしかない。

上のほうに、葡萄の蔓が広がる。

葉が重なり、そのあいだに房が下がる。

画面の中ほどに、獣がいる。

体は黄褐色で、黒い斑が並ぶ。

背をまるめ、首を上へ伸ばしている。

口を開け、房に届こうとしている。

その下に、もう一頭の獣がいる。

こちらは伏せて、上を見上げている。

左には、鳥が数羽いる。

館の札は「鳥」「葡萄」「蔓」「豹」の四つである。

つまり館は、四種類のものを並べて登録している。

館の記録は、題と材料と寸法だけを書いている。

見えるのは、獣が首を伸ばしていることである。

実は高いところにあり、獣は下にいる。

九点のうち、実に手が届いていないのは、この一点である。

支持体も変わっている。

紙に油彩で描き、それをカード紙に貼り付けている。

紙に油を含む絵の具を置くと、下地が吸ってしまう。

そのため、色はやや沈んだ調子になる。

この画面の褐色と黄土が落ち着いて見えるのは、そのためかもしれない。

そして細長い形は、装飾の一部として作られたことを思わせる。

扉の脇や、壁の細い区画に嵌めるための下絵だろう。

館の記録は、そこまでは書いていない。