名画の楽しみ方

題が、器の名でできている——シカゴ美術館のギリシア陶器

二つの技法が、混ざる

十点の技法の欄を読むと、四つの語が出てくる。

赤絵式が五点。

黒絵式が三点。

黒釉が一点。

そして後期グナティア陶器が一点。

赤絵式と黒絵式は、図と地の関係が逆である。

黒絵式のほうが古く、紀元前六世紀に多い。

赤絵式は、その後に広まった。

十点の年を並べると、その順序が見える。

黒絵式の三点は、紀元前六世紀から五世紀初め。

赤絵式の五点は、紀元前五世紀から四世紀。

技法の欄の語が、そのまま年代の目安になる。

ピュクシス(小物入れ)
ギリシア、アテナイ《ピュクシス(小物入れ)》紀元前6世紀後半。テラコッタ、黒絵式。館の記録では、縦18センチ、横14.2センチ、奥行き20センチとされる。番号は1889.13。シカゴ美術館蔵。古代ギリシア《ピュクシス(小物入れ)》シカゴ美術館蔵

円筒形の容器である。

胴の下は、外へ広がる脚になる。

上部には、蓋が載っていたと考えられる。

胴の中央に、帯状の絵が回る。

橙色の地に、黒い人物が並ぶ。

人と、獣らしい形が交互に置かれる。

その上下には、細い線の帯が走る。

黒の面は、光の当たり方で青みを帯びる。

胴の下部には、放射状の短い線が並ぶ。

口の縁は厚く、外へ折り返る。

寸法の欄には、三つの数字が書かれる。

彫刻と同じく、器にも奥行きが要る。

マストイド(酒杯)
葉のないグループに帰される、ギリシア、アテナイ《マストイド(酒杯)》紀元前500年から480年。テラコッタ、黒絵式。館の記録では、縦9.2センチ、横10.8センチ、奥行き10.8センチとされる。番号は1889.10。シカゴ美術館蔵。葉のないグループ《マストイド(酒杯)》シカゴ美術館蔵

十点でいちばん小さい器である。

高さは9.2センチしかない。

丸い胴が、下へ向かってすぼまる。

底は平らで、小さな脚になる。

口は広く、まっすぐ立ち上がる。

胴の上半分に、絵が回る。

橙色の地に、黒い人物が数体。

中央の人物は腕を上げる。

その左右に、脚を曲げた姿がある。

上下に細い線の帯が走る。

下半分は黒一色で、文様がない。

手のひらに収まる大きさである。

産地が、二つに分かれる

十点の作者の欄には、産地が書かれている。

アテナイが五点。

イタリア南部のアプリアが三点。

カンパニアが一点。

そして、アプリアかカンパニアか決めきれない一点。

アテナイは、古代ギリシアの本土である。

アプリアとカンパニアは、イタリア半島の南部だ。

その地域には、ギリシアからの移住者の町が並んでいた。

だから、ギリシアの様式の器が現地で作られる。

館の記録は、それを「ギリシア、アプリア」と書く。

民族の名と、作られた場所の名を並べる形である。

前の回の記事で、地名の粒度の話をした。

ここでも、国と地方が二段で書かれている。

十点の年が、二百五十年に散る

十点の年を並べてみる。

紀元前六世紀後半、紀元前550年から540年。

紀元前500年から480年、紀元前460年ごろが二点。

紀元前340年から330年、紀元前300年ごろが二点。

紀元前300年から275年、紀元前4世紀末。

いちばん古い器と、いちばん新しい器で二百五十年ほどひらく。

その間に、黒絵式から赤絵式へ、そして上絵付へと移る。

技法の欄の語を年の順に並べると、その流れが見える。

もっとも、十点だけで一般化はできない。

言えるのは、この十点がその順に並ぶということまでだ。

年の欄の書き方も、幅を持つものが多い。

一つの数字で決まる器は、一点もない。

出所の行が、二人の連名

十点のうち六点は、同じ出所の行を持つ。

二人の人物の連名による寄贈である。

番号を見ると、いずれも1889年。

館が開いてまもない時期に、まとめて入っている。

古代の器は、こうしてまとまって寄贈されることが多い。

一点ずつ買うより、群として渡される。

残る四点は、基金による購入や、館そのものの名である。

うち一点の出所の行は、館の名だけが書かれている。

誰から来たかは書かれていない。

前の回の記事で、出所の行の型をいくつも見た。

館の名だけという形は、その中でも珍しい。

キュリクス(酒杯)
ペンテシレイアの画家に帰される、ギリシア、アテナイ《キュリクス(酒杯)》紀元前460年ごろ。テラコッタ、赤絵式。館の記録では、縦14.2センチ、横45センチ、奥行き37センチとされる。番号は1889.27。シカゴ美術館蔵。ペンテシレイアの画家《キュリクス(酒杯)》シカゴ美術館蔵

浅く広い杯である。

高さは14.2センチだが、横は45センチある。

両側に、短い把手が水平に突き出る。

上から見た画像が公開されている。

内側の底に、丸い枠がある。

その中に、人物が二人向かい合う。

いずれも衣をまとい、立っている。

左の人物は杖のようなものを持つ。

枠の周囲は黒一色である。

杯の縁近くには、細い割れが走る。

割れは修復され、線として残る。

飲むための器だが、絵は内側にある。

飲み干して、はじめて絵が見える作りである。

内側に、絵がある

いま見た一点は、器の作りをよく示している。

外側ではなく、内側の底に絵がある。

酒を満たしているあいだ、絵は隠れている。

飲み進めるにつれて、見えてくる。

宴の道具としての仕掛けである。

館の記録は、絵の位置については書かない。

書かれるのは、器の名と、技法と、寸法だけだ。

内側に絵があることは、画像を見て分かる。

そして、その画像は上から撮られている。

内側を見せるための角度である。

撮影の角度そのものが、一つの判断になっている。

ヒュドリア(水瓶)
ギリシア、おそらくイタリア南部アプリアまたはカンパニア《ヒュドリア(水瓶)》紀元前300年ごろ。テラコッタ、黒釉。館の記録では、縦27.9センチ、横17.7センチ、奥行き14.6センチとされる。番号は1889.96。シカゴ美術館蔵。古代ギリシア《ヒュドリア(水瓶)》シカゴ美術館蔵

胴が丸く、下へすぼまる壺である。

首は細く、口は皿のように開く。

口の内側には、桃色の面が見える。

把手が一本、首から肩へ架かる。

胴には、縦の細い溝が全面に刻まれる。

溝は等間隔で、下まで続く。

黒い釉が掛かるが、溝の稜線では薄くなる。

そのため、縞のように見える。

肩には、把手の付け根の粘土が残る。

脚は低く、輪の形である。

絵はまったく描かれていない。

形と溝だけで作られた器である。