画家を知る

実景と、空想の景——グアルディのヴェネツィア

画面の形が、四角ではない

最後に、変わった形の一点を見たい。

幻想的風景
フランチェスコ・グアルディ《幻想的風景》1765年ごろ。油彩・画布。不定形、縦155.6センチ、横189.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。フランチェスコ・グアルディ《幻想的風景》メトロポリタン美術館蔵

所蔵館の記録は、寸法欄に「不定形」と書いている。

実際、画面の上辺が直線ではない。中央が高く盛り上がり、両端で下がる。

緩やかなアーチを描いている。つまり、四角い画面ではない。

内容は空想の風景である。左に崩れた塔と門があり、右に水辺が広がる。

手前に人物が数人。荷を担ぐ人、腰を下ろす人がいる。

形が示す、元の場所

なぜ、上辺が曲がっているのか。答えは、設置場所にある。

この形は、扉の上や壁の一区画に嵌め込むための形である。天井や梁の曲線に合わせて、画面が切られる。

つまりこの絵は、額に入れて掛ける絵ではない。建築の一部として作られている。

同じ考え方は、天井画にも見られる。その設計については、
別のコラムで扱った。

いまは美術館の壁に掛かっているが、本来の場所は建物の中である。

島の一点

もう一点、実景を挙げておきたい。当サイトには、サン・ミケーレ島を描いた一点も公開されている。

縦48.3センチ、横78.1センチ。水面の向こうに、教会と塔のある島が横たわる。

この島は、18世紀末から墓地として使われるようになった。つまり絵が描かれた当時と、いまでは役割が違う。

同じ場所の絵でも、時代によって意味が変わる。

実景と空想は、同じ手つきで描かれる

ここで比較を整理したい。実景の絵と、空想の絵を並べてみる。

筆の速さは同じである。人物の描き方も同じ。空の作り方も似ている。

違うのは、建物の配置だけである。つまり画面の作りからは、実景か空想かを判別できない。

判別できるのは、実際の場所を知っている場合に限られる。

題名が、判断を伝えている

では、どこで見分けるのか。答えは、記録の題名である。

所蔵館は「空想的眺め」「カプリッチョ」「幻想的風景」と書き分けている。

つまり、実景かどうかは記録が伝えている。画面ではなく、言葉の側にある情報である。

作者欄の表記が作品の位置づけを決める例は、
別のコラムでも扱った。

十五点の内訳

公開分の構成も確かめておきたい。15点のうち、ヴェネツィアの実景が半分以上を占める。

カプリッチョと幻想的風景が数点、ローマを扱った一点が含まれる。

制作年は1760年ごろから1785年ごろに集まる。二十五年ほどの幅である。

つまり、成熟した時期の仕事がまとまって見られる。

寸法の幅が大きい

寸法も整理したい。最小は縦32.4センチの小品である。

最大は縦155.6センチの不定形の画面である。面積では十倍以上の差がある。

小品は旅行者向け、大画面は建築の装飾。用途が違えば、寸法も変わる。

寸法欄を読むだけで、その作品がどこに置かれたかを推測できる。

額の記録が残っているもの

記録の細かさにも触れておきたい。公開分のうち数点には、額を含む寸法が併記されている。

たとえば小品の一点は、画面32.4×52.7センチに対し、額込みで48.9×68.9センチ。

面積では二倍近くになる。小さな絵ほど、額の存在感は大きい。

一方、額の寸法が記録されていない作品もある。記録の粒度は、館や時期によって差がある。

見立て——都市の絵は、記録であり、商品であり、装飾である

ここまでを整理したい。同じ画家が、三つの仕事を並行してこなしている。

実際の場所を描いて旅行者に売る。祝祭の情景を描いて記録に残す。空想の景を描いて壁に嵌める。

いずれも「風景画」と呼ばれるが、目的は違う。目的が違えば、寸法も筆づかいも変わる。

一人の画家の作品を一つの様式で語ると、この違いが見えなくなる。

都市が、絵の主役になる時期

もう一点、位置づけを補いたい。都市そのものが絵の主題になるのは、いつでもあったことではない。

背景としての都市は古くからある。しかし、都市の眺めだけで一枚を成立させる形式は、
17世紀以降に広がった。

風景が主役になる過程については、
別のコラムで扱った。

都市の眺望画も、その流れの中にある。

暮らしへ——同じ場所を、二つの高さから撮る

家でできることを書いておきたい。近所の橋や交差点を、二通りの位置から撮ってみてほしい。

一枚は地面に近い高さから。もう一枚は、階段や歩道橋の上から。

同じ場所なのに、写るものが変わる。低い位置では人が、高い位置では街の形が主役になる。

グアルディが選んでいたのは、この高さである。視点の位置は、主題の選択そのものである。

同じ構図が、複数残ることもある

反復についても補いたい。売れる構図は、繰り返し描かれる。

同じ橋、同じ広場、同じ角度。工房で複数の版が作られることもあった。

だから同じ主題の作品が、各地の美術館に散っている。

当サイトの公開分にも、サンタ・マリア・デッラ・サルーテを扱った作品が二点ある。

群として見ると、用途が見える

最後に、見方をまとめておきたい。15点を寸法と題名で分けてみる。

小さな実景、大きな空想、不定形の装飾。三つの群が浮かんでくる。

公開画像は、そのための道具である。記録の語と寸法を突き合わせる作業は、画面の上でできる。

そして、分けた結果は書き留めておきたい。題名の細かな違いは、忘れやすい。

一行の記録が、次に見るときの足場になる。

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