実景と、空想の景——グアルディのヴェネツィア
グアルディは実在のヴェネツィアを描き、同じ手つきで空想の景も描いた。画面からは区別がつかず、判別できるのは記録の題名だけである。八点を並べ、記録と商品と装飾という三つの役目を確かめる。一日限りの仮設建築を描いた一点にも触れる。不定形の画面も見ておく。

橋の下を、舟が通っている
一枚の絵から始めたい。

横長の画面である。縦68.5センチ、横91.5センチ。
中央の奥に、石造りの橋が架かる。一つの大きなアーチが水面を跨ぐ。
橋の上には屋根の列があり、その中央が高く開く。リアルト橋である。
橋の手前は水面である。ゴンドラが十艘以上浮かび、船頭が立って櫂を操る。
左手前には荷を積んだ舟が並ぶ。白い日除けが張られ、その下で人が働く。
左右には建物が連なる。窓が等間隔に並び、壁は白、黄土、桃色に塗り分けられる。
空は画面の上三分の一を占める。灰色の雲が、右上から左へ流れる。
眺望画という商品
この種の絵を、眺望画と呼ぶ。都市の実景を描いた絵である。
18世紀のヴェネツィアには、この形式の需要があった。旅行者が土産として買ったのである。
当時、ヨーロッパの上流階級の子弟は、イタリアを巡る長い旅に出た。その旅の記念に、都市の絵を買う。
つまり眺望画は、旅の商品だった。旅を売る絵の話は、
別のコラムでも扱った。海を挟んだ同じ時期の話である。
描いたのは、誰か
作者はフランチェスコ・グアルディである。1712年にヴェネツィアで生まれ、1793年に没した。
一族に画家が多く、兄も画家だった。工房として仕事を受けていたとされる。
同じ都市には、先行する眺望画の画家がいた。カナレットの名で知られる画家である。
グアルディは、その後の世代にあたる。同じ主題を扱いながら、筆づかいは大きく違う。
輪郭を明確に描く方法と、色の面で示す方法。同じ都市が、別の手つきで描かれている。
問い——実景と、空想の景は、どこで分かれるのか
ここで問いを立てたい。この画家の作品には、実在の場所を描いたものと、
実在しない景色を描いたものが混じっている。
後者を、カプリッチョと呼ぶ。空想の景という意味である。
両者は、画面の上でどう違うのか。あるいは、違わないのか。
当サイトにはグアルディの作品が15点公開されている。両方の型が含まれている。
並べて確かめたい。
同じ橋を、別の位置から
まず、実景の絵を続けて見たい。

同じ橋を、別の位置から描いている。
画面の左手前に、桃色の壁の建物が大きく入る。窓と煙突が近くに見える。
その向こうに運河が広がり、奥にリアルト橋が小さく架かる。
右には、アーチの連なる長い建物が並ぶ。倉庫のような規則的な構造である。
水面には舟が散り、人が乗る。人物は数センチの大きさで、色の点として置かれる。
先の一点と比べると、視点が高い。二階か三階の窓から見下ろした位置である。
建物の輪郭は、定規で引かれていない
線の性質も見ておきたい。眺望画では、建物の直線をきちんと引く方法がある。
補助の道具を使い、窓や柱を整然と並べる。図面に近い正確さが出る。
しかしこの画家の建物は、線が揺れている。窓枠は少し歪み、屋根の線も一定ではない。
正確さより、光と空気の感じが優先されている。どちらが優れているという話ではない。
求められた性質が違う、と考えるほうが正確である。
視点の高さが、絵の性格を決める
視点を比べておきたい。先の一点は、水面に近い低い位置から描かれている。
こちらは高い位置から俯瞰している。同じ場所でも、印象がまるで違う。
低い視点では、舟と人が主役になる。高い視点では、都市の構造が主役になる。
どちらを選ぶかは、注文と用途による。旅の記念なら、名所が分かることが優先される。
生活の運河も描く
有名な場所ばかりではない。

中央に、三つのアーチを持つ石橋が架かる。両脇に階段が付く。
橋の手前に、ゴンドラが数艘。人が立ち、櫂を操る。
左右の建物は、先の二点より簡素である。壁の色が剥げ、木の桟が見える箇所もある。
人物には、赤や白の点で衣服の色が置かれる。橋の上にも人が並ぶ。
水は青緑で、空は明るい。雲が右上に集まる。
つまり、日常の場所も商品になっていた。
人物は、色の点である
人物の描き方も確かめたい。運河の絵に描かれた人は、いずれも数センチの大きさである。
顔は描かれず、体は数筆で示される。赤、白、黒の点が、衣服の色を示す。
しかし、その点があることで画面が動く。人がいなければ、建物だけの静止した図になる。
つまり人物は、都市を生きた場所に見せるための要素である。
同じ役目は、別のコラムで見た風景画の人物にもあった。
一日限りの建物を、記録する
主題の幅を見ておきたい。

これは縦長の小品である。縦37.5センチ、横31.5センチ。
画面の中央に、大きな構造物が立つ。半円形の屋根、柱、階段が幾重にも重なる。
石造りに見えるが、これは仮設の建造物である。祝祭のために組まれ、終われば解体される。
その周りに人が集まる。広場を埋めるほどの群衆で、色とりどりの衣服が点として並ぶ。
左には既存の建物の壁が、暗く立ち上がる。