空が、四分の三を占める——ファン・ホーイェン
ヤン・ファン・ホーイェンの画面では、空が四分の三を占める。地平線を下げ、色を灰褐色に絞り、板の小品を数多く作った。九点を比率で並べ、土地の条件と商売の条件が構図に現れる過程を確かめる。板と画布の使い分けにも触れておきたい。氷の風景も見ておく。

空が、画面の四分の三を占めている
一枚の絵から始めたい。

小さな板絵である。縦34.6センチ、横50.5センチ。
まず、地平線の位置を見てほしい。画面の下から五分の一ほどのところにある。
つまり画面の四分の三以上が、空である。
その空は、灰色と褐色の雲で埋まっている。左上から右下へ、雲が斜めに流れる。
雲の切れ間から、淡い光が差す。地面に当たる光は、帯のように横へ伸びる。
地上に目を移すと、手前は砂地である。細い道が右へ続く。
遠くに町の輪郭が横一列に並ぶ。風車、教会の塔、家並み。いずれも数ミリの高さで描かれる。
人物も点のように小さい。道の上に二、三人。畑の中にも数人いる。
色数が、極端に少ない
色にも注目したい。この画面には、鮮やかな色がほとんどない。
灰色、褐色、黄土色、そしてわずかな緑。ほぼ、この四色である。
赤や青は、点のように置かれるだけである。空も水も、灰褐色の階調で作られる。
こうした画面を、単色調と呼ぶことがある。色相ではなく明暗で構成する方法である。
人物は、点として置かれる
人物の扱いも見ておきたい。この画面の人物は、身長が数ミリしかない。
顔も服の色も判別できない。棒のような胴と、点のような頭だけである。
しかし、いるかいないかで画面は変わる。人がいれば、風景の大きさが測れるようになる。
道の幅、建物の高さ、水面の広さ。すべて人を基準に読み取れる。
つまり人物は、物差しとして置かれている。主役ではないが、必要な要素である。
描いたのは、誰か
作者はヤン・ファン・ホーイェンである。17世紀のオランダで活動した風景画家である。
1596年に生まれ、1656年に没した。ライデンとハーグを拠点にしていたとされる。
当サイトには9点が公開されている。制作年は1627年から1650年代までに及ぶ。
つまり二十年以上の仕事が、断片的に集まっている。
下地の色が、透けている
技法についても触れておきたい。この時代の板絵には、下地が塗られている。
白亜と膠で目を埋め、その上に薄い褐色の層を置くことが多い。
ファン・ホーイェンの画面では、その褐色が随所で透けている。上に置いた絵具が薄いためである。
つまり画面の色は、絵具の色と下地の色の重なりで決まる。
塗り残すことが、そのまま色になる。速さと色調が、同じ工夫から生まれている。
問い——なぜ、空をこれほど広く取るのか
ここで問いを立てたい。空を広く取るのは、この画家の癖なのか。
それとも、描いている土地の条件から来るのか。あるいは、商売の都合なのか。
9点を並べて、地平線の高さと画面の作りを読みたい。
初期の一点は、まだ暗い
まず、最も古い一点を見たい。

1627年の作である。公開分では最も早い。
画面の左に、大きな枯木が立つ。枝が捻れ、右上へ伸びる。
中央に砂の道があり、その先に藁葺きの農家が並ぶ。道の上に人が二人、腰を下ろしている。
右奥にも建物が続き、屋根の線が重なる。
そして、色が濃い。褐色と暗い緑が画面を占め、空は上端の狭い部分だけである。
地平線は、画面の中ほどにある。先ほどの一点とは、構造がまるで違う。
署名と年記
署名にも触れておきたい。この画家の作品には、年記の入るものが多い。
画面の下部に、姓の頭文字を組み合わせた形と、四桁の数字が置かれる。
年記があると、様式の変化を年代順に追える。年の分かる作品は、他の作品を測る物差しになる。
公開分でも、1627年、1644年、1646年、1647年と年が特定されている。
これは記録の精度が高いという意味でもある。すべての画家で、こうはいかない。
十九年で、何が変わったか
1627年と1646年の二点を並べたい。地平線は、中央から下五分の一へ下がった。
色は、褐色主体から灰褐色の階調へ移った。細部の描写は減り、面の広さが増した。
つまり、二十年足らずで画面の作りが変わっている。
変化の理由を一つに決めることはできない。流行、注文、材料、本人の関心。いずれも関わりうる。
ただし、変化があったという事実は、公開画像を並べれば確認できる。
水平の国という条件
土地の条件にも触れておきたい。オランダの国土は、大部分が平坦である。
干拓によって作られた土地も多い。山らしい山がなく、視界を遮るものが少ない。
そこに立てば、地平線は低く、空が広く見える。つまり画面の構造は、土地の見え方に対応している。
ただし、これだけでは説明しきれない。同じ土地を描いた他の画家が、必ずしも同じ構図を取るわけではない。
土地の条件と、選択の両方が働いている。
湿った空気を、どう描くか
空気の描き方も見ておきたい。遠くの町は、輪郭がぼやけている。
近くの砂地は、筆の跡がはっきり見える。距離が離れるほど、対比が弱まる。
これは空気遠近法と呼ばれる方法である。遠くのものは霞み、青みを帯びる。
低地の湿った空気の中では、この効果が強く出る。土地の条件が、技法の選択を後押ししている。
町を、遠くに置く
都市を描いた一点を見たい。

先の二点より大きい。縦64.7センチ、横95.9センチ。
画面の中央、遠くに町が横たわる。大きな教会の塔が一本、突き出している。
町の輪郭は、水平の帯として描かれる。高さは画面の十分の一もない。
手前には水面が広がる。左に帆船が一艘、帆を張って進む。
中央に小舟があり、人が四、五人乗る。彼らは、遠くの町を背にしている。
空は淡い黄土色で、雲がゆるやかに横へ流れる。