画家を知る

同じ姓が、二つの別々の行に出る——ウィンスロー・ホーマー

九点の出所の行に、同じ姓が二度現れる。一方は財団の名、他方は夫妻のコレクションの名である。姓は同じでも、下の名が違う。館はそれを一つにまとめない。決めつけずに読むための作法を、六通りの行から考えたい。

追い風
ウィンスロー・ホーマー《追い風》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

同じ姓が、二つの別々の行に出る

九点の出所の行を並べると、同じ姓が二度現れる。

一つは、ある財団の名の中にある。

もう一つは、夫妻のコレクションの名の中にある。

姓は同じだが、下の名が違う。

前者は二人の頭文字と名が並ぶ。

後者は、別の人物の名である。

つまり、同じ姓の別の人たちが、それぞれ絵を贈っている。

館の記録は、両方をそのまま書く。

姓が同じだからといって、まとめたりはしない。

同じ姓の行が二つ並ぶだけである。

六通りの行

九点の出所の行を数えると、六通りになる。

夫妻のコレクションが四点。

財団の寄贈が二点。ただし別々の財団である。

個人の寄贈が二点。こちらも別々の個人だ。

そして、館の基金による購入が一点。

九点のうち八点までが寄贈で、購入は一点だけである。

この比率は、別の記事で見た画家たちと似ている。

同時代の画家でも、十八世紀の画家でも、寄贈が多い。

館が自分で買うのは、機会が限られる。

出所の行の内訳を数えると、その事情が見えてくる。

追い風
ウィンスロー・ホーマー《追い風》1873年から1876年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦61.5センチ、横97センチとされる。出所の行は「W・L・アンド・メイ・T・メロン財団の寄贈」。番号は1943.13.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《追い風》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面に、小さな帆船が斜めに進む。

船は右へ大きく傾く。

帆は白く、風で膨らむ。

船には四人が乗る。

一人は舵を取り、三人は船縁に座る。

いずれも帽をかぶり、体を風上へ寄せる。

手前の海は濃い青緑で、波が高い。

船首が波を切り、白い泡が立つ。

奥には、別の帆船が二隻小さく見える。

空は灰色で、雲が厚く重なる。

雲の切れ間から、わずかに明るい部分がある。

船の傾きと波の向きが、風の強さを示す。

猟犬と狩人
ウィンスロー・ホーマー《猟犬と狩人》1892年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦71.8センチ、横122.3センチとされる。出所の行は「スティーヴン・C・クラークの寄贈」。番号は1947.11.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《猟犬と狩人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

暗い水面に、細長い舟が浮かぶ。

舟の上に、若者が乗る。

体を前へ倒し、水面へ手を伸ばす。

その手は、水の中の何かをつかむ。

舟の前方には、犬が泳ぐ。

頭だけが水面に出る。

水は暗い褐色で、波紋が広がる。

奥には、倒れた木の枝が突き出る。

背後は暗い森で、輪郭が溶ける。

上部は赤褐色の空である。

色は褐色と暗緑に絞られる。

若者の白い袖だけが明るい。

財団の名に、人の名が入る

九点の行のうち二つは、財団の名である。

一方は、二人の人物の名を冠している。

頭文字と姓、そして下の名と頭文字と姓。

夫妻の名を並べた形だと考えられる。

他方は、人の名を含まない財団の名だ。

地名に由来する語が使われている。

同じ財団でも、名の付け方が違う。

基金の名と、事情は同じである。

人の名を掲げるか、別の語を選ぶか。

その判断は、設立した側による。

館は、正式な名をそのまま書く。

短くしたり、言い換えたりはしない。

だから行が長くなることもある。

長くても、書いたとおりに残す。

十七年をおいた、同じ大きさ

九点の寸法を見ると、二点が極めて近い。

縦71.8センチ、横122.3センチ。

縦71.8センチ、横122.9センチ。

縦は完全に同じ、横は六ミリ違う。

制作年は1892年と1909年。十七年の差がある。

十七年をおいて、同じ大きさの布を使ったことになる。

規格の布であれば、長く同じ寸法が売られる。

だから年が離れていても、寸法はそろう。

館の記録は、その一致を注記しない。

数字を並べて、はじめて気づくことである。

記録は、気づかせるためには書かれていない。

しかし、並べれば読める形にはなっている。

右と左
ウィンスロー・ホーマー《右と左》1909年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦71.8センチ、横122.9センチとされる。出所の行は「アヴァロン財団の寄贈」。番号は1951.8.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《右と左》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面に、二羽の鴨が描かれる。

一羽は左で、翼を広げて落ちる。

もう一羽は右で、体をひねる。

いずれも白と黒の羽で、頭が黒い。

足は橙色で、体の下に伸びる。

背後は灰色の海である。

波が高く、白い泡が立つ。

左下には、赤い光が小さく見える。

遠くに小舟の影がある。

空は灰色で、水平線がはっきりしない。

鳥は画面の上半分を占め、大きく描かれる。

視点は水面すれすれにある。

日没
ウィンスロー・ホーマー《日没》1875年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦39.4センチ、横57.2センチとされる。出所の行は「ジョン・W・ビーティ・ジュニアの寄贈」。番号は1964.4.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《日没》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面に、水辺が描かれる。

手前に、黒い小舟が横向きに浮かぶ。

舟には一人が乗り、体を前へ倒す。

竿か櫂を持つ姿勢である。

舟の周りは、黄土色の浅瀬である。

その先に、暗い緑の草地が広がる。

さらに奥に、水面が細く光る。

奥の岸には、木立が横一列に並ぶ。

空は上部が淡い青、下は黄と桃色になる。

筆は速く、絵具が薄い。

輪郭はなく、色の面だけで形が示される。

九点の中では、下絵に近い性格の一点である。

四点が、同じ行を持つ

九点のうち四点は、同じ出所の行である。

ポール・メロン夫妻のコレクション。

番号を見ると、1985.64.21、1985.64.22、1994.59.2、2012.89.2。

三つの受入に分かれている。

同じ行でありながら、受入は二十七年に散る。

これも、これまで何度も見た形である。

行は群を示し、番号は時間を示す。

この収集の名の書き分けについては、同じ人が、五通りに書かれるで扱った。

九点では、四点とも同じ形の行を持つ。

赤い校舎
ウィンスロー・ホーマー《赤い校舎》1873年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦55.5センチ、横39.5センチとされる。番号は1985.64.21。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《赤い校舎》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の画面に、女性が一人立つ。

体は正面を向き、顔はやや左へ傾く。

衣は白と灰の縞で、足首まで届く。

腰には帯が締められ、その下に細い布が垂れる。

首もとには、黒い布が結ばれる。

頭には、白い縁飾りのある帽をかぶる。

左手には、暗い色の本を持つ。

背後の右に、赤い壁の建物が見える。

小さな窓が二つ並ぶ。

左には緑の草地と、低い木立がある。

その手前に、子どもが二人小さく描かれる。

空は上部が黄と桃色で、夕方に見える。

足もとの地面は褐色で、光が斜めに当たる。

制作年が、四十六年に散る

九点の制作年を並べてみる。

1863年ごろ、1870年、1873年、1873年から1876年、1874年。

1875年ごろ、1877年、1892年、1909年。

いちばん早い一点と、いちばん遅い一点で四十六年ひらく。

前半の七点は、1863年から1877年に集中する。

十四年のあいだに、七点が入っている。

後半の二点は、1892年と1909年。

十五年と十七年の間隔がある。

つまり九点は、初期に偏っている。

これは、選び方の結果でもある。

しかし館の公開データで数えても、初期の作品は多い。

初期の小さな油彩が、多く残って市場に出たためだろう。

九点の偏りは、その事情を映しているのかもしれない。

もっとも、これは推測にとどまる。

縦長と横長が、半々

九点の形を見ると、縦長と横長がほぼ半々である。

縦長が四点、横長が五点。

縦長の四点は、いずれも人物を主にした画面だ。

横長の五点は、海や水辺の場面が多い。

大きさと形の記事でも書いたとおり、形は主題に結びつく。

立つ人を描くなら縦長、広がりを描くなら横長。

もっとも、例外もある。

横長の一点には、舟の上の人物が大きく描かれる。

縦長の一点には、風景の中の小さな人物がいる。

規則というより、傾向である。

寸法の欄の数字を比べれば、その傾向は数えられる。

秋
ウィンスロー・ホーマー《秋》1877年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦97.1センチ、横58.9センチとされる。番号は1985.64.22。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《秋》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の画面に、女性が一人立つ。

体は左を向き、顔はこちらへ戻す。

衣は黒く、裾が地面に届く。

裾には白い縁飾りが見える。

頭には、黒い帽をかぶる。

帽には、羽根らしい飾りが付く。

両手を前で組む。

手には白い手袋をはめる。

背後は、赤と褐色の葉で埋まる。

木の幹は見えず、葉だけが広がる。

足もとには、落ち葉が散る。

黒い姿が、赤い背景から浮き上がる。

先の一点とは、対のような関係にある。

一方は明るい夕方、他方は暗い秋の林である。

夕食の角笛
ウィンスロー・ホーマー《夕食の角笛》1870年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦48.9センチ、横34.9センチとされる。番号は1994.59.2。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《夕食の角笛》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の画面に、女性が一人立つ。

体は右を向き、顔を上げる。

両手で、長い角笛を口に当てる。

角笛は細く、斜め上へ伸びる。

衣は白く、風で裾が後ろへ流れる。

袖も膨らみ、腕の形が見える。

腰には、細い帯が締められる。

左には、木の壁が縦に立つ。

壁には板の継ぎ目が並ぶ。

右には、草地と木が広がる。

空は青く、雲が白い。

足もとには、鶏らしい形が小さく見える。

白い衣が、緑と青の中で強く光る。

ホーム・スイート・ホーム
ウィンスロー・ホーマー《ホーム・スイート・ホーム》1863年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦54.6センチ、横41.9センチとされる。出所の行は「後援者恒久基金」。番号は1997.72.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《ホーム・スイート・ホーム》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点で唯一、館が買った作品である。

縦長の画面に、天幕の前の場面が描かれる。

中央に、青い上着の男が立つ。

腕を組み、こちらを見る。

その右に、二人が座る。

一人は帽をかぶり、器を持つ。

手前には、小さな焚き火がある。

煙が細く上がる。

天幕は褐色の布で、支柱が立つ。

背後には、同じ形の天幕が並ぶ。

さらに奥には、旗竿と、遠くの町が見える。

空は青く、白い雲が広がる。

野営の日常を描いた画面である。

一点だけの購入

九点のうち、館が買ったのは一点である。

出所の行は、後援者恒久基金。

番号は1997.72.1で、枝番は1。

基金の行で見たとおり、購入の受入は一点ずつになる。

寄贈の受入には、複数点が含まれることがある。

実際、四点の同じ行を持つ作品は、受入の中に他の作品も含む。

1985.64という番号帯には、二十点近くが並ぶ。

購入と寄贈では、番号の作られ方が違う。

行を読むだけでなく、枝番の大きさを見ると、その違いが分かる。

イースト・ハンプトンの浜、ロング・アイランド
ウィンスロー・ホーマー《イースト・ハンプトンの浜、ロング・アイランド》1874年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦25.8センチ、横55.1センチとされる。番号は2012.89.2。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロー・ホーマー《イースト・ハンプトンの浜、ロング・アイランド》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点でいちばん小さい画面である。

横は縦の二倍以上ある。

細長い帯のような形をしている。

浜が横に広がり、その上に人物が散る。

左には、赤い上着の女性が立つ。

中央には、日傘を差した人が二人座る。

傘は白と黄で、大きく開く。

その周りに、白い衣が広がる。

右奥にも、小さな人影がある。

砂は淡い黄土色で、平らである。

奥には、海と低い建物が横に伸びる。

空は白く、雲が薄い。

視点は低く、浜の高さから見ている。

水が、六点に出てくる

九点のうち六点に、水が描かれている。

海、川、浅瀬、そして浜。

残る三点は、陸の上の場面である。

水の描き方は、六点でそれぞれ違う。

波の高い海、平らな浅瀬、暗い川面、砂の浜。

同じ画家が、水の状態を描き分けている。

波の高さ、泡の立ち方、光の反射。

いずれも、絵具の置き方で示される。

館の記録は、水について何も書かない。

書かれるのは、題と年と寸法と出所だけだ。

水があることは、題から推測できる場合もある。

追い風、右と左、浜。

題の語が、画面の内容を少しだけ伝えている。

題は短いが、まったくの無情報ではない。

題に、括弧が付く二点

九点の題を見ると、二点に括弧が付く。

一点は、括弧の中に別の題が入る。

もう一点も、同じ形である。

これは、その作品が複数の題で知られてきたことを示す。

展覧会や文献で、違う題が使われることがある。

館は、主となる題を先に置き、別の題を括弧に入れる。

こうすれば、どちらの題で探しても見つかる。

括弧の中に呼び名を入れる書き方と同じだ。

括弧は、複数の呼び名を一つの欄に畳む道具である。

題の欄は、作品の内容を示すためだけの欄ではない。

探すための欄でもある。

だから、使われてきた呼び名を捨てない。

受入の年が、六十九年に散る

九点の番号の頭を並べる。

1943年、1947年、1951年、1964年、1985年が二点、1994年、1997年、2012年。

最初と最後で、六十九年ひらく。

前半の四点は、十年ほどの間隔で並ぶ。

後半の五点は、二十年から三十年の間隔がある。

制作年の幅は四十六年、受入の幅は六十九年。

受入のほうが、長い時間に広がっている。

これは、これまでの記事でも見た形である。

作品が作られる速さと、館に集まる速さは違う。

いちばん新しい受入は2012年。

つまり、この画家の作品はいまも届いている。

館の収蔵品は、閉じた集合ではない。

白い衣が、三点に出てくる

九点のうち三点で、白い衣の人物が画面の中心にいる。

角笛を吹く姿、縞の衣で立つ姿、浜で日傘の下にいる姿。

いずれも、周囲の暗さや色の中で白が際立つ。

白は、絵具としては扱いが難しい。

厚く置けば重くなり、薄く置けば地の色が透ける。

三点では、その置き方が違う。

角笛の一点では、白がはっきりと形を作る。

浜の一点では、白が薄く、砂と混ざる。

同じ白でも、場面によって使い分けられている。

館の記録は、色について何も書かない。

技法の欄には、カンヴァスに油彩とあるだけだ。

色の情報は、画像の側にある。

記録と画像は、そうやって役割を分けている。

文字にしにくいものは、文字にしない。

大きさの差が、二十倍

九点の面積を計算してみる。

いちばん小さいのは、細長い浜の一点である。

縦25.8センチ、横55.1センチ。約0.14平方メートル。

いちばん大きいのは、鴨を描いた一点だ。

縦71.8センチ、横122.9センチ。約0.88平方メートル。

面積では、六倍ほどの差になる。

大きいほうは、展覧会に出すための作品だと考えられる。

小さいほうは、その場で描いた記録に近い。

同じ画家の作品でも、目的が違えば大きさも違う。

九点の寸法の散らばりは、その差を示している。

そして、大きさと受け入れられ方には関係がない。

小さな一点も、大きな一点も、同じ形式で記録される。

記録の欄は、作品の格を区別しない。

姓が同じでも、別の行

最後に、入口の話へ戻りたい。

九点の行には、同じ姓が二度現れる。

一つは財団の名、一つは夫妻のコレクションの名だ。

同じ姓であっても、記録は一つにまとめない。

まとめれば、別々の主体が混ざってしまう。

寄贈した年も、贈った作品も違う。

姓が同じというだけで結びつけるのは、記録の作法に反する。

読む側も、同じ注意が要る。

似た名を見たときに、同じだと決めつけない。

別の記事でも、似た名の寄贈者について同じことを書いた。

気づくことと、決めつけることは違う。

行を数えると、館の受け取り方が見える

九点の六通りの行を、種類で分けてみる。

個人が二、夫妻が一、財団が二、基金が一。

四つの型がある。

そして、そのどれもが同じ形式で書かれる。

寄贈者の名を置き、必要なら記念の句を添える。

購入なら、基金の名だけを置く。

型が違っても、書き方の骨格は変わらない。

だからこそ、並べて数えることができる。

数えれば、館がどうやって作品を受け取ってきたかが分かる。

一人の画家の九点でも、その輪郭は見える。

九点は少ない標本だが、行の型は出そろっている。

美術館の記録は、少ない点数でも構造を示してくれる。

構造が同じだから、少数でも比べられるのである。

そして比べたときに、同じ姓の二つの行が目に入る。

姓が同じで、下の名が違う。

そこで手を止めて、決めつけずに読む。

その一手間が、記録を正しく読むための作法である。

館は、決めつけないために二つの行を分けて書いた。

読む側も、分けたまま受け取ればよい。

分けたままにしておけば、いつか関係が分かったときに足せる。

まとめてしまえば、足す場所がなくなる。

記録の欄は、そのために細かく分かれている。

細かさは、いつも読みやすさと引き換えになる。

読みやすさを取れば、情報が落ちる。

情報を取れば、読みにくくなる。

美術館の記録は、後者を選び続けてきた。

九点の六通りの行は、その選択の結果である。

読みにくいと感じたら、それは正確さの手応えでもある。

慣れれば、行の型はすぐに見分けられるようになる。

寄贈か、購入か。個人か、団体か。

記念の句があるか、括弧があるか。

見るべき場所は、そう多くない。

九点の行を読み終えるのに、五分もかからない。

その五分で、六十九年ぶんの受け取りの歴史が読める。

読めたところで、絵の見え方が変わるわけではない。

それでも、絵の後ろに人がいたことは分かる。

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