作品を知る

角と骨は、名前になる——窪俊満・ルドン・カトリンほか九点

短くてどの言語にもある語は、姓にも呼び名にもなりやすい。角と骨の九点を数えると、実物は火薬入れの一点だけで、四点では材料の語が人を指していた。陶が角の形を写し、館の記録は象嵌を象牙か骨か決めていない。名前になった材料の記録である。

角製の火薬入れ
ジェイコブ・ゲイ《角製の火薬入れ》メトロポリタン美術館蔵

曲がった角に、文字と絵が刻まれている

牛の角である。

長さ33センチ、太いほうの直径は8.9センチある。

重さは419.6グラムある。

全体が緩く曲がる。

太いほうから、細いほうへ細くなる。

細いほうの先には、木の栓がある。

太いほうの端にも、木の板が嵌まる。

板は円く、平らである。

角の色は、淡い黄褐色である。

ところどころ、褐色の斑がある。

半分ほど透けて見える部分がある。

表面には、線が彫られている。

線は細く、黒い。

彫った溝に、色が詰められている。

文字が、いくつも並ぶ。

文字は大きさが不揃いである。

文字のあいだに、絵がある。

盾の形と、旗の形が見える。

さらに、地図らしい線もある。

線は川か道のように、曲がりながら続く。

角製の火薬入れ
ジェイコブ・ゲイ《角製の火薬入れ》1759年。館の記録では、牛の角と木。長さ33センチ、直径8.9センチ。重さ419.6グラム。番号は37.131.7。メトロポリタン美術館蔵。ジェイコブ・ゲイ《角製の火薬入れ》メトロポリタン美術館蔵

館の札には「紋章」と「地図」がある。

つまり館は、この角を紋章と地図の器として登録している。

角は、内部が空である。

だから、そのまま容れ物になる。

そして水を通さない。

火薬を入れるのに向いている。

熱すれば、平らに伸ばすこともできる。

薄く削れば、光を通す。

窓の板や、提灯の面にも使われた。

硝子より安く、割れない。

角と骨は、九つの場所に現れる

この一つを出発点に、角と骨にまつわる九点を数えていく。

角も骨も、獣の体の硬い部分である。

象牙と違い、どこにでもある。

牛からも、羊からも取れる。

そして安い。

先に言ってしまうと、九点のうち、角でできているのは一点だけである。

一点では、角は絵に描かれた器である。

一点では、角の形が陶で写されている。

一点では、骨は材料の欄で象牙と並べられている。

一点では、骨は題の中の語である。

そして四点では、角か骨は人の名前である。

つまり九点のうち半分近くで、材料は名前になっている。

角も骨も、短い語である。

覚えやすく、呼びやすい。

そのぶん、姓や呼び名に選ばれやすい。

角の花生けが、紙に描かれる

二点目は、摺物である。

角の花生けと蝶
窪俊満《角の花生けと蝶》十九世紀。館の記録では、摺物、紙に墨と色。13.7×27.1センチ。番号はJP1930。メトロポリタン美術館蔵。窪俊満《角の花生けと蝶》メトロポリタン美術館蔵

横長の小さな版画である。

13.7×27.1センチしかない。

紙は、薄い黄褐色である。

画面の左三分の二に、文字が並ぶ。

文字は縦書きで、行が詰まる。

書体は細く、崩されている。

画面の右下に、細長い器がある。

器は三日月のように曲がる。

上へ向かって、細くなる。

色は淡い桃色である。

面には、薄い影が付く。

器の口の脇に、小さな黒い形がある。

その上に、蝶が飛ぶ。

蝶は白く、翅を広げる。

翅には、細かい斑がある。

胴は細く、触角が二本ある。

花は、生けられていない。

背景には、何も描かれていない。

紙の色が、そのまま地になる。

館の札には「角」と「蝶」がある。

題によれば、この器は角でできている。

つまり牛か羊の角を、切って磨いたものである。

摺物は、私的に配られる版画である。

だから紙も刷りも贅沢になる。

九点のうち、角が描かれているのは、この一点である。

描かれた器は、淡い桃色である。

角を薄く削れば、その色に近づく。

光が透けるためである。

つまり色が、材質を示している。

陶で、角の形を写す

三点目は、陶の杯である。

赤像式牡羊頭リュトン(酒杯):饗宴の人々、サテュロスとマイナス
ブリュゴスの画家《赤像式牡羊頭リュトン》紀元前480年から470年ごろ。館の記録では、陶。全体は19×12.8センチ、口の直径11.4センチ。番号は1988.8。クリーヴランド美術館蔵。赤像式牡羊頭リュトン(酒杯):饗宴の人々、サテュロスとマイナス》クリーヴランド美術館蔵

上下に分かれた形の杯である。

全体は19×12.8センチ、口の直径は11.4センチある。

上は、円い椀である。

椀の外側は黒く、赤い人物が並ぶ。

人物は三人、横になって寄りかかる。

一人は帽子をかぶり、笛を吹く。

二人は髭があり、杯を持つ。

一人は、頭を後ろへ反らす。

人物のまわりに、文字が散る。

椀の横に、太い把手が付く。

把手の両脇にも、人物がいる。

下は、羊の頭である。

頭は前へ突き出る。

目は大きく、黒い。

角は横へ渦を巻く。

渦の筋が、一本ずつ刻まれる。

鼻先は丸く、口が閉じる。

頭の下半分は、欠けている。

館の記録では、この杯は型で作った羊の頭の半分近くを失っている。

しかし、赤像式に描かれた部分の多くは残っているという。

そして館は、上の椀について書いている。

轆轤で作られた椀の上で、三人が酒宴で横になっている。

一人は笛を吹き、近くには竪琴が掛かる。

一人は、歌うために頭を反らせている。

まわりの文字は、知られた語にならない。

空気の中の音楽を示しているのかもしれないという。

館の記録は、そう説明している。

そして館は、これを飲むための角の一種と呼んでいる。

つまり陶が、角の形を写している。

角は、そのままでは立たない。

先が尖っているからである。

だから飲み干すまで、置けない。

その形を、陶で作り直している。

陶なら、口を広く作れる。

そして絵を描ける。

角には、絵を描く面がない。

形は写しても、できることは変わっている。

古代の器の形と用途については、器の形と用途で扱った。

象牙か、骨か

四点目では、記録が決めていない。