描きかけの仕上げ——ベルト・モリゾ
二人を並べた構成

横長の画面である。縦52.1センチ、横81.3センチ。
二人の若い女性が、長椅子に並んで座っている。
服はどちらも白地に細かい水色の点。同じ生地である。
首元に黒い紐を巻き、髪を後ろでまとめている。
一人は扇を膝の上に持ち、もう一人は手を組んでいる。
長椅子の張り地は花模様で、赤と青が散る。
背後の壁には、日本の扇のような形の絵が掛かっている。
つまり室内の装飾に、東洋の品が入っている。
当時のパリの流行が反映されている。
二人の顔はよく似ており、姉妹だと分かる。
同じ服を着せることで、対の関係が強調されている。
別の館にある一点

こちらは別の美術館の所蔵である。
若い女性が、灰色の長椅子に座っている。
桃色の服。襞飾りが胸元と袖に並ぶ。
右腕を椅子の背に掛け、体をこちらへ向けている。
顔は正面。目はやや伏せている。
背後は暗い緑褐色。左に鉢植えの花がある。
この一点は、他の作品より塗りが厚い。
背景が暗く、人物の輪郭がはっきりしている。
つまり初期には、従来の仕上げに近い作品もあった。
軽い仕上げは、徐々に選び取られていったことになる。
印象派展という場
発表の場についても書いておきたい。
1874年から1886年まで、印象派展は八回開かれた。
官展の審査を通らずに作品を見せるための、自主的な展覧会である。
出品者は自ら費用を出し、会場を借り、作品を並べた。
この画家は、八回のうち七回に出品している。
一回だけ出品しなかったのは、出産の時期にあたる。
つまり運動の中心にいた画家である。
しかし美術史の記述では、長く周辺に置かれてきた。
理由の一つは、作品の多くが個人の家にあり、展示の機会が少なかったことである。
もう一つは、批評の言葉が女性の画家を別枠に置いてきたことである。
近年になって、評価と展示の機会が大きく変わっている。
美術史の記述は、作品より遅れて動く。
見立て——薄い絵具は、速さと明るさのため
まとめておきたい。
薄く塗ることには、二つの利点がある。
一つは速さである。乾きを待たずに次の筆を置ける。
家の中の主題では、家族の予定に合わせて短時間で描く必要がある。
二つは明るさである。画布の白が透けると、画面全体が明るくなる。
厚く塗り重ねると、色は深くなるが暗くなる。
この画家が選んだのは、明るさのほうである。
そして薄い絵具は、直しが効かない。
置いた筆がそのまま残る。だから一筆の判断が問われる。
「描きかけ」に見える仕上げは、実は取り消しのできない仕上げである。
家族の記録として残ったこと
作品の伝わり方にも触れておきたい。
この画家の作品は、長く家族の手元にあった。
娘が受け継ぎ、その後に美術館へ入った例が多い。
つまり市場を経由せず、家の中で保管されていた。
その結果、まとまった数が散らばらずに残った。
一方で、公開の機会は限られた。
売られなかった作品は、展覧会にも出にくい。
残ることと、知られることは別である。
同じ事情は、他の画家の遺族が守った作品群にも見られる。
いま公開画像として見られるのは、その保管の結果である。
美術館に入った時点で初めて、多くの人が見られるようになった。
制作の時間
制作の速さについても書いておきたい。
薄塗りの画面は、短時間で仕上げられる。
乾きを待つ層が少ないためである。
一方、何度も置き直せば、薄さの利点は消える。
だから一筆の判断が求められる。
家庭の予定に合わせて描く画家にとって、この速さは実務上の必要でもあった。
子どもの世話、来客、食事の支度。制作の時間は連続していない。
断続的な時間で仕上げられる方法が選ばれたと考えられる。
公開分の年代
公開分の構成も確かめておきたい。
13点の制作年は1869年から1891年に及ぶ。
二十年余りの幅がある。
主題は家族、子ども、庭、花、そして使用人である。
屋外の主題は庭と水辺に限られる。
行ける場所の範囲が、そのまま主題の範囲になっている。
暮らしへ——白いものを、白で塗らずに見る
最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。
白い服やシーツを、明るい部屋で見てほしい。
影の部分は青灰色、光の部分は黄みを帯びた白になる。
純白の面は、実はほとんど無い。
その差を見つけられると、絵の白が理解しやすくなる。
写真を撮るなら、白いものを白飛びさせずに撮る練習が効く。
明るい部分にわずかな色を残すと、質感が出る。
薄い絵具で描く画家がやっていたのは、この調整である。
もう一つ。下地の色を活かす練習もできる。
色のついた紙に、白と少しの色だけで描いてみる。
紙の色が中間調になり、少ない手数で立体が出る。
薄塗りの原理が、そのまま確かめられる。
そして、途中で止める練習も効く。
描き込みたくなったところで筆を置く。
止める位置を決められるかどうかが、軽い仕上げの要である。
百五十年前の画家も、同じ判断を毎回していた。
そして、途中で止めた絵を数日置いてから見返してほしい。
足したくなる場所と、足さなくてよい場所が分かれる。
軽い仕上げの判断は、時間を置くと見えやすくなる。
群として見ると、条件が見える
最後に、見方をまとめておきたい。
13点を主題で分けると、家の中と庭に集まる。
つまり行動の範囲がそのまま主題の範囲になっている。
作品の内容から、置かれた条件を読むことができる。
様式の話に進む前に、条件を確かめておきたい。
公開画像は、そのための道具である。
主題を分類し、行動の範囲を推測することができる。
そこから当時の条件へ話をつなげられる。
作品の内容と社会の条件を往復する作業に、公開記録は向いている。









