作品を知る

猫は、顔を見せないまま絵になる——川端玉章・閔貞・スタンランほか九点

魚を盗む猫
ジュゼッペ・レッコ《魚を盗む猫》1660年代後半。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は96.5×128.3センチ。番号は71.17。メトロポリタン美術館蔵。ジュゼッペ・レッコ《魚を盗む猫》メトロポリタン美術館蔵

暗い台所の隅である。

背景はほとんど黒く塗られ、奥行きが分からない。

左には、銅の丸い盆が立てかけられている。

その縁が、画面の中でいちばん明るく光る。

中央には、石の台がある。

台の上と手前の床に、魚が何匹も投げ出されている。

一匹は腹を上に向け、白い腹が光っている。

赤い鰭を広げたものもいる。

台の奥、暗がりの中に、猫がいる。

体は黒く、輪郭はほとんど背景に溶けている。

しかし目だけが、黄色く光っている。

口には、魚が一匹くわえられている。

その魚の体は、猫の口から左右に長くはみ出している。

館の記録では、題は「魚を盗む猫」である。

札には「猫」「魚」「静物」の三つが並ぶ。

つまりこの画面は、静物画として登録されている。

台に並べられた魚は、本来なら動かないものである。

そこへ猫が入り込み、一匹だけを動かしてしまった。

静物であることを壊しているのは、猫である。

画面の大きさは96.5×128.3センチある。

等身大に近い台所の一角が、そのまま切り取られている。

魚の数は、数えると十匹を超える。

一匹だけが猫の口の中にあり、残りは台と床に散らばっている。

つまり被害はごくわずかで、盗みとしては小さい。

それでも題は「魚を盗む猫」であって、「魚のある静物」ではない。

館の題の付け方が、この画面の出来事を猫の行為として定めている。

台の上に何が載せられるかについては、卓が載せているものでも扱った。

猫の手は、他人のために使われる

四点目も、猫が何かをさせられる場面である。

猿と猫
アブラハム・ホンディウス《猿と猫》1670年代か。館の記録では、油彩・カンヴァス。額なしで62.2×73.7センチ。番号は1979.82。クリーヴランド美術館蔵。アブラハム・ホンディウス《猿と猫》クリーヴランド美術館蔵

暗い室内で、右奥に炉の火が赤く燃えている。

その火のそばに、二匹の獣がいる。

左にいるのは猿である。

体は大きく、後ろ脚で踏ん張っている。

前脚の一本を伸ばし、猫の体を押さえている。

猫は仰向けに倒れ、腹を見せている。

四本の脚が宙に浮き、爪が開いている。

顔はこちらを向き、口が大きく開かれている。

歯が見え、目が見開かれている。

床には、丸い実がいくつも転がっている。

館の記録では、これは古代ギリシアの寓話の一場面である。

あるいは、当時はさらに有名だった十七世紀の詩人の翻案かもしれないという。

館の記録は、その両方の可能性を書いている。

話の筋はこうである。

猿が甘い言葉で猫をそそのかし、火の中から熱い栗を取り出させる。

猫が危険で痛い仕事をやり終えたときには、猿がほとんど食べてしまっている。

館の記録は、これを追従の危うさを説く話だと読む。

つまりこの猫は、他人の欲のために自分の手を焼いている。

九点のうち、猫が痛みを受けている場面は、この一点だけである。

そして猫は、この物語の中で手を持つ生きものとして選ばれている。

猿には手があるが、火の中に入れたくない。

猫の前脚は、細く、爪があり、火の中の小さな実をつかめる。

体の作りが、そのまま役柄を決めている。

炉の火が画面の右奥で赤く燃えているのも、その役柄のためである。

火がなければ、この寓話は成り立たない。

床に転がる実の数も、猫がすでに何度か手を入れたことを示している。

ただし、何個取り出したのかまでは記録に書かれていない。

鸚鵡に立ち向かわれる猫

五点目は、本のための下絵である。

鸚鵡と猫
アーサー・ラッカム《鸚鵡と猫》1905年ごろ。館の記録では、紙に黒インクの淡彩と黒鉛。紙は26×37センチ。番号は1946.158。クリーヴランド美術館蔵。アーサー・ラッカム《鸚鵡と猫》クリーヴランド美術館蔵

淡い黄色の紙に、灰色の墨だけで描かれている。

画面の左に、猫がうずくまっている。

背中を丸め、頭を低くし、前脚を体の下にたたみ込んでいる。

その姿勢は、飛びかかる直前のものに見える。

顔は右を向き、目のあたりが濃くにじんでいる。

猫の前、画面の右上に、鳥が一羽いる。

翼を大きく広げ、羽の一枚一枚が薄い墨でぼかされている。

くちばしは開き、猫のほうへ向かっている。

床には、もう一つ翼の影のようなものが落ちている。

背景は塗られておらず、紙の色のままである。

館の記録では、この下絵は雑誌の挿絵のためのものである。

作者は二十世紀初めのもっとも成功した本の挿絵画家のひとりだった。

贈り物用の豪華本の彩色挿絵で知られる一方、商業的な仕事もしたという。

蔵書票や挨拶状のような刷り物も手がけた、と記録は書く。

この下絵にもとづく図は、1906年の雑誌の二月号に載った六点の一つだった。

そして館は、物語の山場を説明している。

鸚鵡が、友である金糸雀を守るために、敵である猫に立ち向かう場面である。

三匹の鳥と獣には、それぞれ名前が与えられている。

つまりこの猫は、名前を持った登場人物として描かれている。

下絵と完成図の関係については、習作と本画でも扱った。

館の記録は、この下絵が完成図と同じ姿勢と位置を示していると書いている。

紙面いっぱいに、猫が二十匹

六点目では、猫の数が一気に増える。