白は、足すか残すかで意味が変わる——アルトドルファー・韓幹・ベローズほか九点
白ワインのための、色のないガラス
四点目は、ガラスの杯である。

脚の付いた小さな杯である。
高さは10.7センチしかない。
上の椀は逆さの円錐形で、口が広い。
ガラスは透明で、薄い。
縁のあたりには、色がまったくない。
脚と台の部分だけが、琥珀色を帯びている。
その面には、細長い獣が円を描いて走る。
猟犬である。
模様は型で押し出され、面から浮き上がる。
前の回で見た赤ワインのための杯は、同じ組の一つである。
そちらは高さ13センチで、こちらは10.7センチしかない。
形も模様も同じで、大きさだけが違う。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
つまり白という語は、器の色を指していない。
注がれる酒の呼び名である。
そして白ワインと呼ばれる酒も、実際には淡い黄色である。
九点のうち、白がまったく白くないのは、この一点である。
同じ組で大きさを変えるのは、注ぐ酒によって適量が違うからである。
赤い酒は大きな杯で、白い酒は小さな杯で飲む。
つまり器の寸法が、中身の名を代弁している。
そして両方とも、椀の部分は無色である。
色を付けないという選び方が、二つの杯に共通している。
見せるべきは酒の色であって、ガラスの色ではない。
館の記録は、そこまでは書いていない。
書かれているのは、題と、ガラスであることと、寸法だけである。
白い衣が、画面の中心にいる
五点目は、室内の場面である。

横長の小さな板絵である。
額なしで30.5×40.5センチしかない。
緑の壁の広間である。
壁には、金の額が幾つも掛かる。
奥には、窓と暗い外が見える。
中央に、長い卓がある。
卓のまわりに、人が十数人集まっている。
赤い椅子に腰かける者、立って身を乗り出す者。
女性たちは、肩の出た衣を着ている。
男たちは、長い巻き毛の鬘をかぶる。
そして卓の中央、やや左に、白い衣の男が座っている。
上着も、袖も、白い。
まわりの赤と緑と褐色の中で、そこだけが明るい。
館の記録では、この場面は作られた一場である。
中央に白い衣で座るのが、題にある人物だという。
そして館は、状況を説明している。
場面は創作だが、卓のまわりの人々は、その人が実際に知っていた者たちである。
当時の見る人にもよく知られていた顔ぶれだったという。
館の記録は、そう書いている。
つまりこの白は、誰が主役かを示す印である。
十数人のうち、白い衣はひとりだけである。
そして白は、まわりの色によって強くなっている。
壁は深い緑、椅子は赤、卓の布も暗い。
その中に一点だけ明るい面があれば、目はそこへ行く。
前の回で見た赤の使い方と、働きは同じである。
赤は小さな面積で効き、白も小さな面積で効く。
違うのは、白がまわりの明るさに左右される点である。
暗い部屋でなければ、白い衣は目立たない。
板に描かれているので、絵の具の面は滑らかである。
ここから、名前の中の白へ
六点目からは、白は語になる。

小さな紙である。
画面そのものは30.8×34センチしかない。
中央に、馬が一頭描かれている。
体は横向きで、頭が右を向く。
首を高く上げ、口を開けている。
たてがみは短く立ち、耳が前を向く。
前脚の一本が持ち上がる。
そして胴の下に、太い柱が立つ。
馬は、その柱につながれている。
体の輪郭は、細く均一な墨の線で引かれている。
内側はほとんど塗られていない。
紙の色が、そのまま馬の体である。
まわりの余白には、赤い印が数十も押されている。
上部には、細かい文字が幾行も書かれている。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
題は、この馬の名である。
夜を照らす白、という名である。
つまり白は、馬の毛色から取られた名前である。
しかし画面では、その白は塗られていない。
塗らずに残された紙が、白い馬になっている。
刷らずに残す白については、刷らなかった白で扱った。
そして余白の印と文字が、この紙の歴史を語っている。
数十の赤い印は、代々の持ち主が押したものである。
表装を含めれば、全体は11メートルを超える。
画面そのものは掌ほどなのに、巻物は長い。
つまり後から書かれた文と、押された印が、紙を継ぎ足してきた。
馬は小さく、まわりの記録は長い。
九点のうち、画面より記録のほうが広いのは、この一点である。
白は、期待の名になる
七点目は、石版である。