作品を知る

白は、足すか残すかで意味が変わる——アルトドルファー・韓幹・ベローズほか九点

白ワインのための、色のないガラス

四点目は、ガラスの杯である。

猟犬の脚付白ワイングラス
ルネ・ラリック《猟犬の脚付白ワイングラス》1913年から21年ごろ。館の記録では、ガラス。全体は10.7×6.5センチ。番号は2011.121.3。クリーヴランド美術館蔵。ルネ・ラリック《猟犬の脚付白ワイングラス》クリーヴランド美術館蔵

脚の付いた小さな杯である。

高さは10.7センチしかない。

上の椀は逆さの円錐形で、口が広い。

ガラスは透明で、薄い。

縁のあたりには、色がまったくない。

脚と台の部分だけが、琥珀色を帯びている。

その面には、細長い獣が円を描いて走る。

猟犬である。

模様は型で押し出され、面から浮き上がる。

前の回で見た赤ワインのための杯は、同じ組の一つである。

そちらは高さ13センチで、こちらは10.7センチしかない。

形も模様も同じで、大きさだけが違う。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

つまり白という語は、器の色を指していない。

注がれる酒の呼び名である。

そして白ワインと呼ばれる酒も、実際には淡い黄色である。

九点のうち、白がまったく白くないのは、この一点である。

同じ組で大きさを変えるのは、注ぐ酒によって適量が違うからである。

赤い酒は大きな杯で、白い酒は小さな杯で飲む。

つまり器の寸法が、中身の名を代弁している。

そして両方とも、椀の部分は無色である。

色を付けないという選び方が、二つの杯に共通している。

見せるべきは酒の色であって、ガラスの色ではない。

館の記録は、そこまでは書いていない。

書かれているのは、題と、ガラスであることと、寸法だけである。

白い衣が、画面の中心にいる

五点目は、室内の場面である。

バッキンガムの生涯
オーガスタス・レオポルド・エッグ《バッキンガムの生涯》1855年ごろ。館の記録では、板に油彩。額なしで30.5×40.5センチ。番号は2014.373。クリーヴランド美術館蔵。オーガスタス・レオポルド・エッグ《バッキンガムの生涯》クリーヴランド美術館蔵

横長の小さな板絵である。

額なしで30.5×40.5センチしかない。

緑の壁の広間である。

壁には、金の額が幾つも掛かる。

奥には、窓と暗い外が見える。

中央に、長い卓がある。

卓のまわりに、人が十数人集まっている。

赤い椅子に腰かける者、立って身を乗り出す者。

女性たちは、肩の出た衣を着ている。

男たちは、長い巻き毛の鬘をかぶる。

そして卓の中央、やや左に、白い衣の男が座っている。

上着も、袖も、白い。

まわりの赤と緑と褐色の中で、そこだけが明るい。

館の記録では、この場面は作られた一場である。

中央に白い衣で座るのが、題にある人物だという。

そして館は、状況を説明している。

場面は創作だが、卓のまわりの人々は、その人が実際に知っていた者たちである。

当時の見る人にもよく知られていた顔ぶれだったという。

館の記録は、そう書いている。

つまりこの白は、誰が主役かを示す印である。

十数人のうち、白い衣はひとりだけである。

そして白は、まわりの色によって強くなっている。

壁は深い緑、椅子は赤、卓の布も暗い。

その中に一点だけ明るい面があれば、目はそこへ行く。

前の回で見た赤の使い方と、働きは同じである。

赤は小さな面積で効き、白も小さな面積で効く。

違うのは、白がまわりの明るさに左右される点である。

暗い部屋でなければ、白い衣は目立たない。

板に描かれているので、絵の具の面は滑らかである。

ここから、名前の中の白へ

六点目からは、白は語になる。

照夜白図
韓幹《照夜白図》750年ごろ。館の記録では、巻子・紙本墨画。画面は30.8×34センチ。番号は1977.78。メトロポリタン美術館蔵。韓幹《照夜白図》メトロポリタン美術館蔵

小さな紙である。

画面そのものは30.8×34センチしかない。

中央に、馬が一頭描かれている。

体は横向きで、頭が右を向く。

首を高く上げ、口を開けている。

たてがみは短く立ち、耳が前を向く。

前脚の一本が持ち上がる。

そして胴の下に、太い柱が立つ。

馬は、その柱につながれている。

体の輪郭は、細く均一な墨の線で引かれている。

内側はほとんど塗られていない。

紙の色が、そのまま馬の体である。

まわりの余白には、赤い印が数十も押されている。

上部には、細かい文字が幾行も書かれている。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

題は、この馬の名である。

夜を照らす白、という名である。

つまり白は、馬の毛色から取られた名前である。

しかし画面では、その白は塗られていない。

塗らずに残された紙が、白い馬になっている。

刷らずに残す白については、刷らなかった白で扱った。

そして余白の印と文字が、この紙の歴史を語っている。

数十の赤い印は、代々の持ち主が押したものである。

表装を含めれば、全体は11メートルを超える。

画面そのものは掌ほどなのに、巻物は長い。

つまり後から書かれた文と、押された印が、紙を継ぎ足してきた。

馬は小さく、まわりの記録は長い。

九点のうち、画面より記録のほうが広いのは、この一点である。

白は、期待の名になる

七点目は、石版である。