犬は、画面のいちばん下にいる——ティントレット・春信・是真ほか九点
犬の高さを測る
七点の絵で、犬の位置を測りたい。
画面の下から、どのくらいの高さにいるか。
春信の一点は、下から五分の一ほどである。
是真の一点は、下から三分の一ほど。
細密画は、下から四分の一ほど。
羊飼いの一点は、下から三分の一ほど。
群衆の一点は、下から十分の一ほど。
総督の一点も、下から十分の一ほど。
素描帖は、下から四分の一ほど。
つまり、すべて下半分にいる。
そして、五点は下から三分の一より低い。
上半分に犬がいる絵は、九点のなかに一点もない。
これは当然のようだが、確かめる価値がある。
犬は四本足で、背が低い。
人が立っていれば、犬は膝より下にいる。
だから、絵でもそうなる。
つまり、絵は身体の高さをそのまま写している。
第五回で、画面のなかの高さについて書いた。
上にあるものは、遠いか、高いか、重要である。
下にあるものは、近いか、低いか、従属している。
犬は、そのうち低いに当たる。
そして、しばしば従属してもいる。
名前だけの犬

前の回でも、この作者の一点を見た。
同じ形式である。
四五・六掛ける六一・七センチ。
楕円に切り抜かれ、台紙に貼ってある。
上に、小さな札が貼られている。
画面には、四人が立つ。
横に並んでいる。
左から、若い男、年配の男、女性、そして子ども。
いずれも正面を向く。
衣は毛皮のように見える。
年配の男は、頭に羽根の飾りをつけている。
背景は淡い緑と青である。
地面と空だけで、何も描かれていない。
下部に、細い字が書かれている。
そして、この画面に犬はいない。
一匹もいない。
館の記録の題に、犬を意味する語が含まれている。
だが、それは人々の呼び名の一部である。
前の回でも、谷の名が花束だった一点があった。
同じことが、ここでも起きている。
固有名詞のなかに、普通の語が入っている。
そして、絞り込みはそれを拾う。
第十七回で、この問題について書いた。
語で絞ると、必ずこうした外れが混じる。
そして、外れは画像を見なければ分からない。
犬の色と大きさ
七点の犬を見比べたい。
黒い犬が三点。
春信の一点、是真の一点、総督の一点。
黒と白の犬が一点。
細密画である。
淡い色の犬が二点。
羊飼いの一点と、群衆の一点。
そして、素描帖は線だけで色がない。
つまり、黒が多い。
理由は、はっきりしている。
犬は小さく、下にいる。
そして、下は影になりやすい。
暗い色にすれば、影と馴染む。
明るい色にすると、目立ちすぎる。
第十三回で、画面のなかの明暗について書いた。
主題を明るく、周辺を暗くする。
犬は周辺である。
大きさも数えたい。
七点とも、犬は人物より小さい。
そして、多くは人物の頭の三倍ほどの長さである。
つまり、小型か中型の犬である。
羊飼いの一点だけが、やや大きい。
働く犬だからだろう。
誰の足もとか
七点の犬が、誰の足もとにいるかを見たい。
春信の一点は、しゃがんだ子どものそばである。
是真の一点は、女性の裾の横。
細密画は、少女の右下。
羊飼いの一点は、座る少年の横。
群衆の一点は、誰の足もとでもない。
画面の手前に、独立して立つ。
総督の一点は、ひざまずく総督の前。
素描帖は、腕を伸ばす男の先。
つまり、六点は特定の人物と結びついている。
そして、その多くが女性か子どもである。
七点のうち三点が、女性か少女の足もとである。
第十八回で、持ち物と性別の関係について書いた。
剣は男の持ち物として描かれた。
扇は、どちらも持った。
犬は、この九点では女性と子どものそばに多い。
ただし、羊飼いと総督の二点は男である。
つまり、決まりというほどではない。
働く犬と、飼われる犬の違いだろう。
三百年と五つの地域
九点の年を並べたい。
いちばん古いのが、一五七五年から一六〇〇年ごろの巻き上げ機。
次が、おそらく一五七七年の総督の一点。
次が、一七二〇年からの弩。
次が、一七四二年の群衆の一点。
次が、一七六八年ごろの版画。
次が、一七八九年ごろの羊飼い。
次が、一八一〇年からの素描帖。
次が、一八四三年の細密画。
次が、一八五五年からの四人の一点。
そして、一八六〇年ごろの版画。
つまり、三百年ほどの幅がある。
地域も広い。
イタリア、ドイツ、英国、米国、日本。
五つの地域にわたる。
それでも、犬の位置は変わらない。
どの絵でも、下にいる。
第十七回で、地域をまたぐ比較について書いた。
同じ扱いが各地で現れるとき、理由は身体にある。
犬の背の高さは、どこでも同じである。
犬が見えるまで
最後に、書いておきたいことがある。
九点のうち七点に犬がいる。
だが、そのうち何点かは、探さないと見つからない。
群衆の一点がそうである。
三十人以上が描かれた画面である。
犬は下の隅にいて、暗い。
総督の一点もそうである。
幅が二メートル近い画面である。
そのなかで、犬は数センチしかない。
館の記録は、犬について何も書いていない。
題にも、説明にも出てこない。
つまり、記録を読むだけでは、犬の存在が分からない。
前の回でも、同じことを書いた。
見えているものと、書かれていることは一致しない。
そして、犬のような細部は、まず書かれない。
だから、こうして九点を並べる意味がある。
画像を見て、位置を測り、色を数える。
記録に現れない共通点が、そこで初めて見える。
部門と技法
九点の部門を確かめたい。
欧州絵画部門が二点。
米国部門が二点。
アジア部門が二点。
武具部門が一点。
そして、ナショナル・ギャラリー・オブ・アートが二点。
技法も並べたい。
カンヴァスに油彩が二点。
紙に描いて布に貼ったものが一点。
厚紙に貼った台紙に油彩が一点。
木版画が二点。
紙にインクと淡彩が一点。
象牙に水彩が一点。
そして、金属と木の組み合わせが一点。
つまり、九点で七つの技法にわたる。
前の回までと同じ広がりである。
そして、犬が現れるのは、絵と版画と素描だけである。
器や家具や武器の装飾には、この九点では出てこない。
第十八回で、刀装具の意匠を数えたときは、植物が多かった。
装飾には植物が向き、場面には動物が向く。










