作品を知る

猿は、人の役を引き受ける——探幽・デューラー・ドゥカンほか九点

噛まれて病んだ王子の薬にするため殺される猿(トゥーティー・ナーマより・第五夜)
バサワン《噛まれて病んだ王子の薬にするため殺される猿》1560年ごろ。館の記録では、紙にガム・テンペラ、インク、金。画のみで10.3×10.6センチ。番号は1962.279.33.b。クリーヴランド美術館蔵。バサワン《噛まれて病んだ王子の薬にするため殺される猿(トゥーティー・ナーマより・第五夜)》クリーヴランド美術館蔵

上下に文字が並び、そのあいだに小さな絵がある。

絵は10.3×10.6センチしかない。

右には、天蓋の付いた寝台がある。

赤と黄の布が掛けられ、縁に模様が入る。

その上に、人が横たわっている。

顔をこちらへ向け、体は布に覆われている。

寝台のそばに、人が二人しゃがんでいる。

左には、赤い天幕が下がる。

その手前で、男が二人、身をかがめている。

一人は刃物を持ち、下へ向けている。

足もとには、小さな獣が横たわっている。

猿である。

館の記録では、王子は将棋を指す猿に噛まれた。

その手の傷が悪くなり、医者たちは一つの治療しかないと言った。

猿の血を傷に塗り、乾かすことである。

王子はしぶしぶ猿を殺すことを許した。

左の二人の男が、その重い仕事をしている。

館の記録は、そう説明している。

そして右の余白には、作者の名が書かれているという。

この写本には、その名高い画家の、知られる限り最古の絵が含まれている。

館の記録は、そう続ける。

つまりこの一葉は、猿の死を描くと同時に、画家の出発点でもある。

そして館は、寝台についても一行を添えている。

布の下にあるのが、噛まれて悪くなった手だという。

つまり画面には、傷そのものは描かれていない。

見えているのは、覆われた体と、殺される獣だけである。

原因と結果のうち、結果のほうだけが絵になっている。

色の使い方も見ておきたい。

赤い天幕、黄の寝台、青い衣。

明るい色が並ぶ中で、猿の体だけが小さく暗い。

猿は、人の服を着て説教する

四点目と五点目で、猿は服を着る。

七面鳥に説教する猿
クリストフ・ユエ《七面鳥に説教する猿》1750年から1800年。館の記録では、グワッシュ。紙は32.2×39.6センチ。番号は2017.215。クリーヴランド美術館蔵。クリストフ・ユエ《七面鳥に説教する猿》クリーヴランド美術館蔵

淡い色で描かれた風景である。

左に大きな木が立ち、枝が右へ広がる。

その枝から、籠が一つ吊り下げられている。

籠の中に、猿が一匹立っている。

頭巾の付いた長い衣を着ている。

片手を高く上げ、口を開いている。

籠は説教台の代わりである。

その下、草地に、七面鳥が何羽も集まっている。

羽を広げたもの、首を伸ばしたもの。

みな顔を上げ、籠のほうを見ている。

右奥には湖と山が薄く広がる。

館の記録では、これは猿真似の絵と呼ばれる一群に属する。

人の服を着た猿が、人の行いをまねる絵である。

ここでは、猿が木から吊るした籠の説教台から七面鳥に説教している。

七面鳥は愚かさのしるしと解され、修道服をまとった狡猾な猿にだまされている。

館の記録は、そう読む。

同じ画家の猿の部屋については、猿の部屋で扱った。

七面鳥の数も見ておきたい。

前景に五羽、その後ろに三羽ほどが重なる。

数えられるぎりぎりの数である。

一羽ずつ姿勢が違い、羽の広げ方も変えてある。

聞いている者が多いほど、説教は効いているように見える。

猿は一匹だけで、高いところにいる。

一対多という配置が、そのまま騙す者と騙される者の配置になっている。

専門家たち
アレクサンドル=ガブリエル・ドゥカン《専門家たち》1837年。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は46.4×64.1センチ。番号は29.100.196。メトロポリタン美術館蔵。アレクサンドル=ガブリエル・ドゥカン《専門家たち》メトロポリタン美術館蔵

薄暗い室内である。

右手に、大きな額に入った絵が立てかけられている。

絵の中身は、白っぽい獣らしいものである。

その絵の前に、猿が何匹も集まっている。

みな人の服を着ている。

黒い上着に白い襟。

一匹は椅子に腰かけ、身を乗り出している。

一匹は立って、腕を組んでいる。

一匹は帽子をかぶり、後ろから覗き込む。

顔はそれぞれ違う方向を向いている。

床には本が開いたまま置かれている。

館の札は「絵画」「風刺」「猿」の三つである。

つまり館は、この一点を風刺として登録している。

絵を見て評する者たちが、猿として描かれている。

九点のうち、猿が絵を見ている場面は、この一点だけである。

そして絵の中の絵は、画面の右半分を占めている。

つまりこの一点は、絵を見る絵である。

見る側の猿たちは、こちらに背を向けたり、横を向いたりしている。

顔がはっきり見えるのは二匹だけである。

残りは、姿勢だけで態度を示している。

腕を組む、身を乗り出す、後ろから覗く。

その姿勢は、いまも画廊で見かけるものと変わらない。

館が付けた「風刺」という札は、その一致を指している。

ダゲレオタイプの猿は、二つ並ぶ

六点目は写真である。

枝の上の猿
ルイ・ジュール・デュボスク=ソレイユ《枝の上の猿》1855年ごろ。館の記録では、ステレオのダゲレオタイプ、六分の一版。番号は2021.53。クリーヴランド美術館蔵。ルイ・ジュール・デュボスク=ソレイユ《枝の上の猿》クリーヴランド美術館蔵

黒い台紙に、楕円の像が二つ並んでいる。

左右ほとんど同じ図である。

どちらにも、猿が一匹写っている。

体は白っぽく光り、背景は黒い。

猿は細い枝につかまっている。

片手を上へ伸ばし、もう一方の手を下げている。

腰を落とし、後ろ脚で台に立つ。

顔は正面をやや外れた方向を向く。

体の毛が、一本ずつ光っている。

左右の像を見比べると、猿の位置がわずかにずれている。

館の記録では、立体視の器械は1849年に考案された。

考案した人は英国の製造業者の関心を得られず、1850年にパリへ持ち込んだ。

そこでこの作者に見せたところ、その人は器械を作るだけでなく、自分でも立体写真を作り始めた。

この一点もその一つだという。

そして館は、この人が自然史の標本のほかに、絵や彫刻も撮ったと書いている。

つまりこの猿は、標本として写された可能性がある。

生きているのか、剥製なのかは、記録に書かれていない。

ずれた二つの像を重ねると、猿は奥行きを持つ。

奥行きを持つということは、背後の闇にも距離ができるということである。

黒い背景は、平らな黒ではなくなる。

猿の後ろに、何もない空間が広がる。

そのため猿は、標本というより、闇の中に置かれた一匹に見える。

館の記録はさらに、この作者の立体写真の愛好者に女王がいたと書いている。

つまりこの猿は、宮廷でも覗き見られた可能性がある。

小さな器械の穴から、一匹の猿が立体になって現れる。