兎は、上下が入れ替わると死ぬ——北秀・ゲラール・ウードリーほか九点
丸太の上に、兎が三羽
四点目は、草地の兎である。

横長の小さな画面である。
25.4×30.8センチしかない。
画面の中央を、倒れた丸太が斜めに横切る。
樹皮は剥げ、木の肌が灰色に見える。
その丸太の上に、兎が一羽座っている。
耳は長く、二本とも立っている。
顔は左を向き、目が黒く光る。
丸太の下、草の中にも兎がいる。
左に一羽、中央に一羽。
どちらも体を低くし、耳を立てている。
三羽とも、同じ方向を見ている。
背景は明るい緑の茂みで、上のほうが黄色く光る。
地面には草と、小さな白い花が咲いている。
館の札は「兎」の一語だけである。
記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
前の回で見た鹿の写生も、同じ画家の手になるものだった。
そちらは題に「自然からの写生」と付いていた。
こちらには付いていない。
同じ画家が、鹿には写生と書き、兎には書かなかった。
理由は記録に書かれていない。
推測できるのは、鹿と兎で見る機会が違ったということである。
鹿は森へ行かなければ会えない。
兎は庭にも畑にも出てくる。
わざわざ写生と書かなくても、見て描いたことが疑われない。
もっとも、これは絵の外の事情からの推測である。
画面から言えるのは、三羽が同じ方向を見ているということだけである。
同じ方向を見ているのは、同じものに気づいたからである。
何に気づいたのかは描かれていない。
卯の刻という名の、兎のいない一枚
五点目には、兎がいない。

縦長の版画である。
女がふたり、寄り添って立っている。
手前の女は黒地の着物を着ている。
裾には赤と白の模様が大きく広がる。
髪には櫛と簪が何本も挿してある。
顔は右を向き、目を伏せている。
その後ろに、もうひとりの女が立つ。
こちらも黒い上着を羽織り、下に薄い色の着物を重ねる。
手には白い布を持っている。
足もとには、赤い履物と、緑の小物が置かれている。
画面の右上には、枠に囲まれた題が入る。
背景は塗られておらず、紙の色のままである。
館の記録では、この一枚は「廓の十二時」という連作の一枚である。
十二の時刻を、それぞれ一枚ずつ描いた組である。
この一枚は卯の刻、つまり朝にあたる。
卯は十二支の四番目で、兎を指す。
つまり題には兎の字が入っている。
しかし画面には、兎は一羽もいない。
描かれているのは、朝の見世の二人である。
時刻の名として使われるとき、兎は姿を消す。
九点のうち、兎が題にだけいるのは、この一点である。
十二の時刻を十二枚に分けるという作り方も見ておきたい。
一枚ずつでは、ただの二人の姿である。
十二枚そろって初めて、一日が一巡する。
つまり各図の意味は、組の中の位置によって決まる。
卯の刻という札が貼られることで、この二人は朝の二人になる。
同じ絵に別の札を貼れば、別の時刻の絵になっただろう。
獣の名が時刻の名を兼ねるとき、絵は獣から自由になる。
狩りの後、兎は積み上げられる
六点目と七点目で、兎は死んでいる。

たいへん大きな縦長の画面である。
236.2×186.1センチある。
人の背丈をはるかに超える。
暗い森の中に、赤い上着の男が立っている。
膝までの茶色の脚衣に、黒い長靴。
右手を上げ、木の枝に何かを掛けようとしている。
顔は横を向き、口髭が見える。
その足もとに、獣が積み上げられている。
白い犬が二頭、身をよじっている。
一頭は口を開け、上を向いている。
その下に、狐が横たわる。
さらに手前に、兎が何羽もころがっている。
耳が長く伸び、体は力なく折れている。
腹を上に向けたものもいる。
左下には、狩りの角笛が置かれている。
館の札は「鳥」「男性」「狩り」「犬」「狐」「兎」の六つである。
つまり館は、この画面を六種類のものの集まりとして登録している。
そして兎は、その六番目である。
この画家の挑発については、挑発で扱った。
九点のうち、兎の数がいちばん多いのはこの一点である。
正確な数は、重なっていて数えきれない。

淡い灰色の壁の前に、二つのものが吊るされている。
左は、皮を剥いだ肉の塊である。
白い脂と、赤い筋が見える。
上の端が紐で吊られている。
右は、野兎である。
後ろ脚を上にして、逆さに吊るされている。
体は長く伸び、前脚が下へ垂れる。
耳は頭の後ろへ倒れている。
毛は茶色で、腹のあたりが白い。
顔は下を向き、目は閉じている。
背景には何もない。
影が壁に薄く落ちているだけである。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
見えるのは、二つのものが並べられていることである。
一方は皮を剥がれて肉になり、もう一方はまだ毛皮のままである。
同じ食べものが、二つの段階で並んでいる。
そして毛の描き方が念入りである。
背中の毛は一本ずつ方向が違い、光を受ける面が変わる。
腹の白い毛は、透けるように薄く塗られている。
耳の内側には、細い血管のような線まで引かれている。
死んでいるのに、毛だけが生きているように見える。
画面の大きさは98.2×73.5センチある。
実物の野兎より、はるかに大きく描かれている。
近づいて見ることを前提にした絵である。