塔は、一本で立つ——カナレット・トライプ・パーマーほか九点
塔は目印として建てられるから、二本並ぶと役に立たない。九点で数えると、塔が二本以上ある画面は一つもなかった。祭壇画の尖塔飾り、障害競馬、切り立つ崖まで、塔の語は思わぬ場所へ広がる。高さを示すために、七点で下に小さなものが置かれていた。

塔が、水辺に一本だけ立っている
一枚の銅版画に、白い塔がある。
紙は39.3×54.2センチ、版の面は29.9×43.5センチ。
横に長い画面である。
塔は画面の右寄りに立つ。
四角い柱のような形で、上のほうに小さな窓がある。
てっぺんには、細い柵らしいものが見える。
塔の左には、低い建物が並ぶ。
屋根は平たく、壁は白い。
その手前に、水面が広がる。
水は静かで、細い横線で示される。
水の上に、細長い舟が何艘か浮かぶ。
舟には人が乗り、棹を差している。
左のほうには、杭が水中に並ぶ。
奥には、低い陸地と木立が続く。
空は白く、細い雲の線だけが引かれている。
画面の下の余白に、題らしい文字が刷られている。
館の記録の題によれば、これは景観の連作の一枚である。
塔の名は、ヴェネツィアに近い土地の名である。

塔は、細長い建物である。
幅より高さが大きく、たいてい上へ細くなる。
用途はさまざまである。
見張る、鐘を鳴らす、時を知らせる、祈る。
いずれも、高さが必要な用途である。
高いほど遠くまで見え、遠くまで聞こえる。
九点を並べて、塔の描かれ方を数えたい。
塔の語は、思わぬところへ広がる
集めかたは、館の記録の題によっている。
塔、尖塔、鐘楼にあたる語が入るものを拾った。
九点のうち、建物としての塔が描かれているのは五点だった。
残る四点は、語の広がりによって混じったものである。
一点は、祭壇画の上に載る尖った飾りである。
一点は、競馬の一種を指す語だった。
一点は、切り立った崖を形容する語である。
もう一点は、神殿の門を指す語だった。
つまり、塔の語は建物以外にも広く使われる。
高く尖ったものは、たいていこの語で呼ばれる。
建物としての塔、五点
塔が描かれた五点を見たい。
一点目は、いま見た版画である。
二点目は、油彩の小品である。
30.8×25.1センチ。
布に描き、厚紙に貼ってある。
画面の中央に、円い塔が立つ。
石を積んだ壁は厚く、上に狭間が並ぶ。
塔の下は、まっすぐな石の壁になっている。
壁の上に、小さな人影が三つほど見える。
その下は水面で、舟が繋がれている。
帆は畳まれ、細長い形で立っている。
空は暗く、雲が厚い。
雲の切れ目から、光が漏れている。
塔の面は、光を受けて明るい。
館の記録に、記述の欄はない。
書かれているのは、題と技法と寸法だけである。

三点目は、素描である。
紙は19×30.2センチ。
茶色のインクと淡彩で描かれている。
画面の左に、崩れた塔がある。
上部が欠け、壁に穴が空いている。
塔の足もとには、石が散らばる。
右には、砂浜と海がある。
海の上に、帆を張った舟が数艘いる。
浜には、人が数人と、小舟が上げてある。
奥の水平線の上に、低い岬が見える。
館の記録では、制作年に疑問符が付いている。
1600年から1614年か、と書かれている。
十四年の幅があり、その全体に疑問符が付く。
つまり、年はほとんど分かっていない。

四点目は、銅版画である。
館の記録に、寸法の欄はない。
画面は暗く、夜の場面である。
上のほうに、点のような星が散っている。
中央左に、丘がある。
その上に、四角い塔が一つ立つ。
塔の窓に、小さな明かりが灯る。
丘の斜面は暗く、木が繁る。
手前には、大きな松のような木がある。
枝は横へ広がり、葉は塊で描かれる。
その下に、人が二人いる。
小さく、輪郭だけである。
右手前には、荷車らしいものと動物が見える。
題は《孤独な塔》という。
塔は一つだけで、周りに建物がない。
灯りが一つだけ点いている。
その一点の光が、人がいることを示す。

五点目は、写真である。
画面は27.2×38センチ、紙は28×39.1センチ。
インドの寺院を撮ったものである。
画面の中央に、柱の並ぶ堂がある。
その暗がりのなかに、大きな黒い塊がある。
館の記述によれば、それは石で彫られた牛の像である。
奥の壁の向こうに、大きな塔門が見える。
上へ段を重ねて細くなる形である。
手前には、白と黒の縞の台がある。
館の記述によれば、その台は実際には赤と白に塗られている。
写真は白黒なので、赤は暗く写る。
さらに館は、人も動物も写っていない理由を書いている。
動くとぶれるので、意図的に外したという。
建物を正確に記録するためである。
館の記録には、裏の鉛筆書きも写されている。

塔ではない「塔」、四点
語の外れに移りたい。
一点目は、水彩の小品である。
12.4×19.2センチしかない。
画面の左に、四角い石の門が立つ。
上は水平に切られ、傾いた壁面を持つ。
その右に、柱の並ぶ小さな建物がある。
手前は砂で、右奥には岩山が見える。
空は薄い青である。
紙の下には、鉛筆の書き込みと、貼られた札がある。
館の記録の題によれば、これは神殿の門である。
英語では、その門を指す専門語が使われている。
その語が、日本語では塔門と訳される。
塔の字が入るのは、日本語の側の事情である。
門は高いが、細長くはない。