美術史・技法

塔は、一本で立つ——カナレット・トライプ・パーマーほか九点

塔は目印として建てられるから、二本並ぶと役に立たない。九点で数えると、塔が二本以上ある画面は一つもなかった。祭壇画の尖塔飾り、障害競馬、切り立つ崖まで、塔の語は思わぬ場所へ広がる。高さを示すために、七点で下に小さなものが置かれていた。

マルゲーラの塔(景観集より)
アントニオ・カナレット《マルゲーラの塔(景観集より)》クリーヴランド美術館蔵

塔が、水辺に一本だけ立っている

一枚の銅版画に、白い塔がある。

紙は39.3×54.2センチ、版の面は29.9×43.5センチ。

横に長い画面である。

塔は画面の右寄りに立つ。

四角い柱のような形で、上のほうに小さな窓がある。

てっぺんには、細い柵らしいものが見える。

塔の左には、低い建物が並ぶ。

屋根は平たく、壁は白い。

その手前に、水面が広がる。

水は静かで、細い横線で示される。

水の上に、細長い舟が何艘か浮かぶ。

舟には人が乗り、棹を差している。

左のほうには、杭が水中に並ぶ。

奥には、低い陸地と木立が続く。

空は白く、細い雲の線だけが引かれている。

画面の下の余白に、題らしい文字が刷られている。

館の記録の題によれば、これは景観の連作の一枚である。

塔の名は、ヴェネツィアに近い土地の名である。

マルゲーラの塔(景観集より)
アントニオ・カナレット《マルゲーラの塔(景観集より)》1735〜46年。館の記録では、エッチング。紙は39.3×54.2センチ。版の面29.9×43.5センチ。番号は1925.1239.2。クリーヴランド美術館蔵。アントニオ・カナレット《マルゲーラの塔(景観集より)》クリーヴランド美術館蔵

塔は、細長い建物である。

幅より高さが大きく、たいてい上へ細くなる。

用途はさまざまである。

見張る、鐘を鳴らす、時を知らせる、祈る。

いずれも、高さが必要な用途である。

高いほど遠くまで見え、遠くまで聞こえる。

九点を並べて、塔の描かれ方を数えたい。

塔の語は、思わぬところへ広がる

集めかたは、館の記録の題によっている。

塔、尖塔、鐘楼にあたる語が入るものを拾った。

九点のうち、建物としての塔が描かれているのは五点だった。

残る四点は、語の広がりによって混じったものである。

一点は、祭壇画の上に載る尖った飾りである。

一点は、競馬の一種を指す語だった。

一点は、切り立った崖を形容する語である。

もう一点は、神殿の門を指す語だった。

つまり、塔の語は建物以外にも広く使われる。

高く尖ったものは、たいていこの語で呼ばれる。

建物としての塔、五点

塔が描かれた五点を見たい。

一点目は、いま見た版画である。

二点目は、油彩の小品である。

30.8×25.1センチ。

布に描き、厚紙に貼ってある。

画面の中央に、円い塔が立つ。

石を積んだ壁は厚く、上に狭間が並ぶ。

塔の下は、まっすぐな石の壁になっている。

壁の上に、小さな人影が三つほど見える。

その下は水面で、舟が繋がれている。

帆は畳まれ、細長い形で立っている。

空は暗く、雲が厚い。

雲の切れ目から、光が漏れている。

塔の面は、光を受けて明るい。

館の記録に、記述の欄はない。

書かれているのは、題と技法と寸法だけである。

ノルマンディー、サン・セヴランのソリドール塔
ジェームズ・キャロル・ベックウィズ《ノルマンディー、サン・セヴランのソリドール塔》1877年頃。館の記録では、油彩・布、厚紙に貼る。30.8×25.1センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。ジェームズ・キャロル・ベックウィズ《ノルマンディー、サン・セヴランのソリドール塔》スミソニアン協会蔵

三点目は、素描である。

紙は19×30.2センチ。

茶色のインクと淡彩で描かれている。

画面の左に、崩れた塔がある。

上部が欠け、壁に穴が空いている。

塔の足もとには、石が散らばる。

右には、砂浜と海がある。

海の上に、帆を張った舟が数艘いる。

浜には、人が数人と、小舟が上げてある。

奥の水平線の上に、低い岬が見える。

館の記録では、制作年に疑問符が付いている。

1600年から1614年か、と書かれている。

十四年の幅があり、その全体に疑問符が付く。

つまり、年はほとんど分かっていない。

海辺の塔のある風景
フィリッポ・ナポレターノ《海辺の塔のある風景》1600〜14年か。館の記録では、黒鉛の跡の上にペンと茶インク、筆と茶・灰の淡彩。紙は19×30.2センチ。番号は1954.674。クリーヴランド美術館蔵。フィリッポ・ナポレターノ《海辺の塔のある風景》クリーヴランド美術館蔵

四点目は、銅版画である。

館の記録に、寸法の欄はない。

画面は暗く、夜の場面である。

上のほうに、点のような星が散っている。

中央左に、丘がある。

その上に、四角い塔が一つ立つ。

塔の窓に、小さな明かりが灯る。

丘の斜面は暗く、木が繁る。

手前には、大きな松のような木がある。

枝は横へ広がり、葉は塊で描かれる。

その下に、人が二人いる。

小さく、輪郭だけである。

右手前には、荷車らしいものと動物が見える。

題は《孤独な塔》という。

塔は一つだけで、周りに建物がない。

灯りが一つだけ点いている。

その一点の光が、人がいることを示す。

孤独な塔
サミュエル・パーマー《孤独な塔》1879年。館の記録では、エッチング。番号は1921.966。クリーヴランド美術館蔵。サミュエル・パーマー《孤独な塔》クリーヴランド美術館蔵

五点目は、写真である。

画面は27.2×38センチ、紙は28×39.1センチ。

インドの寺院を撮ったものである。

画面の中央に、柱の並ぶ堂がある。

その暗がりのなかに、大きな黒い塊がある。

館の記述によれば、それは石で彫られた牛の像である。

奥の壁の向こうに、大きな塔門が見える。

上へ段を重ねて細くなる形である。

手前には、白と黒の縞の台がある。

館の記述によれば、その台は実際には赤と白に塗られている。

写真は白黒なので、赤は暗く写る。

さらに館は、人も動物も写っていない理由を書いている。

動くとぶれるので、意図的に外したという。

建物を正確に記録するためである。

館の記録には、裏の鉛筆書きも写されている。

インド、タンジョールの大塔と聖牛、正面(ラージャラージェーシュヴァラ寺院)(図版十二)
リンネウス・トライプ《インド、タンジョールの大塔と聖牛、正面》1857年。館の記録では、カロタイプの陰画から作った塩紙印画。画面27.2×38センチ。紙は28×39.1センチ。番号は1987.218。クリーヴランド美術館蔵。リンネウス・トライプ《インド、タンジョールの大塔と聖牛、正面(ラージャラージェーシュヴァラ寺院)(図版十二)》クリーヴランド美術館蔵

塔ではない「塔」、四点

語の外れに移りたい。

一点目は、水彩の小品である。

12.4×19.2センチしかない。

画面の左に、四角い石の門が立つ。

上は水平に切られ、傾いた壁面を持つ。

その右に、柱の並ぶ小さな建物がある。

手前は砂で、右奥には岩山が見える。

空は薄い青である。

紙の下には、鉛筆の書き込みと、貼られた札がある。

館の記録の題によれば、これは神殿の門である。

英語では、その門を指す専門語が使われている。

その語が、日本語では塔門と訳される。

塔の字が入るのは、日本語の側の事情である。

門は高いが、細長くはない。