見上げる絵の設計——ティエポロの天井画
下絵は、どこまで拘束するのか
下絵と完成作が一致しない例も多い。
現地で足場を組み、実際の光の中で見れば、修正が必要になる。
窓の位置、天井の高さ、部屋の使い方。図面では分からない条件がある。
だから下絵は決定ではなく、出発点として扱われた。
構図の骨格は守り、人物の数や配置は現場で調整する。
当サイトの公開分でも、下絵と同じ主題の完成作が別の館にある例がある。
両方を並べれば違いが読めるが、公開の範囲が違うため難しい。
比較できる材料が揃っているかどうかで、書ける内容が変わってしまう。
縁を重く、中央を軽く

こちらは縦長の下絵である。縦181.8センチ、横104.3センチ。
構成は先の一枚と同じ考え方である。
四辺に人物と建築の枠が集まり、中央に明るい空が開く。
下辺には人が群れ、旗と武具が並ぶ。
左右の辺には、雲に乗った人物が斜めに配置されている。
上辺の中央あたりに、光を放つ一群がある。
つまり視線は縁から中へ、下から上へ動く。
天井の絵では、この動きが空間の高さとして感じられる。
床から見上げると、縁の人物が近く、中央の空が遠く見える。
この下絵は、スペインの王宮の天井のために作られた。
つまり画家はヴェネツィアからマドリードへ渡り、現地で制作している。
同じ形式の仕事を、国を越えて請け負っていたことになる。
装飾画家は、建築とともに移動する職業だった。
作品の所在地が散らばるのは、この移動の結果でもある。
天井は、長方形ではない
形の話に移りたい。

この下絵の描画面は楕円である。
黄土色の地の上に、楕円形の絵が描かれている。
内容は、雲に乗る人々と、上方の金色の光である。
下部には楯や柱の断片、うずくまる人物が置かれている。
楕円なのは、天井の開口部が楕円だからである。
宮殿の広間では、天井の中央に楕円や円の枠が設けられることが多い。
そこに絵を嵌めるので、下絵も同じ形で作る。
黄土色の地が残っていることにも注意したい。
楕円の外側は、下地のまま塗られていない。
つまり画家は、必要な範囲だけを描いている。
四角い画布に楕円を描き、外は放置する。
作業の合理性が、そのまま画面に残っている。

こちらは下絵ではない。実際の天井画である。
横466.7センチ。4メートル半を超える。
形は不整形の楕円で、四方の縁が波打っている。
金色の縁飾りが付き、天井の枠にそのまま嵌まる形になっている。
内容は、雲の上に集まる人々である。
中央に喇叭を吹く有翼の人物。左手前に女性が跪き、右に老人が座る。
雲は下辺で厚く、上へ薄くなる。
床から見上げれば、人物が斜め上に浮いて見える構成である。
この一点は、天井から外されて美術館に入った。
つまり本来の高さと角度を失っている。
私たちは、見上げるための絵を、正面から見ていることになる。
縁飾りの扱いも見ておきたい。
金色の枠は、絵の一部として作られている。
つまり額は選ばれたものではなく、最初から設計に入っている。
板絵の枠が板と一体だった例と、考え方が近い。
装飾画では、絵と建具の境目が曖昧である。
額と絵の関係については別のコラムで扱った。
壁から剥がされた絵
移設の話を続けたい。

縦370センチ。3メートル半を超える細長い画面である。
描かれているのは、台座の上に立つ女性像である。
しかし色が乏しい。灰と白と淡い褐色だけで描かれている。
彫刻を模した描き方である。石像に見せるための単色の技法だ。
左右には柱と壁の面が描かれ、人物は壁の窪みに収まっている。
つまりこれは、実在しない彫刻を壁に描いたものである。
宮殿の広間では、こうした模造の彫刻が並んでいた。
技法の欄を見てほしい。「フレスコを画布に移したもの」とある。
漆喰の上に描かれた絵を、壁から剥がして画布に貼り替えている。
建物が壊されるときや、売却されるときに行われる作業である。

同じ年の、同じ手法の一点である。
楕円の画面に、女性像が座っている。
布を巻いた体をひねり、手に器のような物を持つ。
こちらも彫刻を模した単色の描き方である。
公開画像は白黒写真で、色の情報は分からない。
古い記録写真だけが公開されている例である。
画像の質と鑑賞の関係は別のコラムで扱った。