作品を知る

二人は、意外に向かい合わない——フリードリヒ・アルトドルファー・師宣ほか九点

ヨーロッパ人の男女
アリー・リザー、通称「ボドリアンの画家」《ヨーロッパ人の男女》1610年から27年ごろ。館の記録では、紙に樹脂を混ぜた顔料と金。番号は2013.285。クリーヴランド美術館蔵。アリー・リザー、通称「ボドリアンの画家」《ヨーロッパ人の男女》クリーヴランド美術館蔵

館の記録の作者の欄には、通称が入っている。

「ボドリアンの画家」という呼び名である。

ある図書館に伝わる作品群から付けられた名だろう。

第十二回で見た写真も、同じ形の名を持っていた。

座る話で扱った一点は、会社の名で呼ばれていた。

作者が特定できないとき、記録は代わりの呼び名を作る。

そして、その呼び名が長く使われる。

縁取りのある一葉である。

外側に、青緑の帯がある。

内側に、細い金の線が巡る。

その中に、二人が立っている。

左の人物は、つばの広い帽子をかぶる。

短い上着を着て、脚には長い靴下のようなものをはく。

手に、細い杖を持つ。

右の人物は、長い衣を着る。

頭に、飾りのある被り物をつける。

首のまわりに、大きな襞のある襟がある。

二人とも、こちらを向く。

背景は、薄い空色である。

下のほうに、小さな草が生える。

館の記録によれば、これは異国の人の姿を記録しようとした絵だという。

そして館は、衣服が細かく正確に描かれていると書く。

襟の襞、袖口、飾りの一つ一つに触れている。

これは館の見解である。

こちらで確かめられるのは、襟が大きく張り出している、ということだ。

この一点には、寸法が記録されていない。

九点のうち、寸法欄が空なのはこれだけである。

写真の二人

ベイルートのシリア人ムスリム女性、街着(二人の女性)
フェリックス・ボンフィス《ベイルートのシリア人ムスリム女性、街着(二人の女性)》1880年代ごろ。題は館の記録の表記による。館の記録では、フォトクロム。画面22.4×16.3センチ。台紙を含めて26.6×18.1センチ。番号は2021.208.b。クリーヴランド美術館蔵。フェリックス・ボンフィス《ベイルートのシリア人ムスリム女性、街着(二人の女性)》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、番号に枝番を付けている。

末尾に小文字が一つ入る。

同じ一括で入った複数の写真を区別するためである。

第十四回で、収蔵番号の作りを扱った。

枝番があるとき、同じ番号の別の一点が館にある。

色のついた写真である。

二人の人物が、並んで立つ。

左の人物は、黒っぽい衣をまとう。

その衣が、頭から足元まで覆う。

腰に、赤みのある帯を巻く。

右の人物は、桃色と白の縞の衣をまとう。

こちらも、頭から覆う形である。

どちらも、顔の下半分が布で隠れる。

背景は、木立と草地である。

画面の下に、文字が二行ある。

館の記録は、この技法を詳しく説明している。

まず、白黒の陰画を石版に移す。

そして、色ごとに石版を作る。

最低で六枚、多いときは十五枚。

それを、白黒の像の上に重ねて刷る。

つまり、色は撮影されたものではない。

あとから付けられている。

そして館は、色を付けた職人がその土地を見たことがなかったと書く。

これは館の記述である。

つまり、この画面の色は、想像で決められている。

第十九回で、白黒の記録写真から色は読めないと書いた。

ここでは、色が足されている。

だが、その色は現地の色ではない。

記録として見るとき、この区別は大きい。

形は写されたもの、色は作られたもの。

一枚の中で、二つの性格が混じっている。

背景が、二人の関係を決める

九点の背景も数えた。

屋外が六点、屋内が一点、背景のないものが二点。

屋外の六点のうち、木が描かれるのが四点である。

森の中、大きな木の下、木立の前。

二人の場面は、木の下に置かれることが多い。

理由は、いくつも考えられる。

木は、画面を囲う枠になる。

左右に幹を立てれば、そのあいだが舞台になる。

上に枝を渡せば、天井ができる。

第十九回で、一本の木が画面を支える話を書いた。

木の話では、木が距離の物差しだった。

ここでは、木が場面の囲いとして働いている。

そしてもう一つ、木の下は人目につきにくい。

森や木陰は、二人だけになれる場所である。

九点のうち、恋人と記録された三点は、すべて屋外だった。

そのうち二点は、木の下である。

これは偶然かもしれない。

だが、二人の場面が屋外に多いのは確かである。

背景のない二点は、掛軸と浮彫だった。

どちらも、紙や石膏の地がそのまま残る。

背景を作らなければ、二人だけが残る。

場所を決めないという選択である。

二人と、もう一人

従者を伴い建物に入る男女(クロップシー・アルバムより)
カール・フリードリヒ・ハインリヒ・ヴェルナー《従者を伴い建物に入る男女(クロップシー・アルバムより)》1850年。館の記録では、白い織目紙に水彩の淡彩とペン、黒インク。10.2×8.4センチ。番号は1970.9.14。メトロポリタン美術館蔵。カール・フリードリヒ・ハインリヒ・ヴェルナー《従者を伴い建物に入る男女(クロップシー・アルバムより)》メトロポリタン美術館蔵

九点でいちばん小さい一点である。

縦10.2センチ、横8.4センチ。

左に、建物の入口がある。

柱と、その上の屋根が細かく描かれる。

彫刻の飾りが、柱の上にある。

階段の脇に、獅子の像が伏せている。

そこに、二人の人物が立つ。

一人は帽子に羽根を挿し、片手を腰に当てる。

もう一人は、広がる衣を着る。

二人は、体を向け合っている。

その右に、もう一人いる。

杖のようなものを持ち、少し離れて立つ。

館の記録は、この人物を従者としている。

背景は、明るい水面である。

小さな帆が、遠くに見える。

右下に、書き込みがある。

二人のほかに、もう一人がいる。

この三人目の位置が、面白い。

離れて立ち、二人のほうを見ていない。

つまり、二人の場面に加わっていない。

同じ画面にいながら、別の関係にある。