画家を知る

模様に沈む人物——エドゥアール・ヴュイヤール

卓と人が、同じ色になる

珈琲を飲む二人の女
エドゥアール・ヴュイヤール《珈琲を飲む二人の女》1893年ごろ。厚紙に油彩。縦21.5センチ、横28.8センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《珈琲を飲む二人の女》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

さらに小さい。縦21.5センチ、横28.8センチ。

卓を囲んで、二人が座っている。

卓の面は暗い緑で、白い皿と珈琲茶碗が置かれている。

右の椅子には花模様の布が掛かる。赤と黄の模様である。

左の人物は淡い褐色で、輪郭がほとんど無い。

右の人物は上半身が背景に溶けている。

つまり人物が色の面として処理されている。

見分けられるのは、白い皿と茶碗、そして頭の位置だけである。

白い皿の役目は大きい。

画面の中でもっとも明るい面であり、視線の起点になる。

そこから卓、人物、椅子の布へと目が動く。

暗い画面では、明るい小さな面が地図の目印として働く。

模様の中に人が沈む絵では、この目印が不可欠である。

誰を描いていたのか

描かれた人についても書いておきたい。

この画家は、家族と友人を繰り返し描いた。

母、姉、義兄、そして画家仲間とその家族である。

家の中で仕事をするなら、モデルは身近な人になる。

同じ条件は、他の画家にも見られる。

家族を描き続けた例は別のコラムでも扱った。

そして家族を描くと、絵は肖像であると同時に生活の記録になる。

食卓、縫い物、暖炉のそば。時刻と季節が細部に残る。

母を描いた一点

朝食
エドゥアール・ヴュイヤール《朝食》1894年。厚紙に油彩。縦26.9センチ、横22.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《朝食》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の小品である。

女性が卓の前に座り、横を向いている。

服は淡い桃色で、体の輪郭が丸い。

髪は白く、頭に黒い飾りがある。

卓の上には白い皿と食器が並ぶ。

椅子は黄色。曲げ木の背もたれが弧を描く。

左には白い扉の枠。右奥に暗い家具が見える。

床は赤褐色である。

つまりここでは人物が明確である。

模様は椅子と床に限られ、背景は落ち着いている。

小品でも、密度の設計が作品ごとに違う。

暖炉のそばの人

炉端に座る女
エドゥアール・ヴュイヤール《炉端に座る女》1894年ごろ。厚紙に油彩。縦21.5センチ、横26.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《炉端に座る女》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の小品である。

左に黒い暖炉の縦の面がある。画面を垂直に切っている。

中央に女性が座っている。格子模様の服で、横を向いている。

背後の壁は淡い黄土色で、細かい模様が散る。

右には赤褐色の椅子か布。

下方は緑がかった褐色の面である。

つまり画面は、垂直と水平の色面に分割されている。

人物はその中の一つの形として置かれている。

誰の部屋を描いていたのか

描かれた場所についても書いておきたい。

この画家は長く母と同居し、その住居で制作した。

母は仕立ての仕事をしていたと伝えられる。

つまり家の中には布があり、型紙があり、縫い物の道具があった。

公開分の中に、縫い物をする女性を描いた作品が複数ある。

大きな装飾画も、その主題である。

家業の風景が、そのまま絵の主題になっていることになる。

同じ条件は、家族を描き続けた他の画家にも見られる。

家の中が仕事場である画家は、家族と生活を主題にせざるを得ない。

そしてその制約が、独自の主題を生む。

外の街路や酒場を描いた同時代の画家とは、対象が違う。

どちらが自由かではなく、置かれた場所が違うということである。

布と模様の多い画面は、仕立ての家の風景でもあった。

そう考えると、模様の密度に別の意味が出てくる。

装飾の趣味ではなく、家の仕事の道具が画面を埋めている。

帽子だけが、はっきりしている

ボナール夫人
エドゥアール・ヴュイヤール《ボナール夫人》1895〜1900年。厚紙に油彩。縦41.7センチ、横31.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《ボナール夫人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

女性の肖像である。

顔は褐色で、目と口がはっきり描かれている。

そして頭に大きな帽子がある。

つばは広く、青緑と黒の模様が渦を巻いている。

つまり帽子が画面の上半分を占め、模様として際立つ。

服は暗い青。背景は淡い桃色と灰色で、筆の跡が粗い。

左上に献辞らしい文字が書かれている。

顔よりも帽子が主題に見える構成である。

装いの模様が、人物の説明になっている。

仲間との活動

所属についても書いておきたい。

1890年代のパリで、この画家は若い画家たちの集まりに加わっていた。

彼らは装飾画と版画の仕事を積極的に手がけた。

劇場の舞台装置やプログラムの図案も引き受けている。

つまり絵画だけでなく、印刷物と舞台を含む活動だった。

その環境が、平面的な構成を後押ししたと考えられる。

舞台の書き割りは平面である。ポスターも平面である。

用途が平面を要求する仕事が、日常の仕事だった。

道具を描いた一点

画家の絵具箱と苔薔薇
エドゥアール・ヴュイヤール《画家の絵具箱と苔薔薇》1898年。厚紙に油彩。縦36.1センチ、横42.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《画家の絵具箱と苔薔薇》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

卓の上の静物である。

左に褐色の壺があり、桃色の薔薇が数輪生けられている。

右には木の箱と、開いた本のような形。

箱は絵具箱である。蓋が開き、中に紙や道具が見える。

背景は淡い青灰色の板壁。縦の線が入っている。

卓の面は暗い褐色である。

つまり画室の一隅を描いた絵である。

人物はいない。しかし道具が人の存在を示している。