画家を知る

模様に沈む人物——エドゥアール・ヴュイヤール

大きな装飾画

縫い物をする女たち
エドゥアール・ヴュイヤール《縫い物をする女たち》1912年ごろ。画布に貼った紙に膠絵。縦179.9センチ、横95.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《縫い物をする女たち》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦180センチの大画面である。

技法の欄に注目してほしい。膠を媒材にした絵具である。

油ではなく、膠で顔料を溶いて描く方法である。

乾くと艶が消え、粉のような肌になる。

大きな装飾画では、この技法がしばしば使われた。

画面には室内が描かれている。

左に赤い柱と白いレースのカーテン。

中央から右に、縫い物をする女性が二人。

床には布や道具が散り、赤い衣が置かれている。

奥には縞模様の壁と、青い布の掛かった椅子。

床は明るい黄土色で、光が差している。

つまりこれも室内の場面だが、寸法が大きい。

壁に嵌め込む装飾として作られたと考えられる。

装飾のための絵という点では、扉上の絵や柱絵と同じ系統である。

初期の自画像は、ふつうである

二十一歳の自画像
エドゥアール・ヴュイヤール《二十一歳の自画像》1889年。油彩・画布。縦22.2センチ、横17.4センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《二十一歳の自画像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

最後に、初期の一点を見たい。

小さな自画像である。縦22.2センチ、横17.4センチ。

若い男が描かれている。

髪は茶色で、額の上に垂れる。髭がある。

顔は正面をやや外し、目は正面を見る。

服は暗い灰褐色。白い襟が細く見える。

背景は暗褐色で、平らである。

つまり模様がない。

明暗で立体を作り、輪郭を明確にしている。

制作は1889年。二十一歳の作品である。

数年後の室内画とは、まったく描き方が違う。

小品と大画面のあいだ

寸法の幅にも触れておきたい。

公開分の最小は縦21.5センチ、最大は縦180センチである。

八倍以上の差がある。

小品は厚紙に油彩で、日常の一場面を素早く描いたもの。

大画面は膠絵で、壁に嵌める装飾として作られたもの。

用途が違えば、材料も寸法も変わる。

しかし構成の考え方は共通している。

模様の面を並べ、その中に人を配置する。

小さな紙で試したことを、大きな壁で展開している。

つまり小品は習作でありながら、方法の実験室でもあった。

膠絵という技法

大画面の技法にも触れておきたい。

膠で顔料を溶く方法は、乾くと艶が消える。

粉のような肌になり、光を反射しない。

壁に嵌める装飾では、この性質が有利である。

油彩の艶は、横から光が当たると反射して見えにくくなる。

艶のない面なら、どの角度からも均一に見える。

つまり技法の選択は、置かれる場所の光から決まっている。

材料の判断が、展示の条件と結びついている例である。

見立て——模様は、部屋そのものである

まとめておきたい。

1889年の自画像では、人物が主役で背景は無地だった。

1893年以降の室内画では、模様が画面を埋め、人物が沈む。

この変化には理由が考えられる。

一つは、装飾画の仕事に関わったことである。

壁に嵌める絵では、画面全体が模様として働く必要がある。

二つは、日本の版画や工芸の平面性の影響である。

輪郭線と平らな色面、そして模様の反復。

三つは、主題そのものが室内だったことである。

19世紀末のパリの室内は、壁紙、布、絨毯で埋められていた。

つまり模様を描くことは、その部屋を正確に描くことでもあった。

人が沈むことの意味

人物が模様に溶けることには、効果がある。

個人の肖像ではなく、その場の空気が主題になる。

誰が座っているかより、部屋がどんな部屋かが伝わる。

同時に、見る側は目を凝らすことになる。

どこに人がいるのかを探しながら見る。

その探す時間が、絵を見る時間を長くしている。

大きな装飾画の行き先

装飾画の注文についても触れておきたい。

個人の邸宅の壁のために、複数枚を組で注文する例があった。

食堂や書斎の壁を、絵で覆う仕事である。

つまり作品は建物の一部として作られた。

後に建物が売られたり壊されたりすると、絵は外されて市場に出る。

いま美術館にある大画面は、そうして分離された断片である。

本来は隣に別の画面があり、組で見るものだった。

組物が散る事情は、屏風や祭壇画でも繰り返し起きている。

公開分の構成

最後に数を確かめておきたい。

18点のうち、室内の場面が大半を占める。

風景は数点、静物は数点である。

寸法は21センチから180センチまで幅がある。

つまり小品と装飾画の両方が含まれている。

用途の違う作品を並べて比べられるのは、公開画像の利点である。

暮らしへ——模様の中で、人を撮る

最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。

模様のある壁やカーテンの前で、人を撮ってみてほしい。

服の色が模様と近いと、人が沈む。

離れていると、人が浮く。

沈ませたいか、浮かせたいかを決めてから撮ると、写真が変わる。

百三十年前の画家が試していたのは、この選択である。

そして部屋そのものを主題にしてみるのも面白い。

人を小さく入れ、模様を大きく写す。

部屋の記録として、後で見返す価値が出てくる。

飾るときは、模様の多い絵は無地の壁に掛けるとよい。

壁紙の上に掛けると、絵の模様と壁の模様が干渉する。

絵の中に模様がある場合、周囲は静かにしておく。

そして、部屋の写真を撮るときは人を小さく入れてみてほしい。

人が小さいほど、部屋の模様が主題になる。

同じ部屋でも、人の大きさで絵の主題が変わる。

群として見ると、用途が見える

最後に、見方をまとめておきたい。

18点を寸法で並べると、小品と装飾画に分かれる。

技法も、油彩と膠絵に分かれる。

つまり用途によって材料と寸法が決まっている。

記録の欄を読むだけで、作品の役目が推測できる。

公開画像は、そのための道具である。

寸法と技法の欄を読み、用途を推測することができる。

展示の札には、そこまで書かれないことも多い。

記録の細部を読む作業が、作品の役目を教えてくれる。

そして、推測した用途は書き留めておきたい。

寸法と技法から考えたことは、忘れやすい。

一行の記録が、次の作品を読むときの型になる。

記録は、あとから読む自分のために残すものである。

細かく書く必要はない。寸法と、気づいた一点だけでよい。

部屋を見る習慣は、絵の見方も変える。

模様の配置が、選ばれた結果だと分かってくる。

見る側の経験が増えるほど、絵から読めるものも増える。

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