作品を知る

体は、どこで切られるか——ヴェロッキオ・コルディエ・ドラクロワほか九点の胸像

胸像は、体を胸の高さで切り落とす。現実にはありえない形である。それが二千年続いてきた。九点で、切る位置を測りたい。彫刻は胸で切り、紙の上ではもっと下で切れる。理由は、支え方の違いにある。記録の欄も、彫刻と平面で書き方が変わる。奥行きの欄があるかどうかで分かれる。

キリストの胸像
アンドレア・デル・ヴェロッキオ《キリストの胸像》クリーヴランド美術館蔵

胸のところで、水平に切れている

彩色されたテラコッタの像がある。

上半身だけの姿である。

頭に金色の輪がつく。

長い髪が肩へ落ちる。

髭をたくわえ、目を伏せている。

衣は赤と青で塗り分けられ、上から緑の布が掛かる。

右手は胸の前に上がり、指が二本立つ。

そして、胸のいちばん下で、体が水平に切れている。

腹も、腰も、脚もない。

切り口は台のように平らである。

キリストの胸像
アンドレア・デル・ヴェロッキオ《キリストの胸像》1470年から1500年ごろ。館の記録では、彩色したテラコッタと木。全体57.2×53.3×29.2センチ。番号は1921.956。クリーヴランド美術館蔵。アンドレア・デル・ヴェロッキオ《キリストの胸像》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、材料を二つ書いている。

彩色したテラコッタと、木である。

テラコッタは、焼いた粘土のことだ。

木がどこに使われているかは、記録に書かれていない。

台や芯に使われた可能性がある。

そして、表面には色が塗られている。

金、赤、青、緑。

焼き上げた土の上に、絵具が乗っている。

彫刻でありながら、絵でもある。

これを見て、不思議に思わない人は多いと思う。

胸像という形式に、見慣れているからである。

だが、よく考えると変な形をしている。

人の体を、胸の高さで切り落とす。

そして、その切り口を平らにして置く。

現実にはありえない姿である。

それなのに、二千年以上、この形が作られ続けてきた。

体は、どこで切ってもよいわけではない。

首で切るか、胸で切るか、腰で切るか。

その位置は、時代と用途で決まっている。

九点を並べて、切る位置を測りたい。

彫刻が四点、素描が二点、版画が一点、油彩が二点である。

切る位置は、二千年変わっていない

まず、いちばん古い一点を置く。

女性の肖像胸像
古代ローマ《女性の肖像胸像》2世紀半ば。館の記録では、大理石。64.8×47.6×27.3センチ。番号は2002.11。シカゴ美術館蔵。女性の肖像胸像》シカゴ美術館蔵

白い大理石である。

女性の頭と、首と、肩と、胸の上部だけがある。

髪は細かく巻かれ、頭の上でまとめられている。

顔はやや右を向く。

肩に布が掛かり、左の肩から胸へ斜めに落ちる。

そして胸の下で、体は円い断面になって終わる。

その下に、短い脚のような支えがついている。

台の上に置くための部分である。

ヴェロッキオの一点と比べたい。

切る高さは、ほとんど同じである。

胸の下、みぞおちのあたりで切れている。

作られた時期は、千三百年以上離れている。

材料も違う。

こちらは大理石、あちらは焼いた土である。

それでも、切る位置は動いていない。

理由は、たぶん単純である。

胸まであれば、肩の幅が分かる。

肩の幅が分かれば、体格が伝わる。

そして、首から下を長く取ると、置いたときに倒れやすい。

支える面積と、伝わる情報の釣り合いが、この高さにある。

館の記録は、寸法を三つ書いている。

高さ64.8センチ、幅47.6センチ、奥行き27.3センチである。

彫刻の記録には、奥行きの欄がある。

平面の作品には、この欄がない。

台座が、切り口を引き受ける

胸像には、たいてい台がついている。

肖像胸像
アルベール・エルネスト・カリエ=ベルーズ《肖像胸像》1865年ごろ。館の記録では、テラコッタ。台を含めて77.4×38.1×28.6センチ。番号は1993.38。クリーヴランド美術館蔵。アルベール・エルネスト・カリエ=ベルーズ《肖像胸像》クリーヴランド美術館蔵

女性の胸像である。

髪は高く結い上げられ、細かく波打つ。

顔は左へ、やや下向きに傾く。

肩から胸にかけて、布が寄せられている。

胸の前に、花の束が彫り込まれている。

そして下端は、黒い方形の台に載る。

館の記録は、寸法を「台を含めて」と断っている。

つまり、像そのものの高さは、この数字より低い。

台は作品の一部として数えられている。

台がなぜ要るのか。

切り口を、床につけないためである。

胸で切った体をそのまま置くと、切断面が見える。

台に載せると、切断面は台の中に隠れる。

見る側は、切られたことを意識しなくなる。

台は、この形式を成り立たせるための装置である。

館の記録によれば、この作者は宮廷から注文を受けた人である。

そして、特定の女性の顔を、いくつもの胸像に使ったという。

これは館の見解である。

こちらで確かめられるのは、顔がそこにある、ということだけだ。

背中には、作者の名が粘土に刻まれている。

ダルフールのサイード・アブドゥッラーの胸像
シャルル・アンリ・ジョゼフ・コルディエ《ダルフールのサイード・アブドゥッラーの胸像》1848年。館の記録では、ブロンズ。鋳造は同時代の工房による。82.5×45.7×35.6センチ。番号は1963.839。シカゴ美術館蔵。シャルル・アンリ・ジョゼフ・コルディエ《ダルフールのサイード・アブドゥッラーの胸像》シカゴ美術館蔵

九点でいちばん高い胸像である。

高さ82.5センチある。

黒い金属の表面が、光をよく返す。

男が頭に布を巻き、その端が背中へ垂れる。

肩に厚い布を掛け、胸の前で留め具が留める。

髭は短く刈られている。

顔はやや上を向く。

館の記録は、この人物の名を題に入れている。

九点のうち、名前が題に入っているのは三点だけである。

胸像の多くは「女性の胸像」「肖像胸像」と呼ばれる。

名を持たないまま、館に置かれている。

この一点は、そうではない。

誰を写したかが、記録に残っている。

女性の胸像
シャルル・アンリ・ジョゼフ・コルディエ《女性の胸像》1851年。館の記録では、ブロンズ。鋳造は同時代の工房による。71.5×40.6×29.2センチ。番号は1963.840。シカゴ美術館蔵。シャルル・アンリ・ジョゼフ・コルディエ《女性の胸像》シカゴ美術館蔵

同じ作者の、三年後の作である。

こちらも黒い金属で作られている。

女性が、肩から胸へ布をまとう。

耳に輪の飾りをつけている。

髪は細かく編まれ、頭に沿う。

顔はまっすぐ前を向く。

下端は円い台になり、その下にもう一段ある。

番号を見てほしい。

先の一点が1963.839、こちらが1963.840である。

連番になっている。

そして、受け入れの基金も同じ名である。

同じ年に、同じ経路で、二点そろって館に入った。

第十八回で、出所の行の読み方を並べた。

出所の行の話で見たとおり、

番号が連なるとき、二点は一括で動いていることが多い。

ただし、こちらの題には名前がない。

同じ作者が、同じ材料で作った二点である。

それでも、一方は名を持ち、他方は持たない。

記録に残るかどうかは、作品の側では決められない。