作品を知る

体は、どこで切られるか——ヴェロッキオ・コルディエ・ドラクロワほか九点の胸像

平面では、画面の縁が切る

ここから、彫刻でない五点に移る。

彫刻は、体を実際に切る。

平面では、切るのは画面の縁である。

髭の男の胸像(ドージェ・ジョヴァンニ・コルナーロ)
クリストッフェル・イェーヘル《髭の男の胸像(ドージェ・ジョヴァンニ・コルナーロ)》1632年から36年。館の記録では、明暗を分けた多色刷りの木版画。紙全体28.3×21.3センチ。番号は1996.249。クリーヴランド美術館蔵。クリストッフェル・イェーヘル《髭の男の胸像(ドージェ・ジョヴァンニ・コルナーロ)》クリーヴランド美術館蔵

褐色の地の上に、白と黒で男が刷られている。

髭が胸まで届く。

毛皮で縁取られた衣を着ている。

顔はやや左を向き、目はこちらへ来る。

そして、画面の下の縁で、体が切れる。

切り口は見えない。

縁に隠れているからである。

刷りの色は三段階に見える。

いちばん暗い線、中間の褐色、そして白。

白い部分は、紙の色ではない。

明るい色の版で刷られているように見える。

髭の一本一本は、白い線として抜かれている。

暗い版を彫り落とした跡である。

館の記録によれば、この版画は四つの版木から刷られている。

そして、そのうち一つだけでは輪郭が出ないという。

四枚を重ねて、はじめて像になる。

明暗を分けて刷る技法である。

地の色を刷り、その上に暗い色を重ね、明るい部分を白く残す。

第十九回で、版画の白は紙を残した部分だと書いた。

白を残す話と、原理は同じである。

ただしここでは、紙そのものではなく、地色の版が背景になる。

後ろから見た女の半身像
アドルフ・フォン・メンツェル《後ろから見た女の半身像》1893年。館の記録では、大工用の鉛筆による黒鉛描き、ぼかしを併用。紙全体41.4×28.9センチ。台紙は53.3×39.2センチ。番号は1994.103。クリーヴランド美術館蔵。アドルフ・フォン・メンツェル《後ろから見た女の半身像》クリーヴランド美術館蔵

題に「後ろから見た」と入っている。

胸像でありながら、顔が見えない。

前の回で、こちらを見る顔を数えた。

視線の話で扱ったのは、目が合うかどうかだった。

この一点には、合わせる目そのものがない。

それでも、館は肖像の一種として記録している。

背中と帽子だけで、人が分かるという判断である。

これは、後ろから見た胸像である。

女が椅子に掛け、こちらへ背を向ける。

つばの広い帽子をかぶる。

帽子の縁が、光を受けて明るい。

首の後ろに、束ねた髪が見える。

耳に、小さな飾りが下がる。

そして顔は、右の頬がわずかに見えるだけである。

肩から下は、暗い上着で覆われる。

椅子の背も描かれている。

館の記録は、技法をかなり細かく書いている。

大工が使う平たい芯の鉛筆を用いたという。

そして、丸めた紙や革でこすってぼかしたとある。

太い芯を寝かせれば、広い面が一度に塗れる。

先を立てれば、細い線が引ける。

一本の道具で、二通りの描き方をしている。

館の記録によれば、作者は晩年にこうした頭部の習作を多く残した。

そして、それ自体を独立した作品と考えていたという。

これは館の見解である。

こちらで言えるのは、署名と年が画面の中に入っている、ということだ。

左のあたりに、小さく書き込まれている。

帽子をかぶった若い女の半身像とワイングラス(素描帳より)
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《帽子をかぶった若い女の半身像とワイングラス(素描帳より)》1854年から55年。館の記録では、生成りの網目紙に黒インクと黒鉛。11.6×14.1センチ。番号は1970.121.7。メトロポリタン美術館蔵。ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《帽子をかぶった若い女の半身像とワイングラス(素描帳より)》メトロポリタン美術館蔵

小さな一葉である。

横14.1センチ、縦11.6センチしかない。

そして、この一枚に三つの絵が入っている。

上には、立って何かを持つ人物と、机のようなもの。

下の左には、帽子をかぶった女の顔が大きく描かれる。

下の右には、小さな全身の男が一人立つ。

同じ紙の上で、切り方が三通りある。

顔だけ。

半身。

全身。

そして、それぞれ大きさが違う。

素描帳の一葉とは、こういうものである。

思いついた順に、余白へ描き足していく。

第十七回で、写生帖の一葉が一点として数えられる話を書いた。

ここでも同じことが起きている。

三つの絵が、一つの番号で数えられている。

男性の裸体習作、半身、側面
ウジェーヌ・ドラクロワ《男性の裸体習作、半身、側面》1818年から20年ごろ。館の記録では、紙に油彩、のちに板に貼る。40×34センチ。番号は2024.592.1。メトロポリタン美術館蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《男性の裸体習作、半身、側面》メトロポリタン美術館蔵

最後の一点は、題に切り方が書いてある。

半身、側面と記されている。

描かれているのは、裸の男の背中である。

腰のあたりで、画面が終わる。

背骨の窪みと、肩甲骨の張りが塗り分けられている。

顔は右を向き、うつむき加減である。

髪は短く、耳の形が見える。

背景は暗い茶色で、布のようなものが掛かる。

これは、画塾で描かれた習作だと考えられる。

裸の人を前に置き、体の作りを写す練習である。

館の記録は、支持体の履歴も書いている。

もとは紙に描かれ、のちに板へ貼られたという。

かつては布に貼られていた、とも書かれている。

つまり、この一点は二度、下地を替えられている。

紙に油彩で描くと、紙は傷みやすい。

補強のために、別の板や布へ貼る。

その作業を、二度受けたことになる。