作品を知る

白は、刷らずに残す——広重・北斎・欧米の版画ほか九点

轍が、雪の深さを示す

この一点で、雪の深さは轍で分かる。

車輪が通った跡が、二本の溝になっている。

そして、その溝が浅い。

つまり、雪はそれほど深くない。

もし深ければ、溝も深くなる。

第四回で、道が奥へ伸びる形について書いた。

雪の上の轍は、道を示す線でもある。

そして、人が歩いた跡も残る。

雪は、通った跡を記録する。

その跡が、そこに誰かがいたことを語る。

雪の吹きだまりでのバッファロー狩り——オジブウェイ
ジョージ・カトリン《雪の吹きだまりでのバッファロー狩り——オジブウェイ》1861年から69年。館の記録では、厚紙に貼った板紙に油彩。47.5×63.3センチ。番号は1965.16.129。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ジョージ・カトリン《雪の吹きだまりでのバッファロー狩り——オジブウェイ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

第一回と第二回でも、この画家の別の一点を読んだ。

同じく、楕円の枠が描かれている。

その外は、褐色に塗られている。

楕円の中は、雪の原である。

白い面が、画面の下半分を覆う。

そこに、大きな黒い獣が数頭。

雪に半ば埋もれている。

その手前に、人が二人。

雪の上に立ち、身をかがめる。

さらに奥にも、黒い点が横に並ぶ。

獣の群れである。

上のほうは、淡い水色の空。

そして、地平線が高い。

画面の上から三分の一のあたりである。

雪の原には、目印がない

雪が積もると、地面の起伏が分からなくなる。

木も草も、雪の下に隠れる。

だから、距離が測りにくい。

この一点でも、雪の面が広がるだけである。

目盛りになるのは、獣と人だけである。

第一回で、人が大きさの目盛りになると書いた。

雪の絵では、それがいっそう重要になる。

ほかに比べるものがないからである。

そして、遠くの群れが小さな点になっている。

その大きさの差が、唯一の奥行の手がかりである。

影の色

雪の絵で、いちばん難しいのは影である。

白い面にできる影は、灰色ではない。

空の色を映して、青みを帯びる。

晴れた日の雪の影は、はっきりと青い。

これは、雪が空からの光を受けるからである。

日の当たる部分には、太陽の黄色い光が当たる。

影の部分には、空の青い光しか届かない。

だから、白と青の対比になる。

九点のうち、この対比が見えるのは油彩の三点である。

コークックの屋根、ダリーの雪面、そして吹雪の地面。

いずれも、白のなかに青灰色が混ざる。

版画では、この表現が難しい。

色を重ねるには、版木を増やすことになる。

そして、微妙な色の差は、木版では出しにくい。

だから、版画の雪は一様な白になる。

雪を描くとき、技法の差がいちばん出るのは、この影の部分である。

同じ雪を描いても、材料によってできることが違う。

九点を、白の作り方で分ける

九点の白の作り方を分けたい。

塗り残して作ったものが三点。

広重の版画、雪竹の掛軸、春信の版画。

いずれも、紙か絹の色を残している。

塗って作ったものが五点。

月光の水彩、青い紙の習作、そして油彩の三点。

そして、その両方を使っているものが一点。

コークックの冬景色である。

雪の面は白を塗り、空の明るい部分は下地を生かしている。

白は、いちばん強い

最後に、白という色の性質について書きたい。

白は、画面のなかでいちばん明るい。

そして、いちばん目を引く。

だから、白が広いと、他のものが見えにくくなる。

広重の版画では、白が九割を占める。

そこに置かれた色は、ごく少ない。

多く置くと、白の効果が薄れるからである。

一方、油彩の三点では、白が半分ほどである。

木、建物、人、空。

他の要素が多い。

白の面積と、他の要素の量は、反比例する。

そして、雪の絵がしばしば簡素に見えるのは、そのためである。

描くものを減らさないと、画面が壊れる。

第六回で、赤富士が遠近の約束を破っていると書いた。

雪の絵も、別の約束を破ることがある。

手前が白く、奥が暗くなる。

ふつうと逆である。

次の回では、月を見たい。

月も白い円である。

そして、円を作る方法は、雪とはまた違う。

雪の絵に、人がいる理由

九点のうち、人がいるものは七点である。

いない二点は、雪竹の掛軸と、青い紙の習作である。

前者は植物だけを描いており、後者はそもそも雪の絵ではない。

つまり、雪の風景には、ほぼ必ず人がいる。

これには理由がある。

一つは、大きさの目盛りが要ることである。

雪の面には、比べるものがない。

もう一つは、寒さを示すためである。

雪そのものは、冷たさを持たない。

見ただけでは、温度が分からない。

しかし、人が身をかがめていれば、寒いと分かる。

蓑を着ていれば、なお分かる。

九点の人物を見ると、いずれも身を縮めている。

前かがみになり、頭を下げる。

その姿勢が、寒さを伝える。

そして、三つ目の理由がある。

雪の中を進むのは、労力が要る。

だから、雪の絵には移動する人が描かれやすい。

歩く人、馬に乗る人、荷を運ぶ人。

止まっている人は少ない。

九点のうち、座っている人がいるのは室内の一点だけである。

外の八点では、いずれも人が動いている。

空の色が、雪の色を決める

九点の空を見比べたい。

灰色の帯が一点。

淡い水色が二点。

濃い青が一点。

厚い雲が二点。

灰色と桃色が混ざるものが一点。

そして、空のないものが二点。

室内の一点と、青い紙の習作である。

空が明るければ、雪も明るい。

空が暗ければ、雪も沈む。

雪は自分では光らない。

空からの光を返しているだけである。

だから、雪の明るさは空の明るさに従う。

月光の一点では、空が濃い青である。

その下の雪は、青みを帯びた白になっている。

昼の絵では、雪が黄色みを帯びる。

同じ雪でも、時刻で色が変わる。

第六回で、遠い山が空の色に近づくと書いた。

雪も同じで、空の色を受け取る。

白いものほど、まわりの色に染まりやすい。

つまり、白は最も明るく、最も影響を受けやすい色である。

そして、そのことは月にも当てはまる。

月もまた、自分では光っていない。

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