作品を知る

羊毛と麻は、裏に回る——ウィルキー・グロ・ヴュイヤールほか九点

テーブル掛け
ジェイン・シモントン・チャップマン《テーブル掛け》1820年ごろ。館の記録では、麻の織物。157.5×134.6センチ。番号は23.20.4。メトロポリタン美術館蔵。ジェイン・シモントン・チャップマン《テーブル掛け》メトロポリタン美術館蔵

大きな四角い布である。

157.5×134.6センチある。

色は一色である。

文様は、色ではなく織りで作られる。

大きな四角い区画が、格子に並ぶ。

区画の中は、細かい市松である。

区画と区画のあいだには、帯がある。

帯の中には、細い縞が走る。

四隅では、文様が向きを変える。

光の当たり方で、明暗が反転する。

糸の浮いている方向が違うためである。

面には、細かい織り目が見える。

縁は、まっすぐ切られている。

端の処理は、見えない。

折り返して縫ってあるらしい。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

材料は、麻の織物である。

色を使わずに、文様を出している。

同じ糸で、浮かせる場所を変えるだけである。

九点のうち、色を使わない布は、この一点である。

色がないので、汚れが目立つ。

洗うことが前提の布である。

麻は、煮ても縮まない。

麻布が、絵の下にある

五点目では、麻は支持体になる。

クレベール将軍とエジプトの一家(「ピラミッドの戦い」のための習作)
アントワーヌ=ジャン・グロ《クレベール将軍とエジプトの一家》1835年ごろ。館の記録では、麻布に油彩。額なしで352.1×97.8センチ。番号は1972.17。クリーヴランド美術館蔵。アントワーヌ=ジャン・グロ《クレベール将軍とエジプトの一家(「ピラミッドの戦い」のための習作)》クリーヴランド美術館蔵

きわめて細長い画面である。

額なしで352.1×97.8センチある。

縦が横の三倍以上ある。

画面は、二つに分かれている。

左の部分には、馬に乗った軍人がいる。

軍人は帽子をかぶり、腕を上げる。

馬は前脚を上げる。

その足元に、人が倒れている。

背後には、槍を持つ人物が並ぶ。

右の部分には、一家がいる。

中央に、上半身の裸の男が立つ。

男は、白い布をまとった人を抱える。

その足元に、子どもがしゃがむ。

奥には、岩と建物が見える。

色は、褐色と灰と赤である。

筆の跡が、荒く残る。

下地の布の目が、ところどころ透ける。

絵の具が薄い場所である。

館の記録では、この画家は千八百十年に、ある戦いを描いた巨大な絵を発表した。

その戦いは、失敗に終わった遠征の中の数少ない勝利だった。

主人公が失脚したあと、絵はしまわれた。

やがて新しい王が、それを歴史の館のために引き出した。

しかし、おそらく主人公の重みを減らすために、政府は画家に両端を継ぎ足させた。

この絵には、もとの絵から外されていたある将軍が入っているという。

館の記録は、そう説明している。

つまりこれは、絵の端に足された部分の習作である。

材料の欄には、麻布に油彩とある。

油絵の布は、多くが麻である。

綿より伸びにくく、張ったときに歪まない。

そして厚みが均一である。

この細長い形を張るには、その均一さが要る。

九点のうち、麻が絵の下にあるのは、この一点である。

板から布への移行については、板から布へで扱った。

麻の布を、守るための道具

六点目では、麻は守られる側である。

デカンタ台
ポール・ストア《デカンタ台》1814年。館の記録では、金めっきの銀。直径8.3センチ、高さ13.7センチ。番号は1941.598。クリーヴランド美術館蔵。ポール・ストア《デカンタ台》クリーヴランド美術館蔵

低い円い台である。

直径8.3センチ、高さ13.7センチしかない。

側面は、高い浮き彫りで埋まる。

浮き彫りには、葡萄の蔓が絡む。

葉は大きく、実が房になる。

蔓のあいだに、裸の子どもが二人いる。

一人は、空の杯を握る。

もう一人は、獣にもたれる。

獣は、大きな猫のようである。

上の縁には、細い輪が回る。

底には、平らな縁がある。

縁には、文字が刻まれている。

全体が金色に光る。

光は、浮き彫りの山にだけ強く当たる。

谷は暗く沈む。

館の記録では、この台は硝子の酒瓶の受け皿として使われた。

その下にあるきわめて高価で傷みやすい麻布の卓掛けを守るためである。

そして館は、彫られた図について書いている。

大きな葡萄の蔓と若い人物が、酒の神を思わせる。

一人の子どもは空の杯を握り、もう一人は豹にもたれているという。

館の記録は、そう説明している。

つまり銀の道具は、麻の布のために作られている。

守られる側のほうが、高価だった。

銀の台は、直径が8.3センチしかない。

卓掛けは、その何十倍もの面積がある。

面積あたりの値段では、布のほうが高い。

九点のうち、麻が守られる対象なのは、この一点である。

洗った麻布を、たたむ

七点目では、麻は洗濯物である。

洗濯物をたたむ
エドゥアール・ヴュイヤール《洗濯物をたたむ》1893年。館の記録では、リトグラフ。画面は23.9×32.2センチ。番号は1997.190。クリーヴランド美術館蔵。エドゥアール・ヴュイヤール《洗濯物をたたむ》クリーヴランド美術館蔵

横長の版画である。

画面は23.9×32.2センチしかない。

線は細く、灰色である。

画面の中央に、大きな白い面がある。

面は台の上に広がる。

布である。

布には、線がほとんど引かれていない。

端のところにだけ、短い線がある。

折り目らしい。

畳まれる途中の形である。

紙の白が、そのまま残る。

その左右に、人物がいる。

右の人物は、暗い服である。

輪郭だけが、細かい点で示される。

顔は、はっきりしない。

奥には、模様のある壁がある。

壁の模様は、小さな点の集まりである。

上のほうには、葉のような形が散る。

床と壁の境が、はっきりしない。

線が引かれていないためである。

白い布だけが、形を持つ。

館の記録では、この画家の仕事の多くは、当時の家庭の暮らしを描くことに向けられた。

母は、画家が幼いころに夫を亡くし、織物の意匠と裁縫で家族を支えた。

画家は、母が亡くなるまで一緒に暮らした。

そして家庭の経験に深く影響された。

しばしば母と姉を模特児にした。

洗濯物をたたむような、家事の途中の姿を描いたという。

館の記録は、そう説明している。

つまり布は、この画家にとって仕事の場でもあった。

この画家の絵の具については、膠の絵の具で扱った。