画家を知る

直径3センチから始まる——ジョン・シングルトン・コプリー

顔の描き方に、癖がある

パステルの一点を、もう少し見ておきたい。

顔の肌は、赤みと灰色を細かく交互に置いて作られている。

頬の高い部分に赤、目の下に灰、鼻の脇に褐色。

粉を指でぼかして境目を消している。

一方、鬘の白は擦り付けるように置かれ、巻き毛の縁だけを強く出している。

つまり肌は柔らかく、鬘は硬く仕上げている。

材質ごとに扱いを変える判断が、十代の作品からすでに見える。

背景は暗い一色で、人物の輪郭がはっきり出る。

工房の背景の作り方と同じ考え方である。

二人の子どもを、対で描く

エリザベス・グリーンリーフ
ジョン・シングルトン・コプリー《エリザベス・グリーンリーフ》1753〜1754年。油彩・画布。縦54.6センチ、横45.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・シングルトン・コプリー《エリザベス・グリーンリーフ》メトロポリタン美術館蔵

幼い少女が、卓の前に座っている。

白い絹の服に、桃色の布が腰から流れる。

胸元と袖に白いレースの縁飾り。髪に小さな花飾りが挿してある。

両手で白い薔薇の束を持っている。

背景は暗い緑の垂れ布と、右奥に開ける空と樹。

ジョン・グリーンリーフ
ジョン・シングルトン・コプリー《ジョン・グリーンリーフ》1753〜1754年。油彩・画布。縦54.6センチ、横45.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・シングルトン・コプリー《ジョン・グリーンリーフ》メトロポリタン美術館蔵

こちらは同じ寸法の対である。

幼い子どもが、赤い帽子に白い羽根飾りを付けている。

白い上衣にレースの襞飾り。腕に白い犬を抱いている。

犬は口を開け、子どもの胸に体を預けている。

背景には石の欄干と、緑の樹。

制作年は1753年から54年。画家は十五、六歳である。

十代の仕事としては、驚くほど整っている。

ただし人物の姿勢は硬く、手の関節の描写に不自然さがある。

対の肖像を同じ寸法で作る形式は、当時の標準だった。

同じ形式は、ヨーロッパの工房でも使われている。

その仕組みは別のコラムで扱った。

子どもの肖像には、当時の事情も関わる。

18世紀の乳幼児の死亡率は高い。

肖像は、成長の記録であると同時に、失う前の記録でもあった。

薔薇や犬といった小道具は、無垢を示す記号として使われる。

つまり画面の中の花や動物は、装飾ではなく意味を持っている。

ボストンという都市の事情

注文主について、少し書いておきたい。

18世紀半ばのボストンは、大西洋の貿易で栄えた港町である。

砂糖、糖蜜、酒、木材、そして人。

当時の大西洋交易には、奴隷の売買が組み込まれていた。

肖像を注文できた商人層の富は、その交易と切り離せない。

この点は、絵の主題には現れない。

しかし絵が成立した条件として、押さえておくべきだと考えている。

独立の前に、ロンドンへ渡る

1774年、画家はボストンを離れた。

イタリアを経てロンドンに落ち着き、そこで新しい主題に取り組む。

歴史画である。

前回のコラムで見たように、当時の絵の序列では歴史画が最上位だった。

肖像画家として成功していても、歴史画で認められなければ格が上がらない。

絵の序列と大様式については別のコラムで扱った。

事件を、歴史画として描く

ロンドンでの代表的な仕事を見たい。

ワトソンと鮫
ジョン・シングルトン・コプリー《ワトソンと鮫》1778年ごろ。油彩・画布。縦63.2センチ、横76.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・シングルトン・コプリー《ワトソンと鮫》メトロポリタン美術館蔵

港の場面である。

画面の右下に、大きな鮫が口を開けている。歯が白く並ぶ。

その前に、裸の若者が水面に浮かんでいる。両腕を上げ、顔を後ろへ向けている。

中央には舟が一艘。九人が乗っている。

一人が身を乗り出して手を伸ばし、一人が銛を構える。

舟の頂点に立つのは、黒い肌の男である。手にした縄を投げようとしている。

背景には港の建物と、帆船の帆柱が並ぶ。空は黄色く曇っている。

主題は実際に起きた出来事である。

若い船員が鮫に襲われ、片脚を失って生き延びた事件だという。

その本人が後年、この絵を注文したと伝えられる。

現代の事件を、大画面で扱う

この絵の新しさは、主題の選び方にある。

歴史画は本来、聖書や古代史の場面を描くものだった。

そこに、同時代の事件を持ち込んでいる。

構図は歴史画の作法に従っている。

人物を三角形に組み、動きの頂点を作り、光を主役に集める。

つまり形式は古典的で、内容は現代の出来事である。

この組み合わせが、当時の観客に強い印象を与えたと考えられる。

なお、画面の頂点に置かれた黒人の人物については、
多くの議論が積み重ねられている。

救助の中心に配された理由、実際の人物との関係、当時の社会での位置づけ。

いずれも解釈が分かれており、本稿で結論は述べない。

構図の頂点にいるという事実だけを、まず確認しておきたい。

寸法についても書いておきたい。

この一点は縦63.2センチ、横76.5センチである。

同じ主題の、はるかに大きな版が別の館にある。

つまり画家は、同じ場面を寸法を変えて複数制作している。

大画面は展覧会で見せ、小さな版は個人に売る。

反復と寸法の変換は、装飾画でも肖像でも見られる方法である。

同じ構図を寸法を変えて作る話は別のコラムでも扱った。