画家を知る

借りてきた品格——ジョシュア・レイノルズの大様式

レイノルズの肖像の姿勢は、古代彫刻や旧作から借りられている。寸法は注文の等級であり、値段の表でもあった。等身大の全身像から子どもの肖像まで、大様式の中身を九点で確かめる。絵具の実験とその代償にも触れておきたい。

ジョージ・K・H・クースメイカー大尉
ジョシュア・レノルズ《ジョージ・K・H・クースメイカー大尉》メトロポリタン美術館蔵

馬の前で、脚を組む

一枚の肖像から始めたい。

ジョージ・K・H・クースメイカー大尉
ジョシュア・レイノルズ《ジョージ・K・H・クースメイカー大尉》1782年。油彩・画布。縦238.1センチ、横145.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョシュア・レノルズ《ジョージ・K・H・クースメイカー大尉》メトロポリタン美術館蔵

縦2メートル38センチ。等身大を超える大きさである。

画面の中央に、赤い上着の男が立っている。

軍服である。金の飾り紐が胸に並び、白いズボンに黒い長靴を履いている。

姿勢を見てほしい。

背を太い樹の幹に預け、脚を組んでいる。

左手は腰のあたりで手綱を握り、右手は下に垂れている。

視線は左へ向き、こちらを見ていない。

その左に、馬の頭がある。

栗色の馬が首を下げ、鼻先を地面に近づけている。

背景は暗い樹叢で、左上の隙間から灰色の空が覗く。

この姿勢は、どこから来たのか

軍人の肖像である。しかし直立していない。

脚を組み、樹にもたれている。緊張のない姿勢である。

これは偶然の姿ではない。

18世紀のイギリスの肖像画には、こうした型が繰り返し現れる。

古代の彫刻や、過去の巨匠の絵から借りた姿勢である。

たとえば古代の彫像には、片脚に体重をかけて立つ型がある。

その姿勢を借りれば、モデルは古代の英雄に近い佇まいになる。

つまり品格を、外から持ってきている。

もう一つ、馬の役目も考えたい。

馬は身分と職務を示す道具である。

騎兵の将校であることを、馬の存在だけで伝えられる。

ただし馬は主役ではない。首を下げ、顔の半分しか見えていない。

人物の背後に配し、姿勢の邪魔をしないよう抑えている。

小道具は情報を運ぶが、画面の主役にはしない。

肖像画の構成では、この配分が重要になる。

背景の樹も同じ役目である。垂直の幹が、立つ人物を支えている。

「大様式」という考え方

この方法には名前がある。

英語で「グランド・マナー」、日本語では大様式などと訳される。

肖像画に歴史画の格式を与える描き方を指す。

歴史画とは、聖書や古代史の場面を大画面に描くものである。

当時の絵の序列では、歴史画が最上位に置かれていた。

肖像はその下、風景や静物はさらに下だった。

だから肖像画家は、格を上げる工夫をする。

姿勢を彫刻から借り、衣を古代風にし、背景に廃墟や樹を置く。

そうすれば、注文主の顔が英雄の体に乗ることになる。

この方法には批判もあった。

同時代の画家の中には、実際の姿を写すべきだと主張する者もいた。

借用は、真実の記録から離れるという批判である。

一方で、借用を擁護する立場もあった。

自然をそのまま写すだけでは、絵は理想に届かないという考え方である。

この対立は、その後の絵画論にも引き継がれていく。

写実と理想のどちらを取るかは、いまも議論の種である。

大きさが、姿勢を要求する

寸法の効果も確かめておきたい。

縦2メートル38センチの画面では、人物がほぼ等身大で描かれる。

見る人は、絵の前に立つと相手と向き合う関係になる。

だから姿勢が重要になる。直立していれば威圧的に、崩していれば親しげに見える。

この一点が脚を組んでいるのは、その調整だろう。

軍服の格式と、姿勢の気楽さを組み合わせている。

権威を示しつつ、近づきやすさも残す。

注文主の望みは、たいていこの両方である。

描いたのは、美術院の初代会長

ジョシュア・レイノルズは1723年に生まれ、1792年に没した。

1750年から52年にかけてイタリアに滞在し、古代とルネサンスの作品を見ている。

帰国後はロンドンで肖像画家として成功した。

1768年に王立美術院が設立されると、初代の会長に選ばれている。

美術院では講話を行い、若い画家に「手本を学べ」と説いた。

過去の名作から姿勢や構成を借りることは、彼にとって正当な方法だった。

王立美術院の設立と、そこに入れなかった人々については
別のコラムで扱った。

問い——借りた品格は、何を作ったのか

ここから本稿の問いに入りたい。

当サイトが公開するこの画家の作品は19点ある。

そのほとんどが肖像である。

寸法と姿勢を並べると、借用の仕組みが見えてくる。

そして、その仕組みが何をもたらしたかも読める。

以下、順に確かめていきたい。

先に結論を書いておく。

この画家の肖像は、寸法と姿勢の両方に規格があった。

寸法は市場の等級、姿勢は過去の作品の型である。

規格の中で、顔だけが一人ずつ違う。

同じ寸法の肖像が、並んでいる

まず寸法である。

ジョン・マスターズ
ジョシュア・レイノルズ《ジョン・マスターズ》1777〜1780年ごろ。油彩・画布。縦238.5センチ、横147.3センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョシュア・レノルズ《ジョン・マスターズ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦238.5センチ、横147.3センチ。

冒頭の軍人像と、ほぼ同じ寸法である。

若い男が野外に立っている。

茶色の上着に、黄色い刺繍の胴着。紺のズボンに白い靴下。

右手に細い杖を突き、左手に黒い帽子を持っている。

顔は正面を向き、口を閉じている。髪は白く粉を振ってある。

背後は空である。灰色の雲が広く、下方に低い木立と池が見える。

足元は土の道で、右下に小さな草花が描かれている。

エリザベス・デルメ夫人と子どもたち
ジョシュア・レイノルズ《エリザベス・デルメ夫人と子どもたち》1777〜1779年。油彩・画布。縦238.4センチ、横147.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョシュア・レノルズ《エリザベス・デルメ夫人と子どもたち》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

こちらも縦238.4センチ、横147.2センチである。

三点が、ほぼ同じ寸法で作られている。

母親が樹の根元に座り、二人の子どもを抱いている。

桃色の絹の服が大きく広がり、画面の下半分を占める。

左の子は赤い服の男児で、母の膝に寄る。

右の子は白い服で、母の腕に抱かれ、足元に犬がいる。

背後には巨木の幹が二本。右奥に石の欄干と、明るい風景が開ける。