踊っていない踊り子——ルノワール・カウフマン・ドガほか九点

小さな油彩である。
縦22.8センチ、横18センチ。
全体が、黄褐色に沈んでいる。
上のほうに、細い木が数本立つ。
枝が空へ広がる。
空は、明るい黄色である。
画面の中ほどに、人物が三人ほどいる。
輪になって、手をつないでいるように見える。
輪郭ははっきりしない。
体の形は、暗い影として置かれる。
下のほうに、もう一人いる。
こちらは、しゃがんでいるようにも見える。
館の記録は、支持体の作りを書いている。
布に描き、それを繊維板に貼る。
第十六回でも、貼り替えの例を見た。
習作の話で扱った一点は、紙から布と紙へ貼られていた。
この一点では、輪郭がぼやけている。
だから、動いているようにも、止まっているようにも見える。
判断がつかない。
そして、その曖昧さがこの絵の性格になっている。
衣が、踊りを見せる
九点の衣も数えた。
裾が広がる衣を着ているのが五点。
体に沿う衣が二点。
制服が一点である。
裾の広がる衣が多いのには、理由がある。
回れば、布が遠心力で開く。
止まれば、垂れる。
つまり、裾の形が動きの有無を示す。
冒頭の一点では、裾が大きく広がっている。
だが、これは布の作りによる広がりである。
薄い布を重ねて、はじめから広げてある。
回った結果ではない。
そして、足はそろえられている。
つまり、衣は踊りの形をしているが、体は止まっている。
その組み合わせが、この絵の特徴だと思う。
館の記録は、そこには触れていない。
書かれているのは、題と、技法と、寸法と、出所の行である。
古代の型を借りた一点では、事情が違う。
そちらでは、手に持った布が頭上で弧を描く。
布は、体から離れている。
離れた布は、風か動きがなければ落ちる。
だから、動いていると読める。
同じ布でも、体に付いているか離れているかで意味が変わる。
第十九回で、布の襞の作り方を扱った。
布の話で見たとおり、垂れた布と翻る布は線の数が違う。
踊りの場面を、記録する

摺物は、配るために刷られた版画である。
第十二回と第十回でも、摺物を見た。
売り物ではないので、部数が少ない。
そのぶん、彫りと摺りに手をかけられる。
この一点でも、提灯の丸が正確に並ぶ。
正方形に近い版画である。
上のほうに、赤と黒の丸い提灯が並ぶ。
その下に、板の間がある。
右に、三人の人物がいる。
いずれも、袖を大きく振っている。
体をひねり、脚を開く。
黒っぽい衣を着る。
左に、もう一人いる。
こちらは、模様の多い衣を着る。
腰を落とし、腕を横へ伸ばす。
床の手前にも、赤い帯と丸い模様がある。
館の記録によれば、これは詩と絵を組み合わせた版画である。
特別な出来事を祝うために作られたという。
そして、ある茶屋で詩人が芸妓と踊る場面だと記録は書く。
これは館の記述である。
館の記録は、これを五枚続きの二枚目とする。
つまり、左右にまだ四枚ある。
第十七回で、続きものから離れた一枚を扱った。
一枚だけを見ると、場面の全体が分からない。
九点のうち、踊りの最中がはっきり分かるのは、この一点と水兵の一点だけである。
踊りを、型に流し込む

白っぽい陶器の像である。
高さ27.9センチ。
人物が立つ。
長い衣が、体を包む。
その裾が、下で広がる。
腕は、頭の上へ上げられる。
肘が曲がり、両手が頭の後ろで合う。
顔は、腕のあいだから見える。
体は、わずかにねじれる。
台は、円い低い形である。
釉薬は、うすい黄白色である。
表面に、細かい貫入が見える。
館の記録は、技法を「型で作った」と書いている。
つまり、同じ形をいくつも作れる。
第十五回で、複製と反復を扱った。
彫刻の複製は、型から始まる。
そして、館の記録によれば、この工房はこの都市の近くにあった。
九点のうち、この館の地元で作られたのは、この一点だけである。
踊りの道具

正方形に近い紙である。
上半分に、文字が並ぶ。
細かく、何行もある。
下半分に、扇の形が二つ描かれる。
上の扇は、赤い地に黒い丸が並ぶ。
下の扇は、青緑の地に、白と黒の模様がある。
左のほうに、水色の扇の端が見える。
そこに、円い紋がある。
右下に、印がある。
人は描かれていない。
つまり、これは道具の図案である。
第十九回で、扇の形を扱った。
扇の話で見たとおり、扇は開けば面になる。
その面に、絵を描く。
踊りに使う扇は、遠くからも見える必要がある。
だから、模様が大きい。
この一点でも、丸と面だけで作られている。
細かい絵はない。
用途が、意匠を決めている。