美術史・技法

踊っていない踊り子——ルノワール・カウフマン・ドガほか九点

踊りは動きだが、絵は動かない。九点で、どの瞬間が選ばれたかを数えたい。踊っている姿は五点で、残りは立っているだけか、道具か、舞台である。足の位置と腕の非対称が、動きを決めている。踊りの語で拾った外れとして、舞台装置の図も一点混じっている。

踊り子
ピエール=オーギュスト・ルノワール《踊り子》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

踊り子が、踊っていない

大きな油彩である。

縦142.5センチ、横94.5センチ。

薄い緑と青の背景の前に、少女が立つ。

淡い青の衣を着ている。

上半身は体に沿い、腰から下が大きく広がる。

薄い布が、幾重にも重なる。

肩は出ている。

腕には、金の輪がある。

髪は栗色で、肩に垂れる。

頭に、青い飾りが付く。

顔は正面を向き、目はこちらを見る。

両足は、床にそろえて置かれる。

薄い色の靴を履く。

つまり、動いていない。

踊り子
ピエール=オーギュスト・ルノワール《踊り子》1874年。館の記録では、布に油彩。142.5×94.5センチ。額を含めて164.1×116.2センチ。番号は1942.9.72。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ピエール=オーギュスト・ルノワール《踊り子》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

館の記録は、額を含む寸法も書いている。

164.1×116.2センチである。

絵そのものより、縦横それぞれ二十センチ以上大きい。

出所の行には、大きな収集の名がある。

二十世紀の前半に、一括で館へ入った一部である。

第十八回で、そうした一括の動き方を扱った。

踊りは、動きである。

だが、絵は動かない。

一枚の画面は、一つの瞬間しか持てない。

だから、踊りの絵にはいつも同じ問題がある。

どの瞬間を選ぶか、である。

この一点の答えは、踊っていない瞬間だった。

九点を並べて、その選び方を数えたい。

第十五回で、動きの示し方を扱った。

動く体の話では、五つの方法を数えた。

踊りの絵でも、同じ方法が使える。

だが、選ばない絵も多い。

踊る姿勢を、型として描く

テルプシコレに扮して踊る若い女性
アンゲリカ・カウフマン《テルプシコレに扮して踊る若い女性》1780年ごろ。館の記録では、布に油彩。91.5×70.8センチ。番号は2025.3。クリーヴランド美術館蔵。アンゲリカ・カウフマン《テルプシコレに扮して踊る若い女性》クリーヴランド美術館蔵

この作者は、十八世紀に活動した女性の画家である。

館の記録は、歴史の主題が男性の領分だった時代に成功したと書く。

これは館の記述である。

当サイトにも、この作者に触れた記事がある。

九点のうち、名前の分かる女性の作者はこの一人だけだった。

暗い木立を背にして、人物が立つ。

淡い赤の長い衣を着る。

胸元が開き、腰に帯を締める。

裾が足元まで落ちる。

両手を上げ、薄い布を広げている。

その布が、頭の上で弧を描く。

顔は、やや左を向く。

髪は頭の上でまとめられ、飾りがある。

足は、片方が前へ出る。

つま先が地面に触れる。

体は、わずかに右へ傾く。

館の記録によれば、この姿勢は古代の壁画から来ているという。

発掘されたばかりの遺跡の絵が、当時流行していた。

そして館は、この作者が肖像と歴史の主題で成功したと書く。

これは館の記述である。

こちらで確かめられるのは、布が頭上で広がっている、ということだ。

第十九回で、布は動きを描く道具だと書いた。

布の話で見たとおり、体はそれほど動かない。

ここでも、動いているのは布である。

体は、片脚に体重を乗せて立っているだけだ。

第十一回で扱った立つ型と、ほとんど同じである。

館の記録の番号を見てほしい。

2025.3である。

つまり、ごく最近館に入った作品だ。

九点のうち、いちばん新しい受け入れである。

稽古場を描く

コントラバスのある稽古場の踊り子たち
エドガー・ドガ《コントラバスのある稽古場の踊り子たち》1882年から85年ごろ。館の記録では、布に油彩。39.1×89.5センチ。番号は29.100.127。メトロポリタン美術館蔵。エドガー・ドガ《コントラバスのある稽古場の踊り子たち》メトロポリタン美術館蔵

出所の行には、前の回にも出た収集の名がある。

手紙の話ではなく、第九回と第十四回である。

同じ収集から、複数の作品が館に入っている。

一人の関心が、館の一分野を作る例である。

第十八回で、その仕組みを扱った。

極端に横長の画面である。

縦39.1センチ、横89.5センチ。

横が縦の二倍を超える。

画面の左半分は、床と壁である。

床は褐色で、何も置かれていない。

上の壁は、緑がかった色で塗られる。

右半分に、踊り子が数人いる。

青と白の衣を着ている。

腰から下が広がる。

一人は、前かがみになる。

一人は、腕を上げる。

一人は、こちらへ背を向ける。

そして、画面の中央の下に、楽器の一部が見える。

黒っぽい胴と、渦巻きの飾りがある。

大きな弦楽器の首である。

その手前に、赤茶色の面がある。

この一点も、踊りの最中ではない。

稽古の合間である。

当サイトには、この作者を扱った記事がある。

踊っていない踊り子の話で書いたとおり、この作者は動きの前後を選んだ。

そして、この一点にはもう一つ特徴がある。

楽器が、画面の前に大きく置かれている。

見る側の位置が、楽団の席になる。

つまり、見ている人は舞台の下にいる。

第十九回で、視点の位置を扱った。

手前に何かを置くと、見る側の場所が決まる。

動きの最中を選ぶ

踊る水兵たち
チャールズ・デムス《踊る水兵たち》1917年。館の記録では、黒鉛の上に水彩。紙全体20.4×25.7センチ。台紙を含めて21.4×26.3センチ。番号は1980.9。クリーヴランド美術館蔵。チャールズ・デムス《踊る水兵たち》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、台紙の寸法も書いている。

紙が20.4×25.7センチ。

台紙が21.4×26.3センチである。

一センチほど大きい台紙に貼られている。

紙の作品は、こうして支えられて保管される。

横長の水彩である。

小さい。

縦20.4センチ、横25.7センチ。

画面に、六人ほどの人物がいる。

いずれも、青い制服を着ている。

襟が四角く、背中に垂れる。

体は、互いに絡み合う。

腕が上がり、脚が交差する。

一人は、後ろへ体を反らす。

床には、白と黒の市松模様がある。

背景は、白と灰色の面に分かれる。

色は薄く、輪郭の線が透ける。

館の記録によれば、これは夜の街での見聞から生まれた絵だという。

そして、ほとんど同じ構図がもう一点あると書かれる。

これは館の記述である。

この一点は、動きの最中を選んでいる。

九点のうち、体が大きく崩れているのはこの一点だけである。

第十五回で、輪郭を崩す方法を扱った。

ここでは、輪郭は残っている。

崩れているのは、姿勢のほうだ。