画家を知る

舟を、画室にする——シャルル=フランソワ・ドービニー

森の中の一点

日の差す流れのある風景
シャルル=フランソワ・ドービニー《日の差す流れのある風景》1877年ごろ。油彩・画布。縦63.8センチ、横47.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。シャルル=フランソワ・ドービニー《日の差す流れのある風景》メトロポリタン美術館蔵

この一点は縦長である。縦63.8センチ、横47.9センチ。

樹が両側から迫り、上部で枝が交差している。

葉は暗い緑で、隙間から明るい空が覗く。

中央奥に小さな家があり、白い壁が光を受ける。

手前には細い流れがあり、水面に空が映る。

左の岸に人影が一つ。青い服が点として見える。

つまり視線は奥へ導かれる構成である。

横長の川の絵とは、まったく作りが違う。

同じ画家が、主題に応じて画面の形を変えている。

板という支持体の性質

支持体についても書いておきたい。

公開分の多くが板に描かれている。

板は硬く、湿気で撓まない。屋外での作業に向く。

一方、大きな寸法には向かない。反りと割れが生じやすい。

だから板の作品は、たいてい小ぶりである。

そして表面が滑らかなので、細い線が引きやすい。

葦や草の描写に、この性質が効いている。

一方、画布は目が粗く、絵具が引っかかる。

そのぶん筆の跡が残りやすく、大きな面に向く。

つまり材料の選択が、描写の細かさを左右している。

この画家の場合、板の小品では細部が明確で、
画布の大作では面が広く扱われている。

支持体の性質については別のコラムでも扱った。

批評と評価の変化

同時代の評価にも触れておきたい。

この画家の絵は、当時「未完成だ」と批判されることがあった。

輪郭が曖昧で、細部が省かれているという理由である。

一方で、印象派の若い画家たちは高く評価した。

野外で描き、光を主題にする方法の先例として見たのである。

つまり同じ絵が、基準の違いで正反対に読まれた。

仕上げの基準が時代とともに動くことは、
別のコラムでも扱った。

批評の言葉は、絵より制度に近いところで作られている。

見立て——足場が、構図を決める

まとめておきたい。

この画家の絵には、二つの型がある。

一つは極端に横長で、水平線が低く、水が広い。

もう一つは正方形に近く、樹が両側を囲み、奥へ導く。

前者は舟の上から、後者は岸や森の中から描かれたと考えられる。

つまり足場の位置が、構図の型を決めている。

野外で描く画家にとって、どこに立つかは技法の一部である。

道具を運べる範囲、座れる場所、風の当たり方。

それらが積み重なって、その画家の「らしさ」が作られていく。

移動する画室という発想

舟を画室にする発想は、後の世代にも引き継がれた。

同じ時期の画家たちも、川を主題に選んでいる。

水面の反射、揺れる光、対岸の樹。

いずれも印象派の絵で繰り返される要素である。

その意味で、この画家は前の世代と後の世代のあいだにいる。

森の中で写生した世代と、光の変化を追った世代の中間である。

印象派への橋渡し

美術史の位置づけにも触れておきたい。

この画家は、森の中で写生した世代と、光を追った世代のあいだにいる。

前の世代は自然を主題にしながら、画室で仕上げた。

後の世代は、屋外で完成させ、光の変化を追った。

その中間で、舟を画室にした画家が野外制作を押し進めた。

つまり技術と習慣の移行を、実務で担った人物である。

様式の分類では目立たないが、方法の歴史では要になる。

誰が最初かではなく、誰が定着させたかを見ると、位置づけが変わる。

版画も手がけている

他の技法にも触れておきたい。

この画家は銅版画も制作している。

川と樹の主題を、線だけで表す仕事である。

線で描くと、色による空気の表現が使えない。

代わりに、線の密度で明暗を作ることになる。

つまり同じ主題を、別の手段で解き直す作業である。

油彩で面を扱い、版画で線を扱う。

二つの技法を往復することは、観察の訓練にもなる。

暮らしへ——水面の高さから、撮ってみる

最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。

池や川のそばで、水面の近くまで身をかがめて撮ってみてほしい。

立って撮るときとは、まったく違う画面になる。

対岸が低く、水面が広くなる。空も広く入る。

そして水の反射が、画面の半分を占めるようになる。

十九世紀の画家が舟の上で得ていたのは、この視点である。

飾るときは、横に長い絵は目の高さに水平に掛けるとよい。

水平線が視線と揃うと、画面の中に入りやすくなる。

もう一つ。同じ場所を朝と夕方に撮ってみるのも面白い。

朝は色の差が小さく、夕方は明暗の差が大きい。

同じ川が、まったく違う絵になる。

十九世紀の画家が繰り返し試していたのは、この差である。

そして、水辺では風の有無も確かめてほしい。

無風なら反射は鏡になり、風があれば縦に伸びる。

反射の崩れ方だけで、その日の風の強さが記録できる。

群として見ると、足場が見える

最後に、見方をまとめておきたい。

14点を縦横比で並べると、二つの型に分かれる。

極端な横長と、正方形に近い画面である。

寸法という数字だけで、制作の場所が推測できる。

寸法欄は、そういう読み方にも使える。

公開画像は、そのための道具である。

手元で寸法を並べ、縦横比を計算することができる。

展示室で定規を当てるわけにはいかない。

数字を扱う作業は、公開記録があってはじめて成立する。

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