画家を知る

肖像が、風景を運ぶ——ゲインズバラ

寸法が、値段の等級になる

寸法の意味を整理したい。全身像、四分の三身、半身、頭部。

肖像画には、こうした段階があった。段階ごとに値段が決まる。

つまり、依頼主は予算に応じて大きさを選ぶ。

同じ仕組みは、別のコラムで扱った十九世紀アメリカにも続いている。

商習慣として、長く受け継がれた。

対の肖像は、額まで揃う

対になる二点を見たい。

フランシス・バセット、ダンスタンヴィル卿
トマス・ゲインズバラ《フランシス・バセット、ダンスタンヴィル卿》1786年ごろ。油彩・画布。縦127センチ、横101.6センチ。額を含めて縦151.1センチ、横127センチ、厚さ8.3センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・ゲインズバラ《フランシス・バセット、ダンスタンヴィル卿》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

男性が立ち、こちらを向く。紺の上着に金のボタンが並ぶ。

首元には白い布が重なり、袖口にレースが覗く。

黄褐色のズボンをはき、左脇に黒い帽子を抱える。右手に細い杖を持つ。

背後は木立と岩で、右上に葉が茂る。

妻の肖像

フランシス・スザンナ、ダンスタンヴィル夫人
トマス・ゲインズバラ《フランシス・スザンナ、ダンスタンヴィル夫人》1786年ごろ。油彩・画布。縦127.2センチ、横101センチ。額を含めて縦151.1センチ、横127センチ、厚さ8.3センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・ゲインズバラ《フランシス・スザンナ、ダンスタンヴィル夫人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

画面の寸法は、夫の肖像とほぼ同じである。127.2×101センチ。

そして額の寸法は、完全に一致する。151.1×127×8.3センチ。

つまり、二点は対として作られ、対として額装されている。

女性は椅子に座り、淡い黄のドレスを着る。羽根飾りの付いた帽子をかぶる。

膝に青い布が掛かり、手に羽根扇を持つ。首に真珠の飾りがある。

背景は暗い木立で、上部に黄色い葉が見える。

木立の色

背景の色を見ておきたい。この二点の背景は、いずれも暗い緑と褐色である。

黄色く色づいた葉が、上部に少し入る。季節としては秋に見える。

ただし、実際の季節を写したとは限らない。背景は工房で描かれることも多い。

暗い背景は、人物の輪郭を際立たせる。実用の選択でもある。

夫婦の対は、向きで揃える

配置についても触れておきたい。夫は左を向き、妻は正面からわずかに右を向く。

並べて掛ければ、二人は同じ方向を向く形になる。

対の肖像では、内側を向かせる配置が多い。この二点は、その典型ではない。

ただし、当初どう掛けられたかは記録されていない。断定は避けたい。

対の肖像については、別のコラムでも扱った。

子どもの肖像

主題の幅を見ておきたい。

猫を抱く少年——朝
トマス・ゲインズバラ《猫を抱く少年——朝》1787年。油彩・画布。縦150.5センチ、横120.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。トマス・ゲインズバラ《猫を抱く少年——朝》メトロポリタン美術館蔵

暗い森の中に、子どもが一人立つ。

白い簡素な衣を着て、右腕を上げる。髪は乱れ、頬に光が当たる。

足元に猫がいる。灰色の縞で、子どもの脚に体を寄せる。

地面には赤い布が落ちている。画面の中で、唯一の強い色である。

背景は暗い。木の幹が縦に立ち、右奥にわずかに空が覗く。

題名に「朝」とある。時刻を主題にした連作の一部だと考えられる。

子どもを描くという主題

主題についても補いたい。18世紀後半のイギリスでは、子どもを主題にした絵が増える。

家族の肖像に子どもが加わり、子どもだけの一点も作られるようになる。

ただし、この一点は注文肖像ではない可能性がある。題名に個人名がなく、
「朝」という時刻が付されているためである。

つまり、特定の子どもの記録というより、主題としての子どもである。

記録の年代が、合わない一点

ここで、記録の問題に触れたい。

画家の娘メアリー
トマス・ゲインズバラに帰属《画家の娘メアリー》19世紀半ば。油彩・画布。縦43.8センチ、横35.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。トマス・ゲインズバラ《画家の娘メアリー》メトロポリタン美術館蔵

少女の胸像である。顔は右を向き、口元がわずかに開く。

髪は後ろでまとめられ、桃色の飾りが付く。淡い黄褐色の衣を着る。

背景は褐色で、何も描かれていない。

ここで、記録の年代を見てほしい。所蔵館は制作年を「19世紀半ば」と記している。

しかしゲインズバラは1788年に没している。年代と作者が、そのままでは両立しない。

小さな画面の肖像

寸法にも触れておきたい。この一点は縦43.8センチ、横35.2センチ。

これまで見てきた肖像の中で、最も小さい。壁に掛けるより、机に置く大きさに近い。

小さな絵は、近づいて見ることを前提にしている。その条件については、
別のコラムで扱った。

記録は、そのまま読む

この食い違いをどう扱うか。考えられるのは、後世の写しである可能性である。

あるいは、記録の年代が別の情報を指している可能性もある。

いずれにせよ、断定はできない。所蔵館の記録に、それ以上の説明はない。

だからここでは、食い違いがあるという事実を書くにとどめたい。

作者欄と制作年は、いつも整合しているとは限らない。番号や記録の読み方については、
別のコラムで扱った。

風景画を、見る

ここから、肖像以外の仕事に移りたい。

橋のある山の風景
トマス・ゲインズバラ《橋のある山の風景》1783〜1784年ごろ。油彩・画布。縦113センチ、横133.4センチ。額を含めて縦146.7センチ、横167.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・ゲインズバラ《橋のある山の風景》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の風景画である。縦113センチ、横133.4センチ。

中央に石の橋が架かる。アーチが一つ、川を跨ぐ。

橋の上に人と動物がいる。羊の群れらしき白い塊が並ぶ。

左奥に山が霞み、その上の空は淡い黄と桃色である。夕方の光だと考えられる。

右には岩と樹木が高く積み上がる。葉は褐色と緑が混ざる。

手前は暗く、草と石が重なる。