画家を知る

肖像が、風景を運ぶ——ゲインズバラ

額を含めた重量は66.7キロ。ゲインズバラの肖像は、背景の風景に手が込んでいる。九点を寸法で並べ、等級としての大きさと、肖像が風景を運ぶ構造を確かめる。制作年と作者が合わない一点にも触れる。風景画二点との関係も確かめておきたい。

リチャード・ブリンズリー・シェリダン夫人
トマス・ゲインズバラ《リチャード・ブリンズリー・シェリダン夫人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

額の重さが、66キロある

一枚の肖像から始めたい。

リチャード・ブリンズリー・シェリダン夫人
トマス・ゲインズバラ《リチャード・ブリンズリー・シェリダン夫人》1785〜1787年。油彩・画布。縦219.7センチ、横153.7センチ。額を含めて縦251.5センチ、横185.4センチ、厚さ14センチ。額込みの重量66.7キログラム。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・ゲインズバラ《リチャード・ブリンズリー・シェリダン夫人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

まず寸法である。縦219.7センチ、横153.7センチ。等身を超える全身像である。

そして所蔵館の記録には、珍しい項目がある。額を含めた重量が記されている。

66.7キログラム。大人一人分の重さである。

つまりこの絵は、二人がかりでなければ動かせない。壁に掛けるには、下地の補強も要る。

絵は、物である。持ち上げ、運び、留める必要がある。

屋外に座る女性

画面を見ていきたい。女性が一人、地面に腰を下ろしている。

衣は淡い桃色で、袖が膨らむ。腰に薄い青緑の帯を巻く。

髪は結わずに広がり、風に揺れている。顔はこちらを向くが、視線はやや外れる。

左に木立があり、幹が斜めに立つ。葉は褐色を帯び、風になびく。

右奥には空が広がる。雲が横に流れ、下端に淡い光が差す。

つまり、屋外の風景の中に人物が置かれている。

描いたのは、誰か

作者はトマス・ゲインズバラである。1727年にイングランド東部のサドベリーで生まれ、
1788年にロンドンで没した。

地方の町で仕事を始め、バースへ移り、最後にロンドンへ出た。移るたびに、
注文の規模と客層が変わっている。

同じ時期のロンドンには、王立美術院の初代会長となった画家がいた。二人は競合関係にあったとされる。

その画家の方法については、別のコラムで扱った。

同じ市場を、別の方法で分け合っていた二人である。

背景が、広い

構図の特徴を確かめたい。人物は画面の中央にいるが、面積の半分以上を風景が占める。

木、空、草地、遠くの丘。いずれも丁寧に描かれている。

肖像画としては、背景の比重が大きい。

背景を無地にする方法もある。その選択については、
別のコラムで扱った。

ここでは逆に、風景が主役を分け合っている。

髪と衣の描き方

筆づかいをもう少し見たい。髪は、細い筆で一本ずつ引かれている。

しかし束としては、大きな塊で置かれている。近くの一本と、遠くの塊が同居している。

衣も同様である。桃色の面を広く置き、その上に白い線を数本走らせる。

その線が、絹の光沢に見える。実際の襞を写しているわけではない。

見え方を作るための記号である。

問い——肖像画家は、何を描きたかったのか

ここで問いを立てたい。この画家は、肖像で名を成した。

当サイトの公開分18点も、その大半が肖像である。

しかし背景の風景は、明らかに手が込んでいる。純粋な風景画も残している。

肖像と風景。二つの仕事は、どう関係していたのか。

18点を並べて読みたい。

大きな全身像

もう一点、大きな肖像を見たい。

デヴォンシャー公爵夫人ジョージアナ
トマス・ゲインズバラ《デヴォンシャー公爵夫人ジョージアナ》1783年。油彩・画布。縦235.6センチ、横146.5センチ。額を含めて縦266.7センチ、横174.6センチ、厚さ14.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・ゲインズバラ《デヴォンシャー公爵夫人ジョージアナ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦235.6センチ。先の一点より、さらに大きい。

女性が立っている。白い衣を着て、腰に淡い緑の帯を締める。

右手を体の前で軽く下げ、左手は布を持つ。上体をわずかにひねる。

背後に赤いカーテンが下がる。左には石の柱が立ち、その下部が見える。

右奥には空と木立が覗く。青と白の雲が流れる。

つまり、室内の装置と屋外の風景が同居している。

白い衣が、画面を明るくする

色の設計も確かめたい。この肖像では、白い衣が画面の中心を占める。

周囲は暗い。赤いカーテン、灰色の柱、暗い木立。

つまり明るい面が中央に一つだけあり、視線がそこへ集まる。

同じ設計は、他の肖像にも見られる。淡い色の衣を中央に置き、背景を沈める。

明暗の配置は、色の選択より先に決まっている。

建築と風景を、同じ画面に置く

この組み合わせは、当時の肖像の型である。

柱とカーテンは、格式を示す装置である。屋外の空は、開放感を与える。

両方を入れることで、威厳と親しみを同時に出す。

姿勢や小道具を借りてくる方法については、
別のコラムで扱った。

同じ時代のロンドンで、二人の画家が同じ市場を分け合っていた。

半身像は、小さい

寸法の幅を見ておきたい。

トマス・グレアム夫人
トマス・ゲインズバラ《トマス・グレアム夫人》1775〜1777年ごろ。油彩・画布。縦89.5センチ、横69センチ。額を含めて縦118.1センチ、横97.8センチ、厚さ10.5センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・ゲインズバラ《トマス・グレアム夫人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦89.5センチ、横69センチ。全身像の三分の一以下の面積である。

女性が半身で描かれる。髪を高く結い上げ、真珠らしき飾りを挿す。

首元に金の鎖が下がり、胸に白いレースが重なる。

腕には毛皮のような柔らかい素材が掛かる。両手を体の前で組む。

背景は暗い木立で、右上に淡い光が差す。

手の見せ方

姿勢の型にも触れておきたい。半身像では、手をどう収めるかが課題になる。

画面が狭いため、手が入りきらないことがある。

この一点では、両手を体の前で組ませている。腕が体の輪郭の内側に収まる。

つまり、狭い画面に合わせて姿勢が選ばれている。

姿勢は人柄の表現である前に、構図の解決策でもある。