作品番号の読み方——ターナーやホイッスラーの記録から
番号は、所有の履歴の一部を示す
この例から分かることがある。
番号は「その館に入った年」を示すだけである。
作品がそれ以前にどこにあったかは、番号では分からない。
だから番号と受け入れ記録の両方を読む必要がある。
番号が示すのは館の側の事実で、来歴は別に記録されている。
この二重性は、当サイトの記述にも影響する。
作品の頁には、提供元と権利の状態、そして確認した日付を記している。
制作年は提供元の記録に従い、来歴には踏み込まない。
来歴を要約すると、途中の所有者を落としてしまう危険があるからだ。
必要な場合は、記事の中で個別に触れるようにしている。
公開画像を扱う責任については別のコラムで扱った。
番号は、貸し出しでも使われる
番号の実務についても書いておきたい。
作品が他館へ貸し出されるとき、書類には番号が記される。
保険の評価額、輸送の梱包、展示室の位置。いずれも番号で管理される。
修復の記録も番号に紐づく。
つまり番号は、作品に関する全ての記録の索引になっている。
だから番号を変えることは避けられる。
部門が変わっても、館名が変わっても、番号は残る。
作品の一生を通して変わらない唯一の記号である。
人の戸籍に近い役目を持っている。
メトロポリタン美術館の形式

こちらの番号は80.1.12である。
年が二桁で書かれている。1880年を意味する。
19世紀から20世紀半ばまでの受け入れは、この二桁の形式になっている。
1880年の第一群の12番目、という読み方になる。
受け入れ記録には「E・L・マグーン師の寄贈、1880年」とある。
つまり番号と記録が一致している。
描かれているのは山地の眺めである。
手前に樹と草地、中景に森、遠くに山並みが重なる。
空には雲が広がる。
白黒写真のため、色は分からない。
同じ画家の水彩については別のコラムで扱った。
2000年以降は、四桁になる
同じ館でも、現在の番号は四桁の年から始まる。
たとえば1999年の受け入れは1999で始まる。
つまり形式は途中で変わっている。
番号を見れば、いつごろの受け入れかがおおまかに分かる。
二桁なら20世紀の前半、四桁なら後半以降である。
もう一つ、番号の桁数にも意味がある。
三段の番号では、真ん中の数字が群を示す。
同じ年に複数の寄贈があれば、群の番号が増える。
つまり「80.1」と「80.15」があれば、その年に十五以上の受け入れがあったことになる。
番号の分布を眺めるだけで、館の活動の密度が推測できる。
番号の形式は、館の歴史を映す
四つの提供元の形式を並べてみたい。
三段の形式は、年、群、通し番号を示す。
二段の形式は、年と通し番号だけである。
二桁の年で始まる形式は、20世紀前半までの受け入れに見られる。
つまり形式そのものが、その館の運営の歴史を示している。
新しく設立された館は、最初から四桁の年を使う。
古い館は、途中で形式を変えている。
そして館が別の館の収蔵品を引き継ぐと、新しい年の番号が振られる。
このとき、元の館の番号が併記されることもある。
つまり一つの作品に、二つの番号が残る場合がある。
移管や統合の履歴が、番号の形で保存されているということである。
番号を読むときは、形式の違いにも注意しておきたい。
群の番号が示すもの
三段の番号の真ん中の数字について、補っておきたい。
これは受け入れの単位を示す。
一人の寄贈者からまとまって入れば、一つの群になる。
購入であれば、購入の件ごとに群が作られる。
つまり群の数は、その年の受け入れの件数に近い。
年ごとの群の数を数えれば、館の活動量が推測できる。
数字の並びを眺めるだけで、経営の様子が透けて見えることになる。
事務の記号は、思ったより多くを語る。
シカゴ美術館の形式

こちらは二つの数字だけである。1924.127。
年と、その年の通し番号という形式である。
つまり1924年に受け入れた127番目、という意味になる。
群を示す数字がない。
画面には、鏡の前の女性が描かれている。
背を向け、右手で髪に触れている。
服は白で、襞が幾重にも重なる。首に黒い紐がある。
左には鏡の枠と、化粧道具の載った台。
背景は青灰色と桃色の筆で埋められ、輪郭がぼやけている。
薄い絵具で描かれた画面である。
同じ画家の仕上げについては別のコラムで扱った。
通し番号が大きいと、何が分かるか

こちらの番号は1955.2669である。
1955年の2669番目という意味になる。
四桁に近い通し番号が付いている。
つまりこの年に、二千点以上が受け入れられている。
版画や素描は、まとまった数で寄贈されることが多い。
一つの寄贈で数百点、数千点が入る。
だから番号の下の桁が大きくなる。
作品は石版画である。
黒い線だけで、二人の人物が描かれている。
右に山高帽の男。左に若い女性。
線は細く、途切れがちで、素描のような調子である。
下の余白に手書きの文字と署名がある。
刷りの部数や試し刷りを示す書き込みだろう。